第15話 お茶会のお誘い


 ふたりのマタギが去って行った後、鑑定室に戻ってフェアヴィル辺境伯家の紋章が存在感を示す封筒を開けてみた。

 中から出てきたのはお茶会の案内状だった。


 招待してくださったのは————フェアヴィル辺境伯ご夫妻。


 え、え————⁉︎ なんで⁉︎


 ちょっと予想外の事態に、固まった。


 我が家のカステール子爵領はフェアヴィル辺境伯領とは隣り合わせ。

 次兄はカステール騎士団長としてフェアヴィルにもよく行っている。魔の森に面しているフェアヴィルの方が魔物の出る率が高いから。

 放っておくとうちの領も危なくなるから、強力なフェアヴィル騎士団と合同で魔物を殲滅しておくのだと。

 辺境の魔物が出る土地柄、お隣さん同士の連携はちゃんととらないとね。


 私も辺境伯の領主邸に行ったことがある。

 学園の長期休みで実家に帰っている間に夫人から夜会やお茶会のお招きがあれば伺っていた。

 だからフェアヴィルご夫妻とは顔見知りなんだけど。

 辺境伯のワルシュ様は騎士団を率いる怖い顔をしたおじい様だけど、優しい方だよ。

 夫人のマリアーヌ様も上品でかわいらしいおばあ様。

 もう4年くらいお会いしてない。

 ご挨拶に行けたらと思っていたから、いい機会なのかも。


「エーリックの建物が辺境伯家にあるってことかな……?」


『お礼だと思うニャ。シルヴィにお礼。解呪のお礼』


「フェアヴィル卿ご夫妻が?」


『マドリーヌの両親なのニャ〜』


 あの蒼玉のネックレスの持ち主だったというマドリーヌ様は、ワルシュ様とマリアーヌ様の娘さんなのか!

 そしてそのネックレスを持っていておかしくない関係————アデルハード様はフェアヴィル卿の孫だ————。


 っていうか、待って。

 名前を知らなかったけど、フェアヴィル卿の娘は一人で、タムリン聖公国の公爵家に輿入れしたって聞いている。

 それがアデルハード様のお母様ということは、アデルハード様は公子様。

 公国ってことは公爵が治める国ってことだよ。

 アデルハード様って、もしかして次期大公様だったりする————⁉︎


「冒険者で考古学者かと思ってたのに……」


『それも間違いじゃないニャ』


「そうだよね……って、ドレス! 辺境伯家のお茶会に伺うなら、ドレス!」


 ドレスは全て実家にある!

 あわあわと立ち上がると、開けっぱなしにしていた入り口から声がかけられた。


「シルヴィ、何を大騒ぎしてるのよ。ドレスだのお茶会だのって辺境伯家に行くっていう話なの?」


「クレア〜! そうなの! ドレス!」


「なるほど? それでヘレナレース商会からシルヴィに使いが来ているのね」


 クレアにうながされるままに裏口近くの小部屋へ入った。

 商会の使いだという女性は、挨拶の後にさっとわたしの全身を見た。


「シルヴィ様、ご依頼主様からお似合いのドレスをお渡しするように言われております。本来であればご注文いただいてからお作りするのですが、今回はお時間があまりないとのことで、当商会の見本のドレスの中から選んでいただきます」


「あっ、そうなんですか……?」


「よかったわね、シルヴィ。慌てなくて済んで」


「えっ、でも、ドレスいただくなんて……」


 ドレスを贈られるとか珍しいことじゃないけど、ちょっとお茶会にご招待いただいただけでそれは……。


「ご依頼主様からは、シルヴィ様にはお礼だと伝えるように言われております」


 高位貴族からの感謝の気持ちを遠慮するのは失礼だと教わるんだよ。

 でもドレスのお値段思えば、ちょっと及び腰になっちゃうのも仕方ないと思うの。

 子爵家の娘だけど、冒険者ギルドの職員だからね。金銭感覚は少し市民寄りだよ。


「……わかりました。ありがたくお受けします」


 細かいお直しがあるというので、今日の仕事の後に行くことになった。

 なぜかクレアもいっしょに来てくれるらしい。

 正直、心強いよ!


 お昼だったので、そのまま二人でギルド舎の二階にある職員食堂へと向かう途中、ガルシア卿に会った。

 いつもの冷え冷えとしたとした雰囲気が、少し違うような気がした。


「ガルシア卿、お疲れ様です」


「——お、おい、シルヴィ。昼食に——……」


「あらガルシア卿、私たちこれから昼食に行くので、仕事でしたらその後に聞きますけど」


「……そうか。いや、急ぎの用ではないから……」


「そうですか? では失礼しますね」


「失礼します……」


「……ああ」


 なんとなく物言いたげなガルシア卿が気になったけど、クレアに肩を掴まれて進んだ。


 厨房の向こう側は賑やかそうだったけど、少し早い時間だったからかこちらの職員食堂は誰もいなくて静かだった。


「……クレアって、ガルシア卿に厳しい気がするんだけど」


「そうね」


「昔からわりと厳しいよね? 何か理由とかあるの……?」


わたしがたずねると、クレアは持っていたフォークを振りながら説明してくれた。


「うーん、たとえば自分の持ち物を大事にしない人がいるとするじゃない? ペンとか強く芯を当てて使ったり、乱暴に机に置いたり。そういう人に自分の大事にしているペンをくれって言われて、差し出せる?」


「それは、あんまりあげたくないかも……」


「そういうこと」


 難しい。

 こういうニンゲンのたとえ話って難しいんだよ。

 わたしは職員ランチのソーセージとマルイモの辛炒めをもぐもぐと食べがら考える。

 ——ええと、クレアの大事なペンをガルシア卿が欲しがるけど、ガルシア卿が乱暴だからあげたくないってことだよね……?


「——ええと、それは乱暴でしかも他の人のものを欲しがるガルシア卿が悪いと思う。でも、ガルシア卿はすごい高いペンを買って大事に使うよ?」


 わたしがそう言うと、クレアは深いため息をついた。


「あっ、でも、クレアの大事なものを差し出さなくていいよ!」


「そうするわ」


 苦笑するクレアに、わたしも笑い返したのだった。







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