14.お祝い

 混戦する最中、ダリアから伸ばされた腕がスローモーションのようにソフィアのグレーの瞳に映る。


 その見たことがない焦りを帯びた蒼い瞳と表情が、事態の深刻さを物語っていた。


「ソフィアーーっっっ!!!」


 ダリアの腕に巻き込まれながら、必死の形相でこちらに向かい走るフィンの姿を垣間見る。


 次の瞬間には、目も眩むような光と爆音が互いの姿を覆い隠していたーー。






「ではでは、正式入団おめでとーう」


 パンパーンと鳴るクラッカーに祝われて、ソフィアは困ったように苦笑した。


「ありがとう、……でも力量的にはまだまだで、オマケもオマケなんだけど……っ」


 ソフィアとフィンの自宅に集まるテレジアとラックスを含めた4人は、各々が持ち寄ったいつもより少し豪華なご飯を囲んでいた。


「……あんたねぇ、せっかくの祝いの席でしょぼくれたこと言ってんじゃないわよ!! 素直にありがとうでいいのよ!!」


「そうそう。ってかダリア団長たちとしてはだけで十分なんじゃないの?」


「いや、そ、そんなことはないと思うんだけど……っ、あ、フィンもね、だいぶ団の人とも仲良くなった気がするし……っ!」


「「…………………………へぇ」」


「……おい、何だその反応は……っ!!」


 うふふと嬉しそうなソフィアの言葉を、明らかに受け入れていなさそうなテレジアとラックスにフィンのヤジが飛ぶ。


「でも、なんとか新しい新入生が入るまでには正式入団になれてよかったかも……」


「あぁ、まぁ確かに説明がめんどくさそうだもんねぇ」


 入学早々から騒がしかった日々は一応の収まる所に収まって、流れる季節は既に冬を明けようとしていた。


 食べよう食べようと各々好きにご飯に手を伸ばしながら、ふとラックスがフィンを振り返る。


「ーーで、なんでさっきからそんな端っこでしょぼくれてる訳?」


「……お前らまで人の家にずかずかと現れるからだよ……っ!!」


 壁際でぎりぃと歯噛みするフィンに、テレジアは眉根を寄せて、ラックスは笑顔で停止する。


「あんたまだそんなこと言ってるわけ?」


「あぁ、ほら、ここは2人だけの聖域的な意味合いで愛の巣だからぁ……」


「え……ドン引きなんですけど……っっ」


「おいっ!! その腹立つ顔をやめろ!!」


 フィンが目を吊り上げるも、もう慣れたもので2人は歯牙にもかけない。


「あれ、でも2人って義理の姉弟で血は繋がってないんでしょぉ?」


「そうなの!? なんでラックスだけ知ってるのよ!!」


「いや、ほら、それは男同士の話しとかあるじゃん??」


「…………………要は釘を刺されたってことね」


「そうとも言うねぇ」


 はははーと乾いた笑いを浮かべるラックスに、テレジアは額を押さえてため息を吐く。


「フィンはお姉ちゃんっ子だから……っ」


「「「……………………………………」」」


 満更でもなさそうにエヘヘと別ベクトルで照れ笑うソフィアに、3人は束の間本気? と言いたげな顔で無言になる。


「ーーっていうか、そうなら前にも誰か来たってこと?」


「あ、ダリア団長とノア副団長が……っ、ほら、あの、ミレーナの件で謹慎中の時に……」


「はぁ!? わざわざダリア団長が来たの!?」


「それはスゴイなぁ……。やっぱり期待の新人は違うんだねぇ」


 目を丸くするテレジアとラックスに、ソフィアは苦笑して頬をかく。


「……や、やっぱりそうだよね……っ、そうなんだろうなぁとは思ってたんだけど……っ」


 そんなソフィアと仏頂面のフィンを見比べて、テレジアとラックスは顔を見合わせるとどちらともなくはぁとため息をつく。


「………………あんたたち、もしかして未だにダリア団長のことわかってないんじゃないの?」


「……2人共、基本的にお互いのこと以外に興味ない上、当たり前のように特殊部隊に入って訓練漬けの日々だったし、2人は一般的な部隊の仕組みはわからないよねぇ……」


 興味なさそうにご飯へと手を伸ばすフィンと、えーっとと微笑むソフィアを見てテレジアがため息を吐いて口を開く。


「いい? 基本的に部隊は前衛、中衛、後衛に分かれて、そこから更に役割や力量で細分化されて、その部隊一つ一つに団長と副団長がいるでしょ。んで、基本的には魔物討伐に当たって各部隊に招集がかかる訳よ。例えば炎系前衛、補助、回復、各何人、みたいに。これは訓練の効率化や派閥の抑制、力量の片寄りなんかを意識してるんだと思うんだけど、要は各部隊から人員を寄せ集めないとバランスが取れたパーティを作れないってわけ」


 ふんふんと真剣に頷くソフィアの一方で、リスのようにご飯を頬張りながらフィンはふーんと気のない素振りで鼻を鳴らす。


「まぁたまには例外もあって、兼任してたり、全然畑違いの部隊に何かしらの理由で入るとかもあるらしいけど、基本的にはそうなってるはずよ。そんな部隊分けに特殊部隊を作ったのが当時19歳だったダリア団長。学園の意図もある一方で、寄せ集めパーティじゃどうしても連携が取りづらいし、非効率で、今後予想を超える不測の敵には適してないって、少数精鋭で成り立ってる今の特殊部隊を作ったのよ。団員全て部隊の団長クラスな上に、その全員をまとめ上げるダリア団長を心酔に近いくらい信頼してるって」


「ーーあの氷やろ……団長サンはやっぱやり手なのか……」


「…………ほんとブレないよねぇ、フィンくんて……」


 チッと舌打ちして半目でむぐむぐと口を動かすフィンに、ラックスが頬杖をつきながら目を細めて苦笑する。


「ちなみに今度ある大規模討伐にはゼロ番隊ってのも来るわよ」


「「零番隊?」」


 ソフィアとフィンが同時に問い返せば、テレジアはふふんと得意げに口を開いた。


「そ。ダリア団長が正統派の孤高なら、その真反対をいく孤高が、零番隊の団長ノワール・シャグランその人よ!」


 

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