第9話 『やんチル』
「では、そのグループについてお話し致します」と、鷹高田が話し始めた。「これがそのグループのメンバーです」
鷹高田は胸のポケットから写真を取り出して、それを無草の前へ差し出した。ブロマイドのようだった。
ブロマイドには五人の子供が写っていた。子供たちは皆、大人びた、その顔付きには全く似つかわしくないポーズを取っていた。
「これは」と無草は驚いた。そして、鷹高田の顔を見て言った。
「随分と若い人達ですね。この前の方の子なんかは、小学校一、二年生のようにしか見えないんだが」
「はい。この子たち、後ろの方から順にタッ君、ジロ君、ソー太、アッちゃん、カイ君、と言いまして、小学二年から中学二年まで、小学生三人、中学生二人の五人組です。グループ名を『やんちゃチルドレン』と言います。正式なデビューは来春の予定で、まだ半年以上先なのですが、『やんチル』の愛称ですでに人気拡大中でございます。
先生ご指摘のように若い子たちなのですが、事務所としては、この子たちとファンが一緒になって成長して行くことを目指しております。この子たちがやがて大人になって家庭を持つようになる。その過程に際しての喜びや苦労を共に感じながら、長期に渡って関係を築いて行きたいと考えています。そうして、今後数十年、事務所を支える柱にしたいというのが希望のようです。それで、学校のこともありますので、活動には制約があるのですが、各地でイベントを行っております。
この子たちのファン層には幅がございます。イベントの一環で幼稚園巡りというのも行っておりますので、まず、園児たちに人気があります。兄のように慕われているようです。彼らの踊りが、園児にも真似し易いものになっていることも理由のようです。
そして、これは事務所も想定外だったのですが、その園児たちの母親の間でも人気になっております。母親たちの母性本能をくすぐっているのではないかと、事務所では見ています。次は、同年代の小学生と中学生です。考え方が似ていますので、仲間として受け入れ易いようです。また、高校生にも人気でして、これは主に女生徒が中心なのですが、弟のように可愛がられております。」
ここで鷹高田が一息吐いた。
「先ほども申し上げましたが、事務所としては、彼らがこれから長い間活躍してくれることを期待しています。
それで、彼らの目指すものと言いますか、活動の根本にある理念も現代社会の課題を反映したものになっています。それを子供にも分かり易いようにしまして、『皆んな大切、自然も大切』というのをモットーに掲げております。まあ、今流行りの言葉を使えば、ダイバーシティとSDGsということになるかと存じます。これが同様の考え方を推進している企業や、報道機関に気に入られております。それで、毎年夏休み最後の頃に恒例となっています、二十四時間ぶっ続けのテレビ番組への出演も決まっていると、聞いております」
「グループの大まかなことは分かりました」と無草が言った。「で、この子たちの自伝を出版したいというのですか。自伝と言うにはちょっと若過ぎるように思いますが」
「はあ。その嫌いはあるかもしれません」と、鷹高田がちょっと困った表情を見せた。「事務所の意向としましては、これから先、五年ごとを目処に彼らの自伝を出したいということです。五年間の成長の記録のようなものですね。最終的にはそれをまとめて、豪華装丁の全集にしたいと考えているようです。ですから、今回は多少の無理をしたとしても出版につなげたいのではないでしょうか。
それに、仮にそうなりますと、弊社としては長期に渡って有望な仕事を得ることになります。ですから、是非とも先生のお力をお借りしたいのです」
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