閑話① 好敵手


「これが黒狼かぁ……噛んだりしない?」


 アルフォンスは黄昏を見て恐る恐る聞いた。

んだりしないわよ、悪い人相手じゃなければ。黄昏はちゃーんと人の言葉がわかるのよ」

 イリヤは誇らしげに胸を張って、黄昏の首筋を優しく撫でてやった。黒狼 黄昏の体はイリヤよりも大きくて、黒くてつややかな毛並みと口に生えた鋭い牙が恐ろしかったけれど、イリヤの撫でる手に目を細める姿を見て、アルフォンスもそれに習って黄昏の首筋を撫でた。

「うわぁ……ふかふかなんだね!」

よろしくね、黄昏! と挨拶するアルフォンスに、黄昏は金の瞳を細めて人間臭く鼻を鳴らして挨拶した。アルフォンスは「すごーい! お利口なんだね!」と歓声を上げ、すっかり恐怖を克服したようだった。「ガヴィも触らせてもらいなよ」とニコニコと促す。

黄昏の夜明けの光を集めたみたいな瞳の色と、夜の闇のようなその体躯の対比が、明るい日差しの中でとても綺麗だと思ったけれど、元々怖がりなガヴィエインにとって、どう見ても狼の黄昏に触れるというのはなかなかにハードルが高かった。びくびくしながらなけなしの勇気を出す。とても直視は出来そうになかったから恐る恐る目をつぶりながら手を伸ばした。


 むぎゅう


 ……目をつぶりながら近づいたガヴィエインは、思い切り黄昏の尻尾を踏みつけた。


 いつもは冷静な黄昏であったが、予想もしなかったタイミングで尻尾を踏み抜かれ、思わずガヴィエインの伸ばした手をガブリとやった。


「いったーーい!!」


 手に穴は開かなかったが跡は付いた。ガヴィエインは歯型の付いた手を擦りながら「噛まないって言ったのにー!」と涙目になる。

まさか噛むと思っていなかったイリヤはびっくりして「黄昏ダメでしょっ」と叱ってくれたが、尻尾を踏まれた黄昏もたまったものではない。

つーん! とそっぽを向く。


 その態度にカチンときたガヴィエインは、思わず怖さも忘れて「このバカ犬!」と叫び、聞き捨てならない黄昏は今度は尻尾でガヴィエインの顔をしたたか打った。


 もうそこからは、くんずほぐれつの取っ組み合いで。


 仲裁に入ったイリヤから二人(一人と一頭?)に接見禁止令が発動された。

 だがしかし、イリヤのことが大好きな二人は距離が取れるはずもなく……この先もずっと、顔を合わせればぶつかり合うのは……また別のお話。


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