一時の休息と世界の変革
「ただいま~」
「スカーレットちゃん、お帰りなさい。主様たちもお疲れさまでした」
「いやー、ギルドへ報告に行ったらまさかスカーレットが竜化したことを怒られるなんて思わなかった」
「うぅ~・・・オーレリアさんと王様コワイ」
俺たちは王都を出発してから2日後にやっと王都へ帰ってきた。その足でギルドに報告しに行ったのだが、そこでは鬼の顔をしたオーレリアさんが待ち構えており、ギルドの中は静まり返っていた。
そして、ギルドマスターの部屋へ連れてかれると、王様もそこにはおり、街から飛び立った時と帰ってきた時の竜は何なのかと問い詰められた。スカーレットの翼を見せて竜化の説明をしたのだが、騒ぎになったことを凄く怒られた。
そして、俺たちはしょぼくれながら宿屋へと帰って来たのであった。
「主様、当然のことだと思いますよ。竜が突然現れたとなれば王都中の冒険者達で対処しなければならないほどの出来事です。むしろ怒られただけで済んで良かったと思います」
「それも言われたな。俺たちだから良かったものの、竜が人になって王都にいるのであれば、すぐに討伐するように仕向けれなければいけないって言ってたからな」
「主様、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「別にどんどん聞いてくれていいぞ」
「はい。何かスキルに変化がありましたか? 妾だけでなく、使用人の5人までもがレベルが急に上昇して驚きました」
「あぁ、俺のレベルが上がってマスターサーバントが進化したみたいなんだ。離れていたりしても一定割合の経験値が俺の従者には行き渡るようになったみたいなんだ。
便利なスキルに進化したよなー」
「それは、なかなか凄いスキルへと進化しましたね」
「グレンお兄ちゃん、あの黒い魔法って結局何だったの?」
「私もそれは気になりました」
「黒い魔法・・・ですか? いや、まさかとは思いますが、闇魔法ではありませんよね?」
「お、やっぱりラピスだったら知ってたか。そうなんだよ。闇魔法が使えるようになったんだ」
「ッ!!」
ラピスは俺から急に距離を取って警戒を始める。え? 急にどうしたんだ?
「ラ、ラピスさん? 急にどうしたんですか? グレンさんから急に距離を取って・・・。それに殺気も放っていますが」
「ラピスお姉ちゃん怖いよ」
「そうだ。ラピスどうしたんだ。俺は何も変わってなんかいないぞ」
「はぁ・・・はぁ・・・失礼しました」
ラピスは冷や汗を流しながらも冷静さを取り戻して落ち着き始める。ラピスがそれほどまでになるって闇魔法はかなりヤバイ物なのか。
「少し伝承のお話をしてもよろしいでしょうか?」
「闇魔法のことに関係してるのか。頼む」
「はい。この世界には四元素によって全てが成り立っています。火、水、風、土の各元素がバランスよく世界を構成することでこの世界は作られているのです。
ですが、その四元素が存在するよりも遥か太古から存在している二元素があります。それは、書物からも消え去り、触れることすらも禁忌される元素なのです」
「その一つが闇なのか」
「その通りです。原初の二元素と呼ばれるそれは、光と闇の元素であり、二元素同士がぶつかって産まれるエネルギーによって世界が創られたと言われるほどに凄まじいエネルギーです。
光が希望を創り、闇が絶望を創る。それぞれが役割を持っており、四元素とは違った役割の分類とされている元素となっています。
そして、闇の元素を操れる者は精神を蝕まれ、世界を滅ぼす存在へとなってしまったと伝承では記されていました」
「なるほど。それでラピスは警戒したのか。けど、何の異変も無いんだよな。一つだけあったと言えば、闇の精霊に触れられた後に真っ黒な空間にいて、綺麗な女性と話をしたことぐらいかな」
「綺麗な女性ですか? それについてはよく分かりませんね。何せ闇の魔法については情報が何も無いと言ってもいいぐらいで、先ほどの伝承も妾が王都で出会った賢者に聞いて初めて知ったぐらいだったので」
「そうだったのか。この闇魔法がそんなに危険だったとはな」
俺は手のひらを上に向けた状態で黒い球体を出す。周りに影響が出ないように小さな魔法にしているが、確かにこの小ささでも圧を感じるな。
「うひゃー! グレンさん! 急にあんな危ない魔法を出さないで下さいよー!」
「悪い悪い。けど、魔力を込めなければブラックホールは発動しないよ。これは、ダークネスボールっていう闇魔法でも下位の魔法だ」
「この小ささでも凄い圧ですね。四元素でも威力が高い魔法が出せるのに闇魔法まで使えるとは。妾ももっと精進しないといけませんね」
「だけど、闇魔法は燃費が悪くてMP消費が凄いんだ。何度も連発出来ないのが難点だな」
「そういった弱点もあるのですね。なかなか興味深いです」
「・・・えい!」
スカーレットが興味本位で俺が出していたダークネスボールに触れる。突然の出来事に俺、ラピス、サクラは驚くが、スカーレットが触れた瞬間に魔法は霧散して消えてしまった。
何も起きずに消えた? そんなことがあるのか?
「ラピス、魔法ってあんな風に消えるなんてことあるのか?」
「いえ、ありえません。可能性としてあるのは、その元素に対して魔法耐性が異常に高い場合や無効化を持っている場合のみです。
つまり、スカーレットちゃんは闇魔法に対して無効化出来るということなのでしょう」
「竜って本当に何でもありなんだな」
「規格外過ぎますね」
当の本人であるスカーレットは何事も無かったかのようにしているが、やってることとかは規格外なんだよなー。まぁ、可愛い妹みたいな感じだし今後も長くこのままいたいもんだな。
「さて、レストに行って夕飯でも食べるか。流石にお腹が空いた」
「もうただのお肉を焼くだけなのは嫌だよ~」
「そうですね。私もあのご飯はもうしばらくは嫌ですね」
出かける準備をして使用人たちの部屋へと向かう。1つ1つの部屋をノックして確認を取り、全員でご飯を食べるためにレストへに行くこととなった。
使用人たちは全員驚いていたが、たまにはいいだろう。こうしてレストでの食事を楽しんだ。
「しかし、いいんですか? 私たちまでご一緒して」
「まぁ、家が出来る前のお祝いみたいなもんってことで。もちろん家が完成しても宴はやるぞ!」
「「おぉーーー!!」」
グレンたちが楽しく食事をしているところから場面は移り変わり、雷が鳴り響いてる部屋でドクロを撫でながら痩せこけた男がアカツキと対話する。名はネクロ、七大魔王の1人である。血色が悪い顔ながら鋭い目つきが特徴的な男だ。
「おやおや、これは珍しい客だ。アカツキくん、どうしたいんだい?」
「魔王 ネクロ、今日は一つ聞きたいことがあってきたんだ」
「私に聞きたい事?」
「そう。人間界の南の地で大量のアンデットが目撃されたみたいなんだ。1つの街を壊滅させるほどのアンデット・・・それだけの数が自然発生するだろうか」
「なるほどなるほど。つまり、アカツキくんは私がアンデットを発生させたと言いたいんだね?」
「単刀直入に言えばそうなる。魔王ぐらいしかあんなことが出来るのは思い付かない」
「ハハハ! 素直だね。まぁ、アカツキくんの予想通りだよ。私がアンデットを人間界に放ったんだ。最初は1万ほどを予定してたんだが、古い友人にもっと増やしてくれって頼まれて仕方なく倍の2万にしてみたんだけど・・・まさか街を1つ壊滅させるとは思わなかったよ。
最終的に10万ほどにまで数が膨れ上がった時はビックリしたけどね」
「何が目的だったんだ? 人間界へ何かするなとは言わないけど、今回の出来事は世界を大きく動かす事象へと繋がってしまった。
ネクロのやったことで魔王も脅かされることになりかねない」
「ふぅーん? 何だか面白そうなことが起きたってことかな。詳しく聞かせて欲しな。私の探究心をくすぐられる事案で久々に興奮してる!」
ネクロは興奮しながら高らかに笑う。自身の興味関心がある事柄に対しては病的なまでに熱心になるのが魔王ネクロである。今回のことも興味を持ったようだ。
「さて、話を続けてくれたまえ。私たち魔王が脅かされる事象とは何だい? 英雄か・・・いや、勇者の可能性の方が高いかな」
「勇者だよ」
「そうかそうか! アカツキくんが魔王になった時のことを思い出すなー・・・。人間の国を滅ぼした勇者が魔王を名乗るってことで、実力を試しにいったんだよね。いやー、懐かしい!」
「嫌な思い出を思い出させないでくれよ。アンデットを100万も相手にするのはもう勘弁して欲しい」
「ふふふ・・・それで、その勇者がどうしたんだい?」
「闇の魔法の使用が確認されたんだ」
「闇の魔法? 私たち魔王でも使える者はいない伝説上の魔法かと思ったが・・・」
「アンデットの大量発生によって恐らくは闇の精霊が集まった。そして、そこに居合わせた勇者が何らかの要因によって闇の魔法が使えるようになったというのが事象だよ」
「それはいいね! 最高に面白いことになったよ! いやー、古い友人の頼みごとを聞いて正解だった日が来るとは思わなかった。いつも災難が降りかかるんだよね」
「古い友人というのは、吸血鬼の始祖である魔王 ヴァンプのことか?」
「その通りだよ」
「ネクロとヴァンプが一緒になって何かする時はいつも大きなことが起きるから嫌なんだが。目的について教えて欲しい」
「まぁ、目的自体はもう達成されてるんだよね」
「闇魔法か・・・」
「そういうこと。私とヴァンプはある仮説を立てたんだ。魔物が大量に発生した場所には瘴気が発生するのは知っていると思うけど、その場所にあるのは瘴気だけなのか? 他に何か無いのか・・・そう、闇の精霊とかね。
それを自ら発生させようってヴァンプと計画して出来たのがアンデットの大量発生って訳さ」
「はぁ・・・その結果が闇の魔法を使う勇者の誕生か」
「まぁまぁ、面白そうなことになったんだからいいじゃないか」
不敵な笑みを浮かべながらネクロは持っていたドクロに魔力を通して粉々に破壊する。死霊王と呼ばれた魔王ネクロと真祖の吸血鬼である魔王ヴァンプが世界を巻き込んで動き始める。
アカツキはそんなことよりも、あの時に会ったグレンがなぜ闇魔法を使えるようになったのかということに考えを巡らせる。きっかけは確かにネクロ達のアンデットだが、それだけでは闇の精霊は応えてくれない。それで応えてくれるのであれば、魔王も闇魔法を使えている。
つまり、何かしらの力がグレンにはあるということになる。
「あれだけの従者を従えて闇魔法も使えるようになるなんて・・・本当に面白いね、グレン」
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