第十六話 手遅れ
男はそれに答えるように丸テーブルを蹴り上げる。それは緩い放物線を描いて……こちらへ向けて飛んでくる!
「ぐおおっ!?」
間一髪。僕の方は部屋の中に踏み入っていたおかげでテーブルを躱すことができたが、後ろで扉を抱えていたリーゼルさんはそうもいかなかったようだ。
丁度ドア幅と同じくらいの大きさだったせいで、まともに直撃をくらってしまっている。まあ、彼の巨体なら心配はいらないだろう。問題は……前方に広がっている光景の方だ。
ネネ先輩が本気で腕を振り回し、長髪の男の方が、それを全ていなしている。部屋中がボロボロになり、窓ガラスが割れる。ネネ先輩はもはや人質のことなど目に入っていないような様子で、狂乱の叫び声を上げながら乱打を繰り返している。
そして、人質に攻撃が当たりそうになる度に長髪の男がそれをすべて防いでいる。
「どういうことだ……?」
もはや、どちらが人質を取っているのかわからないような状況。一瞬、僕の思考が停止した、その瞬間だった。
「CRR! ネネットを止めてください! 今すぐ!!」
「は、はい!」
その通りだ。このままでは人質が犠牲になってしまう。リーゼルさんは先ほどのテーブルの対処に手間取っているようだし、僕がなんとかしないと……!
「ひとまず、人質を安全な場所へ逃がします!」
「バカ! そうじゃありませんよ!」
何? 一体どういうことだ? ネネ先輩が戦っているこの状況で、人質を逃がす意外の選択肢があるのか?
あと思いつくのは加勢するくらいだけれど、この狭い部屋でそんなことをしても邪魔になるだけじゃないのか?
「人質はもう手遅れです! 今すぐネネットを連れて逃げてください!」
クリスタさんの言葉の意味を理解しようと、膝を付いた人質の方に目をやって、異様なことに気が付いた。人質の全てがネネ先輩の方へ両手の先を向けている。腕を縛られているわけでも、足を固定されているわけでもないらしく、片膝立ちになっているやつもいる。
不思議に思って、僕はつけっぱなしにしていたペンライトを彼らの方へ向け……クリスタさんの言葉の意味を理解することになった。
彼らの顔は、既に地球人のそれではなくなっていたのだ。
まるで、硫酸を頭から浴びたように顔がドロドロに溶けていて、腕の肉の一部は今まさに腐り落ちようとしている。
そして、そんなグロテスクな怪物たちが、今まさにネネ先輩ににじり寄り、その手を触れようとしている。
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