悩む
「どうですか……!?」
自信満々なグロアに、ジークは素直に驚いた顔をするがセシリアは顎に手を当てて考え込んでいる。
席に座ったグロアをジークが褒めると、照れた様に笑いながら謙遜した。
しかしまだ話を信用していないセシリアがどうやってその情報を得たかを聞くと、自分を手で指し胸を張ってこう答えた。
「わたし、スパイの才能があると思うんです」
「はあ」
それはもう聞いたが、と言いかけたセシリアを抑えて話し出す。興奮しているのかやたらと早口で話し二人は理解するのに時間がかかったが、要約するとこうだ。
今まで怖くて入れなかったダンの拠点に勇気を出して入ってみた。
中には何人もの男がいたため足がすくんだが、仲間に入れて欲しいと頼んだところ、怪しまれるどころか歓迎された。
最初こそ新人に情報は渡せないと言われたが、一日経つと色々なことを教えてもらえるようになった。
そこで思い切って計画のことを聞くと……
「計画は三日後だって教えてもらったんですよ。ダンくんの側近の人から聞いたので間違いないです……!」
身を乗り出し力説するグロアの目はとても純粋で、二人は思わず目を反らしてしまった。
先程まで感心していたジークも黙りセシリアをチラと見るが、こっちも目を合わせようとしないので仕方なく言うことにした。
途轍もなく重い口を開き、ゆっくりと、申し訳なさそうな顔で、
「あの……それ、多分……遊ばれてますよ……」
「……え?」
「マジであの女バカすぎねえか?」
廃れた酒場で若い男達が話していた。先程までいたグロアの悪口を言っているがそこに嘲笑は無く、若干顔が引きつり心配さえしているようだった。
「最初は面白かったけどよ、ちょっと心配になってくるぜ」
グロアの扱い方はダンから聞いていた。突っぱねたり否定するのではなく、むしろ引き入れて適当なことを言えばいいらしい。
グロアがこの拠点に来た時、その言いつけ通りに招き嘘を吹き込むと思っていたより信じるため少しばかり心が痛んだ。
ダンの側近だという嘘が良かったのかもしれない。
グロアのことを思い出し無言になった間を埋める様に一人が口を開く。
「ところで適当に三日後だなんて言っちまったけどよ、本当に三日後が実行日だったりしねえよな」
無言が続いた。そこにいた数人の男達が全員その考えを持っていなかったからだ。確かに、と思わず心の中で呟いた。
「そ、それは無いだろ。実行日なんて大事なものはもっと前から教えるもんだ……」
「そう……だよな。そんなことあり得ないか……」
いくら何でもそんな偶然は無い、男達はひねり出す様に笑う。
笑い終えて次の話題に移ろうとした時、拠点の裏口が開き本物のダンの側近が入ってきて、
「お前ら、計画は三日後だ。準備しておけよ」
「……え?」
そう一言言って去っていった。
グロアはジークとセシリアに家まで送ってもらう最中視点が水平以上になることは無かった。
十歩歩く度に悲観的なことを呟いては二人に慰められ、ため息は数えきれないほどついた。
家に着くころには二人も面倒になって半ば投げやりなことを言っていたが、そのことに気づかないほどに落ち込んでいた。
「ここまででいいです。ありがとうございました……はあ……」
もはやどう声をかけて良いか分からない二人はじゃあまた、と告げ別れた。
「はあ……」
何故わたしはこうなのだろうか。小さい頃から頑張って上手くいったためしがない。
トールの面倒を見ていたつもりが二人で迷子になったり、ダンに花かんむりを作ってあげた時は虫がついていて一日は口をきいてもらえなかった。
今だってそうだ。あのお店で働かせて貰っているのに沢山失敗して、情報を集めると言って簡単に騙されて……
「みんなが優しいから……」
もしかしたらそんなわたしが嫌でダンも変わってしまったのかもしれない。
そんなのは、嫌だ。
また三人で、トールとダンとわたしで一緒に過ごしたい。
わたしが悪かったなら変わりたい。
「……わたしに、何ができるのかな」
またため息をつき家に入ろうとした目の端で黒い影が動いた。
振り返り、何もいない。首を傾げ向き直り、扉を掴む。
しかし扉は開かなかった。口を覆われ、光が届かぬ真っ暗な路地裏へと連れて行かれたから……
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