12.激震
「ごめんね、ごめんね、お休み中!!」
「…………っ……ダ、ダリア団長さんまで……っ!?」
「…………騒がしくして申し訳ない……」
ドアの前には、もう少し静かにしろとバツが悪そうにノアの肩を小突くダリアと、いやいやこんくらいのテンションじゃないと! なんて悪びれないノア。
そんな予想外の珍客を恐縮仕切りで部屋に招き入れたソフィアと、不機嫌そうなフィンは、お気遣いなくと部屋に居座った2人を見る。
「端的に言う。力不足で申し訳なかった」
お茶と茶菓子を出し終わるなり頭を下げるダリアとノアに、ソフィアは青くなりフィンは眉根を寄せた。
「あっ、頭を上げて下さいっ!?」
ワタワタと慌てるソフィアに、顔を上げたダリアが口を開く。
「ミレーナには以前から不穏なところはあったが、あれで俺以外のことに関しては優秀だから、それもあって見逃されていた。今回のことも、結果として間に合っただけで、間に合わなければどうなっていたかはわからない。ミレーナの精神系魔法の威力は侮れないレベルなのは事実だ」
「ごめんねぇ、一応警戒はしてたんだけど、何だかんだとあぁまで実力行使してくることって今までなかったからさぁ……っ」
あの人綺麗なのに怖いよねぇ……。なんてぼやくノアへの返答に窮して、ソフィアとフィンは2人を見る。
「できる限りノアと2人で弁明はしたんだが、上の連中は頭が固くてね。魔力抑制装置なんてものを装着させることになってしまって、力及ばず申し訳なかった」
「そ、そんなーーっ!!」
再びその頭を下げる2人に、ソフィアは目を回しそうなほどにアワアワと焦ると、頭を上げて下さいと慌てる。
そんな3人を他人事のように眺めながら、フィンはその首に嵌められた魔力抑制の黒いチョーカーをそっと触った。
「ーーずっと考えてたんです。今回のこと、今に始まった訳ではないはずなのに、なんでこんなに大事になってしまったのか。…………全部、私の力が足りないせいですよね」
「ソフィアじゃなくて、悪いのは全部あいつだろっ!?」
弾かれるように声を上げるフィンに、ソフィアは微笑む。
「そうだけど、私がフィンのオマケって言う認識じゃなくて、ちゃんと相応の力を持っていると周りに思われてれば、こんなことにはならなかったと思うから」
現に表面には出さずとも、赤髪の女子生徒のように思っている者は多いはずだとソフィアは思う。
「ーーそんなこと言うヤツら、俺が全員ぶっ飛ばしてやる……っ!!」
ギリと奥歯を鳴らすフィンを見て、ダリアが静かに口を開いた。
「ーーいい加減にわかれ。お前がそうやって後先考えずに口に出して暴れる度に、お前自身の立場も、姉の立場も悪くしているのは、お前自身だぞ」
「はぁっ!? 惚れられた女の1人も管理できなかったクセによく言うぜっ!!」
「フィンっ!!」
「………………っ!!」
無言でいるダリアの代わりに、いつもより強い口調でソフィアに嗜められたフィンは、思わずとその口を閉じた。
「弟が失礼を言って申し訳ありません、ダリア団長」
「構わない。……事実ではあるしな」
「そんなことはないです。人の感情をどうこうするなんて、神様にだってできることでは……していいことではないんですから…………っ」
「……………………そうか……」
束の間の変な沈黙に、ノアがうん? と横にいるダリアの顔を見上げる。
「ダリア団長、少しお時間の猶予を下さい。ダリア団長の特殊部隊の一員として、恥ずかしくない力をつける努力をさせて下さい。もし部隊の一員として私の力不足があれば、その時は遠慮なく除隊して下さい。もちろん、フィンに相応の力があれば、フィンは残したままで問題ありません」
頭を下げて言葉を紡ぐソフィアに、顔色を変えたのはフィンだった。
「ソフィア、何言ってんだよ!? ソフィアが辞めるなら俺もーーっ!!」
「ーーフィン。フィンが無理矢理私を追いかけて辞めるなら、私はフィンとの縁を切る。ダリア団長とノア副団長の元なら安心できるし、フィンにはその力をきちんと発揮できる場所で、私以外の人と一緒にいて欲しいから」
「え、縁を切るなんて、冗談だろ……っ!? ぅ、嘘でもそんなこと言うなよ……っっ!!」
「ーー……本気だよ。私の存在がフィンの足枷にしかならないなら、私と一緒にはいない方が、きっといいんだと思う」
「…………んなっ……っ……っ!!?」
信じられないと言うように目を見開いて呆然と立ち尽くすフィンに、スイッチが入ったようにテコでも動かなさそうなソフィアを、さすがのダリアとノアも気まずそうに見比べる。
「ま、まぁまぁ……っ……と、とりあえず落ち着こうよ、2人とも……っ……ね?」
イヤアァァァッなんて悲鳴が聞こえてきそうなほど青くなって引きつる笑顔なノアの一方で、ダリアはソフィアの変貌ぶりにいくらか面食らっていた。
「……っ…………ぅっ…………っっっっ!!!!!」
「……ぁ……あぁ……っ」
見るからに泣きそう一歩手前のギリギリ。最後のプライドで踏みとどまっている様子のフィンにアワアワとするノアと、困ったように視線を揺らすダリアの一方で、ソフィアはその表情を崩さない。
どうしようっ! ねぇ、どうしよう!? なんて1人でバタつくノアに返答できず、ダリアは瞳を伏せて黙り込む。
「ーー……私もフィンとは一緒にいたい。けど、このままなら遅かれ早かれ一緒にはいられなくなる。それだったら、今私にできることは何でもしたいと思ってる。私はフィンに置いてかれないように頑張りたい。フィンと一緒にいたいから。……だから、フィンも協力してくれる……?」
「………………っ……っ!! ……っ…………かった……っ!! わかったから……っ!」
ん? とフィンを見上げる3人は、静かにその続きを待つ。
「……縁を切るって言ったの訂正して……っ!」
ぎゅぅと涙を堪えて顔を歪ませるフィンに、あぁ……と困り顔のノアと視線を逸らすダリア。
「……困らせてごめんね、フィン……っ」
その小刻みに震える黒い頭を撫でると、ソフィアはそっと呟く。
「……とりあえず、ダリア団長にさっきの態度を取ったこと、何か言うことはない?」
「…………………………すいませんでした……」
「あ、あぁ…………お、お構いなく……っ」
押し殺すように発されたフィンの言葉に、ダリアはハハハと乾いた笑いを溢して手を振った。
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