21.告白

「フィンの様子がおかしくて……」


「うん、別にいつも通りじゃない?」


「いつも通りね」


「えぇ……?」


 ソフィアにべったり張り付いて元気のないフィンを見て、口を開くラックスとテレジアにソフィアは眉尻を下げてフィンを見下ろす。


 小猿が親猿にしがみつく様を想起させるように、周りの目もはばからずソフィアにひっついているフィンは顔を上げない。


「……これは結構重症ね……」


「そもそも拗らせに拗らせてる上に、相手があのダリア団長じゃぁ気の毒にもなると言うか……」


 ボソボソと声を抑えてラックスと話すテレジアは、困惑するソフィアにここ数日ずっと縋りついているフィンをしばし眺めて大きなため息を吐くと、次の瞬間にはフィンの襟首をむんずと掴み上げた。


「ちょっと顔貸しなさい」


「はっ!?」


 目を丸くする3人をよそに、テレジアはそのままずるずるとフィンを引きずっていく。


「ちょっ、はっ!? 離せよ! ソフィアの側に居させろ!!」


「いつまでそうしてるつもりよ! そんなんで解決になる訳ないでしょうが!!」


「じゃぁどうしろってんだよ!!」


 行き交う人々の視線をひたすらに集めながら、フィンを引きずるテレジアはその足を止めない。


「どうしろって!? そんなの知らないわよ! 私が決めてあげたら私の言う通りにする訳!?」


「する訳ねぇだろ!!」


 ギャァギャァと騒がしい2人は、そのまま人気のない裏庭へと足を向ける。


「な、なんっなんだよお前っ!! お前には関係ねぇだろっ!?」


「関係あるわよ!!」


「どこがだよ!!」


「あんたのことが好きだからよ!!」


「んなこっ…………は、はぁ……っ!?」


 勢いのままに言い返そうとしたフィンは、後から追いついた言葉の理解に合わせて見る見るうちに真っ赤に染まる。


「なっ、なんっ、何言っ……っ!? おまっ、は、はぁっ!?」


「……こっちが冷静になるくらいキョドるのやめてくれる? 後悔しそうになるじゃない……っ」


 まともに言葉を紡げないフィンに、テレジアは赤くなった顔を歪めるとチッと舌打ちして横を向く。


「あんたがソフィアを好きなのはわかってる! でも気づいたらあんたを好きになってたんだからしょうがないじゃない!!」


「え、マジで言ってる……?」


「あんたそれ以上要らないこと言ったら殴るわよ!!」


 ギャースと吠えて、真っ赤になって目を吊り上げるテレジアに、フィンが息を呑んでのけ反った。


「な、なんで急に……っ、そんなこと……っ!?」


 どこか困り顔で真っ赤なままに見返すフィンに、テレジアは怒ったように口を開く。


「私、無駄な時間って嫌いなの! いい!? 女の子の10代は大切なのよ!! 変な男に捕まってる時間なんてないの! 目を養って、将来有望な少しでもいい男捕まえとかなきゃいけないんだから!!」


「…………ぉ、おぅ…………?」


 テレジアの圧に押されながら、フィンは顔を引き攣らせてそのよくわからない言葉を聞く。


「だから!! ぐずぐずと進退も決められないあんたなんかで立ち止まってる暇なんてないのよ!! でもそれなりに区切りは欲しいじゃない!! 私は欲しいのよ!! 何か文句あるっ!!??」


「いや、もう、何言ってるのか……っ」


 ひくっと口端を引き攣らせるフィンに、テレジアはふーふーと荒い息を吐きながら真っ赤な顔の赤い瞳で紅い瞳を睨みつける。


「私は言ったわよ!! テレジア・リースはフィン・レートのことが好き!! はい、返事!!!」


「う、えっ!? ちょ、ま……っ!!」


 テレジアに襟ぐりを掴まれて仰け反るフィンは、けれどその掴んだ小さな手がぶるぶると震えて、睨みつけてくる苛烈な赤い瞳が潤んでいることに気づく。


「……………………」


「ちょっと、黙るんじゃないわよ!! さっさと返事しなさい!!」


 怒っているのか泣きそうなのかわからない真っ赤な顔で必死に虚勢を張るテレジアに、フィンがふっと息を吐いて苦笑する。


「ーーほんと、お前って、俺にはもったいねーわ、マジで」


「………………っ」


 うぐぅっと真っ赤な顔で喉を鳴らすテレジアに苦笑して、フィンが自身の襟ぐりを掴み上げる両手にそっと触れる。


「……ありがとう、めっちゃ嬉しい。ほんと、嬉しい。誇張なしに、死ぬほど嬉しい」


「…………………そ、れは……っ、よかっ……た……わよ……っ!」


 茹蛸のように全身真っ赤で湯気を吹き出す勢いのテレジアは、けれど両腕をフィンに掴まれているために俯くだけで精一杯だった。


「……ほんとに、嬉しい。……でも、ごめん。俺、やっぱり、ソフィアのことが、好きみたいだ……っ」


 静かに紡がれるフィンの言葉を聞いたテレジアは、苦笑して口を開く。


「………………言われなくたってわかってるわよ。ほんとソフィアのことになると無茶苦茶なくせに、ソフィアにはバカみたいにどん臭いんだから……」


「…………俺……っ」


「わかってるなら、腐ってないで、後悔しない内にさっさと行きなさいよ! あんたの話しをぐだぐだ聞きたくて呼んだ訳じゃないの! あんたらの事情なんか知らないけど、どう転んだってソフィアがあんたを悪いようにする訳ないじゃない!」


「…………あぁ」


「……私もこれでスッキリしたし、次の目ぼしい男でも探すから気にしないで。むしろ脈なしを振ってくれてせーせーよ! まぁでも万一こっぴどく振られたら、ラックスと慰めるくらいはしてあげるわ!!」


 できる限り最大限の笑顔でニッと笑うテレジアを見下ろして、フィンはその両手をそっと離す。


「ーーほんと……ありがとな……っ」


 そう言ってそっとその場を離れるフィンの紅い瞳を見上げて、テレジアはどこかでホッと胸を撫で下ろした。


「ーーほんと2人揃って世話がかかるんだから、ぐだぐだ考えるから動けなくなるのよ……っ」


 ふんと眉間にシワを寄せ、勝気な赤い瞳で青空を仰いで大きく息を吐いたテレジアは、スッキリとした心境で伸びをしたーー。




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