20.混乱
「ーーあの氷ヤロウ、マジで燃やされたいってことだよな? そうだよな? そうでなけりゃ明らかに喧嘩売って来てるとしか思えねぇよな?」
「あーー…………ははは…………っ」
どんよりとした暗黒オーラをダダ漏れにさせて愚痴るフィンに、ラックスは視線を明後日へと向ける。
「やぁソフィア」
「また会ったねソフィア」
「茶菓子をもらったんだが、今からお茶でもどうかな?」
どん引いて魂が抜けかけたようなノアを引き連れて、いつにも増して爽やかなオーラを振りまいて異様な頻度で現れるダリア。
そんなダリアに困惑気味のソフィアと発狂寸前なフィンは、ついでにフィンもどうかなと誘われるままに4人でランチやら日向ぼっこやらお茶にしけ込む毎日。
今や軽く学園の名物と化したその異様な風景が馴染み出した一方で、明らかに共通の感情を有していない4人の異質さは際立っていた。
「何あれ保護者付きのお見合い?」
「でも楽しそうなのダリア団長しかいなくない?」
ヒソヒソと交わされる言葉に、ノアはああぁぁぁぁと頭を抱える。
「団長の威信が! ダリアの
「そう思うならあの暴走男をどうにかしろよ副団長!!!」
「僕にダリアを止められる訳ないだろうっ!?」
ニコニコと爽やかに花を飛ばしながら、困惑するソフィアに話しかけるダリアを横目にフィンとノアが騒ぐ。
「まぁ俺としては4人でも楽しくはあるんだけれど、今度は2人で街の方に遊びにでも行かないか?」
「…………えーと、…………はぁ…………」
学園の中庭内に設置された日除けつきのテーブルと椅子に隣同士腰掛けて、ダリアがニコリとその白い手を取って微笑む。
「………………あの、ダリア団ちょーー」
「いたっ!?」
「フィンっ!?」
ものすごい困惑に満ちた顔でダリアへと口を開こうとしたソフィアが言い終わる前に、般若のような顔をしたフィンがダリアの腕を力任せにチョップした。
思わずと自身の手を引き上げたダリアを、これ以上ないほどにイラついた顔でフィンが見下ろす。
「ーーソフィアが困ってるんで、そろそろいい加減にしてもらえませんかね、団長……っ!!?」
「ーーそうだとして、ソフィアに言われるならまだしもフィンに言われる筋合いはないと思うんだが?」
「あんたを見かねて言ってるんだよ……っ!!」
あぁもう話し通じねぇなぁ!! と頭を掻きむしるフィンを見上げて、ソフィアがハラハラとするのをダリアは横目で盗み見る。
「……まぁ、こんな過保護な弟がいたら年頃なのに恋愛もできずに大変だろう。もし嫌でなければ、軽い気持ちでいいから考えておいてくれ」
「え……っ!?」
「んな……っ!?」
「ちょっ!!?」
言うが否や、再び取ったソフィアの手の甲へとチュッとキスを落としたダリアに、その場の全員が言葉を失う。
物語の一場面のように絵になるその様に、フィンは引いた血の気で言葉もなく、背景の一部となってその身体を震わせることしかできない。
「ダ、ダリア団長……っ……っ!?」
手の甲に唇をつけたままに、上目遣いでソフィアを見た蒼い瞳と唇が弧を描く。
「俺はいつでも歓迎だからーー」
「……っ…………っ!?」
「っだぁぁああああああっ! 離れろっっ!!」
思わず頬を染めてピクリと反応するソフィアの手をダリアから奪い取るなり、フィンはそのままその手を握りしめて立ち上がると半ば引きずるようにソフィアを立たせた。
「脱隊だっっっ!!!!」
「お前の一存では難しいな」
吐き捨てるようにソフィアを連れて逃げ出すフィンに追い討ちをかけるように、ダリアがふっと面白がるように笑う。
そんなダリアを、ノアは信じられないものを見るかのように開いて塞がらぬ口で眺めたーー。
「くそっ! くそっ! 何なんだよあいつ!!」
「フィ、フィン……っ!」
どしどしと足を踏み鳴らしながら悪態を吐くフィンに連れられて、ソフィアは困惑を隠せない。
「フィン! 多分、ダリア団長は面白がってるだけと言うか……っ!!」
「じゃぁなんであんなベタベタするし、されてるのに何も言わないんだよっ!!!」
「…………っ」
思わずと怒鳴ってしまい、フィンはハッとして力の限りに握りしめていた力を抜いた。
恐る恐るソフィアの手首を見れば明らかに赤くなっていて、思わずバッと後退する。
「……ご、ごめん…………っ!」
「フィン、大丈夫だから少し落ちついて……っ! 大丈夫だから!」
「ーー大丈夫?」
ピクリとその紅い瞳を揺らして、フィンがソフィアをゆっくりと見た。
「ーー何が大丈夫なんだよ?」
「ーーフィン……?」
心配して覗き込んでくるソフィアの顔を見て、ふと、もういっそどこかに閉じ込めてしまおうかと思いつく。
こんなに我慢して、ヤキモキして、モヤモヤして、結果的にダリアの顔したトンビにソフィアを掻っ攫われるなんてただのアホだ。
「ーーじゃぁ、俺とずっと一緒にいてくれるわけ……?」
目の前がぐるぐるして平衡感覚がおぼつかない。自然と溢れる笑みを何となく自覚した。
追い詰める怯えた瞳。泣くだろうか。怖がる? 笑顔が見られないことには胸が痛むけど、ドロドロに甘やかして懐柔して依存させて、潤むグレーの瞳に映るのが自分だけならもうそれでよくないだろうか。
そう、あの頃みたいに戻るだけ。
そんな姿を想像して、脊髄の辺りがぞわりと震えた。
手を伸ばして、壁に追い詰める。もう超えてしまえと、どうとでもなれと囁く声を聞きながらそっと距離を詰めた。
「大丈夫だよ、お姉ちゃんは一緒にいるから」
気づけば反対にぎゅぅと抱きしめられていて、喉がひくついた。どんよりと混乱した紅い瞳が見開かれて、揺れて、唇が震える。
「ーーやっぱり氷ヤロウは、今度燃やす……」
ソフィアの肩に顔を埋めてその細い身体を抱きしめ返すと、フィンは小さく呟いたーー。
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