13.安堵
「人を燃やしたって?」
「いつも言ってたもんな、燃やしてやるって」
「だからって本当に燃やす?」
「まぁでも先に何かしたのはミレーナ先生なんだろ?」
「それでもさぁ……」
「怖いよね……」
ザワザワと、謹慎明けに登校したフィンとソフィアを遠巻きにするクラスメイトに、2人は居心地悪く教室の椅子に座る。
「ーーごめん、ソフィア」
「謝らないで、フィン。フィンだけが悪い訳じゃないし、言われた罰は受けたし、ダリア団長たちも説明してくれたって言ってたし、今はできることを少しずつでもやるしかないんだよ」
「…………俺はやっぱり、こういう所向かないんだとーー」
「そんなことない。フィンなら大丈夫だよ。それに現状、前とそんなに違わないじゃない」
ふふと元気付けるように笑いかけてくるソフィアをチラ見したフィンは、その背後に近づく影に怪訝そうに視線を上げた。
「はいはい、ちょっと席詰めてよねっ!! 私狭いの嫌いだから!!」
「えっ!?」
ぐいぐいとお尻で長椅子の端からソフィアを押す赤髪の女子生徒に、ソフィアとフィンは目を丸くする。
「何よ、座るなって!?」
「い、いやいや、全然そんなことないんだけど……っ……い、いいの……?」
さしものソフィアもあせあせと手を振って目を瞬き、フィンは無言のままに目が点となる。
「ただでさえ有名人だったのに、アッと言う間に歴代1位の問題児とその姉じゃない。ほんと少しも大人しくしてられないなんて、先が思いやられるわね……っ!!」
「……………………」
何か言いたげなソフィアとフィンの視線に気づいて、赤髪の女子生徒はその顔を赤らめる。
「何よ、悪い? ダリア団長が言ってくれたのよ。アレはミレーナ先……っ、ミレーナが私に暗示をかけたせいなんだって……っ!!」
「あぁ、【靴箱の変】……」
「それ言わないでっ!!」
黒歴史もいい所なんだからと、キイと目を吊り上げる赤髪の女子生徒に、ソフィアはふふと頬を緩めた。
「ーーアンタが、皆んなによく言っといてくれって。誤解されたままだと、申し訳ないからって言ってたって……っ! だから、あの、ありがとってこと……っ!! あ、あと……っ、こないだはごめんね……っ!!」
「……ううん、こちらこそ……っ、わざわざ言いに来てくれて嬉しい……っ、ありがとう……っ、……えーと、名前って……聞いてもいいかな……?」
「…………テレジアよ、テレジア・リース……っ!! 16歳!!」
「私はソフィア・レート17歳。色々あったけど、よろしくね、テレジア……っ」
「ーーはいはい、ちょっとごめんよぉ」
「んっ!?」
急に現れた挙句にソフィアと仲良くなり出したテレジアの状況について行けず、1人眉を寄せてぼんやり眺めていたフィンは、自身の右に現れた気配に驚き目を見張って仰け反った。
「いやはや2人の有名人っぷりには負けるよねぇ。ダリア団長にも負けないんじゃない? あ、ミレーナ先生が姿消したってほんと? 精神系の魔法はどこでもある程度重宝されるし、やっぱりある意味最強かぁ」
「ラ、ラックス……?」
赤オレンジの天然パーマを揺らして、その茶色の瞳をニッと歪ませると、戸惑いを隠せないフィンへと、ラックスは人懐こく笑う。
「さすがにちょっと大人しくなってんじゃん? 調子狂うなぁ。でもまぁ、ソフィアちゃん守りたかっただけなんでしょ? 2人っきりの家族だし、そもそもソフィアちゃんラブだし、びっくりしたんだよね? 気持ちはわかるよぉ」
「お、おぅ……っ?」
未だに状況を察せられないフィンは、明らかに動揺したまま目を瞬かせた。
「2人目立ってるからさぁ、また2人だけで固まってると他が絡みにくいだろうし、良かったら俺たちとも仲良くしてよ。エリート問題児くん」
「ちょっと、私を巻き込まないでよ!!」
ははっと笑うラックスに言葉が出ないフィンの代わりに、テレジアが赤い瞳を吊り上げる。
「えー? 我先にあのどんより空気を華麗にぶった斬ってて、テレジアちゃんたら格好よかったよ?」
「んなっ!?」
惚れちゃいそうだったよぉ。なんて言いながら、にははーと笑うラックスの言葉に真っ赤になるテレジアを、ソフィアとフィンが無言で見上げる。
「強い女の子ってカッコいいよねぇ」
「………………っっ!!?」
にぱぱぱーとふわふわ花を飛ばすように笑うラックスに、真っ赤になって二の句が継げないテレジアはふるふるとその身体を震わせた。
「ま、そゆことで改めてよろしくー。あ、大丈夫、大丈夫。心配しなくてもお礼は出世払いでいいから! 期待してるよ、期待の新人特待生!!」
「ぅおっ!?」
あははーとラックスに肩を抱かれ、フィンは未だ戸惑いを隠せない顔で、その不敵なタレ目顔を見返すしかできない。
にわかに騒がしくなった一団とその周囲を取り囲むクラスメイトとの間には未だに高い壁があるものの、殺伐としていた空気は気づけばすっかりとなりを潜めていた。
どこか
生活を成り立たせることは大前提としてあったけれど、それ以上にソフィアとフィンだけで終結してしまう日常に風穴を開けるべきだと思っていた。
距離が近過ぎる故の執着が、15歳にもなるフィンにとって良いことだとは思えなくて、けれどそうしてしまったのもまた、ソフィア自身のせいだともわかっていた。
多少荒療治になっても、フィンとの距離を取って、ソフィア自身の世界を広げる。そこから、少しずつでも変えていくことができればと、そう思っていた。
まさか試験も終わった時期に、ソフィアを追いかけて無理矢理入学した挙句、特待生にまでなって、入学早々からこんなにもバタバタするとは思わなかったけれど、それでもーー。
「ーーよかった……っ」
騒がしくも明るい未来が見えた気がして、ソフィアは潤んでいくのを止められないグレーの瞳を隠して下を向く。
「何? 何か言った?」
「ーーううん、2人とも……ありがとう……っっ」
へへと涙を滲ませて微笑むソフィアに、テレジアは照れたように明後日を見て、ラックスはにっこりと笑う。
「ーー………………ぁ、ありがと……な……っ」
耳まで真っ赤にして小さく呟いたフィンに、3人は束の間目を見開いてその顔を見る。
「……なっ、なんだよ……っ!?」
「フィン……っっ!!」
「あら、ごめんなさい、聞き逃しちゃったからもう一回お願いできる?」
「いやぁ、ほんとに素直になっちゃってぇ。かぁわいぃー」
「……っ…………っ、燃やす……っ!!」
ソフィアに泣かれ、テレジアに勝ち誇ったように見降ろされ、グニグニとラックスに頬を突かれながら冷やかされ、フィンは今し方放ったばかりの自身の言葉を後悔したーー。
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