間話 エレベーター


 K鉄奈良駅ビル。

 どこでも見られるファミレスチェーンから、ここだけの高級料亭まで、色とりどりの飲食店が集うグルメビル。


 八階はオフィス街とは違って、内装にも華がある中華料理店だそうだ。

 そんな場所に僕らは……なんと一階からエレベーターで向かっている。


「……止まってないんですね」

「とはいえ、一番待ち伏せがしやすそうな場所です」

「だから俺が壁になるってわけだ」


 エレベーターの使用は、リーゼルさんの提案だ。

 擬態を解除してしまっている以上、あまり人目に触れるのは避けた方がいいというのと、こっちの方が早いから、というわけで。


 僕とネネ先輩は反対したけれど、クリスタさんが許可してしまったのでこうなっている。リーゼルさんは宣言通り、エレベーター入口に陣取ってくれてはいるのだけれど……はっきり言って狭すぎる。


 考えてみれば当たり前だ。ここには成人男性の体長を優に超える巨漢が二人集っているのだから。


 いやまあ、片方はおとこじゃなくてネネ先輩だし、彼女はせいぜい2mとちょっとくらいだからいいんだけど、リーゼルさんのほうがデカすぎるのだ。


 角が引っかかるせいで前傾姿勢だし、僕はエレベーターの隅に追いやられているし。ネネ先輩に至っては、角の方に物凄い嫌そうな顔をしながら貼り付けにされている。


「イライラは敵にぶつける……イライラは敵にぶつける……」


 しかもなにやら物騒なことを呟いているし……早く8階に付かないだろうか。そう思っていた矢先、思っていたよりも早く、エレベーターのチーンという音が聞こえた。


「ヒイッ!?」

「あ、済まないが見ての通り定員オーバーだ」


 僕からは何も見えないけれど、リーゼルさんのセリフからして多分、途中階で人が乗ろうとしきたんだろう。

 エレベーターを開けたら前傾姿勢の大カブトムシがいて、そいつが歯茎剥き出しで話しかけてくるなんて、地球人からしたらトラウマものだな。後で、処理班の人が何とかしてくれればいいけど。


「そろそろだ」


 リーゼルさんの言葉で、僕も気を引き締める。

 八階に付いた瞬間、爆発物を投げ込まれるなんてこともあるかもしれない。広いところに出たら、僕も擬態を解除する準備をしておかないと……


 そう思っていたところで、またエレベーターのチーンという音が聞こえた。


「ヒイッ!?」

「あ、済まないが」


 もういいよそれは。しかもよく見たらまだ7階だし。

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