海辺の旅館には気を付けろ!

神楽耶 夏輝

第1話

 もう1年ぐらい前の話です。


 親父と仕事を兼ねた一泊旅行に出かけたんですよ。

 仕事は日中に済ませて、夕刻から予定してた旅館に行きました。

 もう何度か利用する旅館で、父のお気に入りの宿です。


 テラスには風情ある露天風呂があって、その向こうには海が広がっています。


 テラスから釣りとかできるんですよ。


 それだけでテンション上がりますよね。

 いつもはあんまり釣れないんですけど、その日は入れ食いでした。

  

 雑魚ですけど、釣れればなんでも楽しい。


 けど、親父と一緒だから、ゆうてそんなに楽しくない。


 夕飯は部屋で。


 新鮮な魚や、エビの踊り食いとかね。

 釣った魚もどうにかこうにか、それなりに料理してもらって。


 まぁ、美味しかったですよ。


 親父はあまり酒を飲みません。

 僕だけ少し飲んで。

 次の日も朝早かったので、22時ぐらいにはもう寝る態勢だったんですよ。


 僕は眠くないし、布団に入ってカクヨムを開いてました。


 途中まで読んでた作品が気になって、読まずにはいられなかったんです。

 それが、例のアレです。

「近畿地方の――」ってやつ。

 ハイキンさん(本当は別の読み方だけど)の、バズり散らかして書籍化までされたアレです。


 ちょうど3分の1ぐらいまで読んでました。


 怖くて身震いするほどで、こんな所で、こんな時間に読み進めてしまった自分を責めてしまうぐらい怖かったんですよね。


 途中で読むのをやめて、布団にもぐりました。


 親父はもういびきかいて寝てましたね。


 多分12時を少し過ぎた頃です。


 僕もなんとか寝ようと目を閉じるのですが、全然寝れない。

 親父のいびきがとにかくうるさい。


 眼だけは閉じてました。


 そしたら、頭のすれすれを誰かが通る気配がしたんです。

 途端、体中から汗が噴き出して、身動きが取れなくなりました。


 親父が起きたのかな? トイレかな? と思おうとしたんですが、いびきは聞こえてます。


 僕は怖くて、目を開けられなかったんです。

 必死で布団を握りしめてました。


 気配は何度か僕の頭のすれすれを行ったり来たりして、そのうち消えました。


 数分後、恐々目を開けると、もちろん何もない。

 隣の布団で親父が眠っているだけです。


 あれはなんだったんだ?


 海辺だから、変なのが来ちゃったのかなって思いながら、一睡もできず朝を迎えたんです。


 次の日の朝。


 一応、親父に聞きました。


「昨夜、起きた?」って。


 そしたら、「起きてない」って言うんですよ。


 そうだろうなって思って、昨夜の事を親父に話したんです。


「この旅館、もう二度と使わない方がいい」


 そしたら、親父はこう言いました。


「あ! そう言えば、夜中に目が覚めて、アラームセットするの忘れてたの気付いて、スマホ取りに行ったわ」


「どこに取りに行ったの?」


「あそこ」


 と指さした場所は、ちょうど僕が寝てた向こう側で、頭の辺りを行き来しないと行けない場所でした。


「なんだ。お父さんだったのか」


 って笑ったんですけど、ちょっと待って!


 じゃあ、いびきは誰のいびきだったの?

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