第七話 集合
【SYSTEM】警告! 五感ペアリング……エラー!!!
【SYSTEM】警告! 擬態モジュール……エラー!!!
【SYSTEM】警告! 情報処理回線……エラー!!!
「付いたわね。ここが我々のショッピングセンターよ!」
二列のエレベーター。無限に思えるほど階が続く吹き抜け。ツルツルのタイル。練り歩く人々。オープンカフェ。アースカラーの雑貨屋。派手好きの服屋。真新しい本屋。唐突に挟まるレストラン。
「おええぇ」
頭も身体もぐわんぐわんで、ぶれまくった視界が目の前を舞う。最悪の気分だ。
「ちょっと! 吐かないでよ?」
「先輩はなんで平気なんですか……」
そうだ、思い出した。全身のセンサーがエラーを吐きまくるこの感覚……月の観察艦から地球にテレポートしたと同じじゃないか。
「いや……むしろなんでそんなになるのかわからないわ」
「そんなぁ……」
アニマはこういうのに強いんだろうか。それともメカニカがこういうのに弱いだけなんだろうか。答えはわからないけれどどっちにしろ、僕がテレポートの負荷に死ぬほど弱いことだけは確かだ。我ながら先が思いやられる。
「随分な大惨事ですね。二人とも」
僕が床のタイルに手をついて四つん這いになっていると、前方から声が聞こえた。
つられて顔を上げてみると、僕と同じようなスーツ姿が目に入る。僕と違うのは、その声が女性的で、髪の方も長く、緑色をしていることだろう。身長も、僕より一回り小さい。
「ともあれ、こうして会うのは初めてですね。CRR」
「ああ、誰だかわかりましたよ」
なるほど、たしかに彼女のことなら、そりゃあ僕も知っている。
「初めまして、オペレーター」
「どうも。今日はオフですがね」
すらっとしたスーツも、控えめなハイヒールも、果ては首元のネクタイまで黒一色の、いかにも仕事人って感じの身なり。
これでオフの日と言われても、あまりピンとは来ないけれど、これが彼女のファッションなのだろう。僕よりよほどエージェントらしい服装に、緑髪がよく映えている。
「改めて、私はクリスタ。樹人種のナチュラ・ルーツです」
ナチュラ・ルーツは地球でいうところの、植物のような姿をした
京都市左京区担当時代の先輩の言葉を信じるなら、種族的にサイキックの扱いに優れており、長命故に気難しい。とのことだ。
「何か失礼なことを考えていますね」
「いえ、そんなことは」
言ってしまえば感受性が高いから、細かい事によく気が付く。
サイキックを使った念話もお手の物だし、極めてオペレーター向きの種族だって言ってたけど……間違いなさそうだね。
「ま、あとはショッピングみたいなものだから、あなたも力抜いておきなさい」
「そうなんですか?」
「ええ、回りを見てみるといいわ」
言われて見回してみる。この辺りは一定間隔で設けられた出店スペースに、飲食店から靴屋まで、様々な店舗が設けられているらしい。
だけどまあ、それだけなら地球の一般的な商業施設と同じなわけで。決定的に違うのは、店の店員さんや、行きかう人々の方だ。
身長は一メートル弱から三メートルに届きそうなほど様々、四肢や首の数も様々。肌の色、体毛、甲殻、翼の有無も人によって違う。とても地球人には見せられないような、ごく一般的な合星国加盟惑星のような風景が、目の前に広がっている。
「いいんですか?」
「何が?」
「ここはまだ地球のはずでは?」
言うまでもないことだけど、地球上で理由なく擬態を解除することは禁止されている。理由は、一瞬地上に姿を現しただけでも、証拠の隠滅にそれはもう苦労することになるから。
保護艦隊のエージェントは数少ない例外の一つだけれど、一般合星国民がこの決まりを破ると、最悪の場合惑星への立ち入り禁止を勧告されることになるはず。
なのに、このショッピングモールを行き来する人々はあまりにものびのびと、自分の姿をさらけ出してしまっているように見える。
「ここは例外なの。合星国民が自由に活動できるよう、こっそり借りてる空間だから、地球の人は立ち入れない。だから擬態を解除しても安心ってわけ」
「空間は空間でも、異空間ですからね、ここ」
「ははぁ」
なるほど、そもそも地球本来の空間でないのなら、記録に残る心配もないってことか。万が一、何らかの手段で異空間にアクセスされてしまったら何か起こるかもしれないけれど、少なくとも僕の気にすることではなさそうだ。
「奈良県で活動するにあたって、ここは拠点として何度か利用することになるでしょう。今のうちに慣れといて、損ないわよ?」
そういうことなら納得だ。研修としても至極真っ当な理由だし、ひとまずは安心しつつ、事にかかろうじゃないか。
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