第6話 思いやる心

 

 ソヤの豆を皆で収穫して、休憩にイリヤの持ってきたナッツ入りのクッキーを食べながら三人は色んな話をした。


「イーリャはどんな魔法が使えるの?」

「んーー。火を起こすとか簡単なやつならどの属性もできるわよ。一番精霊と相性がいいのは土系かしら。でもまだまだ練習中なの」

「この間の風を起こす魔法が凄かったよな! ぶわあぁ! って!」

「アルは何が得意なの?」

「オレ? オレは別に得意なことなんてないよ」

「何言ってんだよ。お前は勉強も運動も得意じゃん。こいつ、足も早いんだぜ、オレくらい」

「へぇ! ガヴィみたいに足が速いの? すごいね!」


 三人でするおしゃべりは、お互いを馬鹿にしたりけなしたりすることがなくて、とても心地よかった。

「ガヴィだって足も早いし、運動神経だっていいじゃないか。ガヴィだったらそのうち剣士とかにもなれるんじゃない?」

 以前遊びでガヴィエインと木の棒を使ったチャンバラごっこをした時、彼が凄くすばしっこくて、中々勝負がつかないことがあった。ガヴィエインは元々争いは好まないから、積極的に打ち込んではこなかったが、軽い身のこなしに中々勝負がつかず、皆の方が先に参ってしまったことがある。ガヴィエインはアルフォンスに褒められて嬉しそうな顔をしたが、すぐに顔を横にふった。

「んー、でもオレは大きくなったら父ちゃんみたいに猟師になりたいから。……剣はいいかな。人を切るとか怖いし」


 早く大人になって父ちゃんを助けたい。


 そう言い切った横顔にアルフォンスはガヴィは凄いな、と思った。


「……そういえば、紅の一族の大人はすごい魔法が使えるんでしょう? 病気を治したりはできないのかな?」

 アルフォンスの素朴な疑問に、ガヴィエインの肩がピクリと揺れた。イリヤは「うーーん」と唸った後に難しい顔をする。

「治癒の魔法って難しいのよ。魔法って精霊の力を借りて、術者のイメージ力で結構効果が左右されるから……怪我を治すにもある程度の医学の知識が必要になるし。

 病気の場合はどこかが切れたとか骨が折れたとか単純な事じゃないじゃない? 病気の元凶を探るなんてことは難しいし……。魔法って言っても何でもできるわけじゃないのよ」

 イリヤの説明にアルフォンスがそっかぁ……と眉を下げる。ガヴィエインは何も言わずに下を向きながら、ソヤの豆の枝で地面に意味もなくくるくると円を描いていた。そんな二人を見てイリヤは「あっ! でも!」となにか思いついたように手を合わせる。

「魔法は無理だけどね? ノールフォールの森に池見草イーレンって名前の花があるの。その花の実を食べるとね、元気が出るんですって。見た目もとてもキレイな花だから、ガヴィのお母様も喜ぶんじゃないかしら」

 二人の顔がぱあっと明るくなった。

「いいね! それをお土産にしたらきっとガヴィのお母さんも元気が出るよ!」

「ね!」

 アルフォンスとイリヤの二人に次々に背中を押されて、ガヴィエインは顔を上げた。


「……ありがとう、二人共」


 ガヴィエインはじわりと熱くなった目元をゴシゴシやって、ニコリと笑ってみせた。




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