第5話 三人の出会い
(どこまで行くんだろう)
しっかりとした足取りで前を行く赤毛の友だちの背中を見る。
森の中は昼間でも少し薄暗くて、時折する獣の気配にビクリとすることもあったけれど、ガヴィエインは気にする風でもなくどんどんと進んでいった。
ガヴィエインとアルフォンスは二人の記憶にない時からの付き合いだ。
同じ年に生まれ家がたまたま近かった為、二人は兄弟のように育った。ガヴィエインと彼の父はこの地方では珍しい赤毛で、大人達は特に気にしていなかったけれど、他と違う見た目をしているガヴィエインは度々子ども達の中でからかいの対象になった。そんな時は取っ組み合いの喧嘩になったりしたのだが、細っこくて背の小さいガヴィエインはやり込められて負けてしまうことが多く、家の裏で一人泣いている事も多かった。
口では強がっているけれど、
そんなガヴィエインを、アルフォンスは小さな頃からまるで弟のように手を引いて今まできたのだ。
けれど、アルフォンスがガヴィエインと一緒にいるのは、単に世話の焼ける弟だと思っているからではない。彼はアルフォンスがたまに面倒だなと思うような家の手伝いも当たり前のようにしているし、誰かが転んだりすると一番に駆けつけるのも、実はガヴィエインだという事を知っている。
アルフォンスが風邪で寝込んだ時、彼の父と狩りに出て泥だらけになりながら自分で狩ってきた兎を持ってきてくれたこともあった。
いつも誰かのために一生懸命で優しいガヴィエインが素敵だと思ったし、アルフォンスも一番の友だちだと思っているのだ。
でも、ガヴィエインの母が妹を出産し産後の肥立ちが悪くて寝込みはじめてから、彼の生活は一変した。
幼いながら、彼も生活の一部を担わなくては生活が回らなくなってしまったのだ。怖がりなところは変わりなかったが、のほほんと
……けれど、こんな大胆な行動をするような子ではなかったはずなのに。
父親の狩猟に着いていくことのあるガヴィエインと違って、アルフォンスは森に慣れていない。少々息を切らしながら彼の背中に着いていくと木々が切れて明るい空間に出た。
「ついたぜ」
目の前にはソヤの豆が群生している。ガヴィエインは背中に背負っていた籠を下ろすと手際よく豆を収穫していった。アルフォンスも息を整えるとそれに習う。
「すごい沢山あるんだね!」
ガヴィエインの隣に並んで豆を籠に入れながら話しかける。
「そうだろ? ここ、イリヤが教えてくれたんだ。オレが豆を取りに行ってた森の入口付近じゃあんまり豆がとれなくてさ。ここなら三日に一回取りに来ればキーナにちゃんと汁を飲ませてやれるんだよ」
そう言ってにかと笑うガヴィエインの顔を見てアルフォンスはなんだか嬉しくなった。
……最近は難しい顔ばかりしていたから。今日のガヴィエインはアルフォンスの好きな彼の顔をしている。
「そのイリヤって子はここに来るの? 約束してるわけじゃ――」
「ガヴィエインっ!」
アルフォンスがすべてを言い切らないうちに、隣りにいたガヴィエインが見事に前のめりにつんのめった。いや、何かに押し倒された。
アルフォンスが目を丸めていると、首に巻き付いている何かをガヴィエインが手でバシバシとそれを叩く。
「い、イリヤ苦しい、息できない……」
ガヴィエインの首に巻き付いた女の子――イリヤはゴメンごめんと笑って手を緩めると、ガヴィエインの隣りにいたアルフォンスの方を見た。その顔を見てハッとする。
(この子、目が紅い――)
「あら? この子ガヴィエインのお友だち? さっそく連れてきてくれたの?! ……わぁ貴方、すごくキレイな翡翠の目をしているのね!」
私はイリヤ、よろしくね! そう言って屈託なく右手を差し出される。
紅の一族特有の紅い瞳を見てドキリとしたけれど、彼女も自分と似たような感想を口にしたことがなんだか可笑しかった。
(そうだよなぁ、オレの目が緑色でこの子の目が紅い……ただそれだけだ。たった、それだけのことだもんね)
魔法を使える紅の一族の子と聞いて、どんな子がでてくるかとちょっぴり怖く思ったけれど、村の子や自分たちと何ら変わりない普通の女の子だった。
「オレの名前はアルフォンス。長いからアルって呼んでよ」
こちらこそよろしく、と差し出された手を握ると、
「アル! それ、いいわね! じゃあ私はイーリャって呼んでちょうだい」
そう言ってイリヤも笑った。
それを聞いていたガヴィエインも「お、オレもガヴィって呼んでいいぞ! イーリャ!」と慌てて口を挟む。
三人はお互いに手を握り合って目配せすると、不思議と何にも言わなくても同じ気持ちなことが伝わった。ノールフォールの森に三人の笑い声がこだました。
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