闇の精霊

 真っ黒な闇の空間になぜか俺は佇んでいた。さっきまで確かにアンデットの集団と戦おうとしてたはずなんだが、どうしてこうなった。

 周りを見渡すと真っ黒な空間の中、真っ白なテーブルで優雅にティータイムをしている女性がいた。

 銀髪にオッドアイが特徴の女性。真っ白なテーブルとは対照的な真っ黒な体のラインを強調するドレスを着ている何とも妖艶な女性だ。


「あら、初めまして。闇の精霊に呼ばれたのでしょ? こちらに来てどうぞ座って」


 女性に促されるまま女性の向かいの席へと座る。体面に座って初めて感じる圧力。圧倒的なまでの力の差をこの女性からは感じる。スカーレット達よりも遥かに格上の存在だ。その女性はお茶を飲みながらじっとこちらを見続けている。いや、美人にそんなに見続けられると恥ずかしんだけど。


「ふふふ・・・私たち闇の精霊を使役出来る人間がどういった子なのかと思ったけど、なるほどね。異世界から来た子とは思わなかったわ。

 それに、あの子達からも好かれてる。よほど気に入ってるのね」

「俺のことを異世界から来た人間だと知ってるんです? あと、あの子達って?」

「質問が多い子ね。私たち精霊からすれば世界に干渉している存在を察知するのは容易いのよ。特にこの世界とは外れた場所から来た存在には敏感なの。まぁ、世界が上手く循環するために人の子が考え付いたことを精霊の私たちがどうこうするつもりは無いわ。

 次にあの子たちについてだけれど、あなたの従者のことよ。面白い子たちを従者にしているのね。

 真竜、真祖の吸血鬼、鬼神。どの子も1人で世界を滅ぼせるほどの力を持っているわ。その子たちが好んであなたの従者になっているのよ。もっと誇りなさいよ」

「あ、ありがとうございます。それで、俺はどうしてこの場所にいるんですか? 確かアンデットの集団と戦っていたはずですが」

「私は別にあなたを呼んでいないわよ。私の子供たちが遊び相手を見つけて呼んできちゃったのよ」


 女性がそう言うと、この場所に来る前に見た闇の精霊たちが真っ黒な空間から無数に出現した。闇の精霊たちは俺の体を引っ張り合い、自分こそが遊ぶんだと主張をしている。体が引き裂けそうだ。


「やめなさい」


 女性の一声で闇の精霊たちは動きを止めて再び闇へと消えていく。あれだけの精霊たちが指示に従うこの女性は何者なんだ?


「ごめんなさいね。後でしっかりと言いつけておくわ」

「いえ、闇の精霊たちは寂しい思いをしてるんでしょうし仕方ないですよ」

「ふぅ~ん・・・あなた面白いわね。もっと力を付けていたのなら従者になっても良かったと思えるぐらいには気に入ったわ」

「あなたが俺の従者にですか?」

「そうよ。まぁ、現状でも従者になれなくはないけど、それだと過剰な力過ぎるのよね。あなたが元いた世界風に言うなら・・・チートね」

「チート、ですか」

「そう。世界そのものと言える精霊を従者なんかにしたら敵無しになるわ。けど、冒険を楽しんでるあなたには、それだと面白くないでしょ?」

「なるほど。確かにその通りですね」

「そういうことだから、元の世界へ戻してあげるわね。ただ、また再会することになる。その時こそは従者契約を結んであげる。その時の敵は魔王―――いえ、精霊や神だろうから」

「え? いやいや、そんな相手と戦いませんよ」

「そうだと良いわね。じゃあ、短い時間だったけど話せて楽しかったわ。ここに来たプレゼントもついでにあげるから楽しみにしててね」


 女性は俺の胸を指で押したため、椅子ごと倒される。だが、地面に当たることはなく、そのまま闇へと飲み込まれていった。


「ねぇ、ママ。どうして帰したの?」

「人の子はこの場所に居てはいけないのよ」

「だったら、ママがあの人の従者になってよ。そうしたら僕たち闇の精霊はあの人と一緒にいれるよ」

「それもダメよ。まだあの子の力では私の力に耐えられずに死んでしまうわ」

「そっかー。まぁ、ママは闇の大精霊であるニュクス様だから人間だと無理なのか」

「そうね。けど、いつか私のところに来るわ」

「また来てくれるの!? でも、どうして?」

「あの子が私を欲しているからよ」


 闇の大精霊ニュクスは不敵な笑みを浮かべならがグレンが闇に落ちて行った方をじっと見続けている。


「―――ちゃん!」


 誰かが呼んでる?


「―――お兄ちゃん!」


 うーん・・・もう少しだけ。


「グレンお兄ちゃん起きなさーい!!」


 スカーレットの容赦ない一撃によって俺は目が覚めた。スカーレット、痛いよ。


「どれだけ意識を失ってた?」

「多分、30秒ぐらい。サクラお姉ちゃんが怖くなってアンデット達に襲い掛かりに行ってからすぐにグレンお兄ちゃんがおかしくなったの」

「そうだったのか。心配かけて悪かったな。それじゃ、俺も戦うか」

「大丈夫そう?」

「あぁ、問題無い。それになんだか戦いたくて仕方ないんだ」


 あの空間にいたことは間違いない。今でもハッキリとあの女性に感じた異様な力を覚えている。そういえば、プレゼントがあるって言ってたな。

 ・・・スキルに闇魔法が増えてる。闇魔法って大概は悪人が使ってるイメージなんだが。それを使えるってまさか俺も悪側に落ちたってことなのか!?

 まぁ、今は何にせよこの力でアンデット達を倒すか。


「闇の魔法か・・・。この魔法だったらどうだ。ブラックホール!」


 俺は手をアンデット達の集団に向けて突き出して魔法を発動する。集団の真ん中に突如として巨大な黒い球体が出現して、アンデット達を飲み込んでいく。光すらも吸収されるその黒い球体は、魔力を込めれば込めるほどに強大で巨大になる。


「おぉー、本当のブラックホールみたいだな」

「グレンお兄ちゃん、あれ何? とても不気味な力を感じる」

「家に帰ったらラピスを交えて話す。俺だけだと正直説明出来る自信がない」

「サクラー! アンデット達から離れてくれ! サクラも危ないかもしれない!」

「グレンさん? この魔法は! 分かりました」


 アンデット達の集団の中で無双していたサクラも俺たちのところへと戻ってきた。冷静さを取り戻すと鬼の面は霧散して、いつも通りのサクラになった。

 その間にも俺が魔力を込め続けてブラックホールは巨大化している。大量にいたアンデット達も気付けば半数ほどになっていた。


「うわー・・・えげつない魔法ですね。魔力を込めるほどにに巨大化をして行き、どんどん力が強くなるなんて。しかし、どういった魔法なんでしょうか。物体を吸収して消し去る魔法なんて聞いたことないですが」

「あの魔法は超高密度で強い重力の魔法。だからアンデットは吸収されて消えてるんだ。吸い込まれたら超圧力によって形を保てずにペチャンコに潰れるって訳だ」

「聞いてるだけで恐ろしい魔法ですね」

「グレンお兄ちゃん、大丈夫?」

「思った以上にMP消費が激しいから厳しいな」


 アンデットの数は残り約2万ほどか。かなりの数が減ったけど、まだまだいるな。だけど、俺のMPが枯渇しつつあるからこれ以上は厳しい。


「グレンお兄ちゃん、残りは私たちに任せて」

「グレンさん、私も暴れ足りないから任せ下さい」


 俺は魔法の発動を止めて休憩しながら2人の活躍を見守る。あの2人であれば問題無いだろうと思っていたが、圧倒的だった。

 スカーレットは竜の姿のまま火球を吐き続けて数を減らし続ける。サクラは再び鬼の面を被って狂戦士が如く戦うのだが、アンデットが減る速度が尋常じゃない。


「というか、光景だけ見ると怪獣バトルみたいだな。竜が空を飛びながら火を吐き、地上では鬼が刀を振り回しながらアンデットを斬りまくるって。

 それにしても闇の精霊か・・・。この力があればもしかしたら魔王にも対抗出来るんだろうか。今の一番の不安は―――」


 そう、一番の不安は魔王と戦えるのかよりもスカーレット達を守れるだけの力があるのかどうか。正直、勝てなくてもいいし俺はどうなったっていい。だけど、スカーレット達だけは護り抜けるだけの力が欲しい。ラピスの魔法をいとも簡単に消し去ったアカツキさん。今の状態であの時を振り返ってみると、どれだけ凄いことをしたのかというのが分かる。

 ラピスは魔法の天才だ。そのラピスの魔法を簡単に打ち消すほどの力さの差があるのがどれだけのことか。恐らくは他の魔王も同等の力を持っていると思っていい。だったら強くならないとな。

 いつか来るであろう強敵との戦いのために。


「グレンお兄ちゃん終わったよ」

「思った以上に歯ごたえが無かったですね。グレンさん、逃がしたアンデットはいないと思いますが、一応ギルドへ報告はしておいた方がいいと思います」

「そうだな。2人ともありがとう。さて、王都へと戻るか。今日は働いたしレストで美味しい物を食べたいな」

「ご飯~!」

「ということは、今日のご飯はトンカツですね!?」


 こうして、アンデットの集団を倒して俺たちは王都へと戻ることになった。帰りは行きと同じでスカーレットの竜の姿に乗せてもらってになる。


「移動中の間にステータスの確認でもするか。レベルが一気に上がってるな」

「おー! 私も上がってますか? 放浪の旅をしていた時は逃げるのに精一杯でなかなかレベルが上がらなかったんですよね」

「かなり上がってるが、あれだけのアンデットを倒してもこれだけなのかって感じではあるな」

「そうなんですか」

「グレンお兄ちゃん、私は?」

「スカーレットも上がってるぞ。それに俺のスキルもなんか強化されてるぽいな」


 マスターサーバントのスキルが進化したのかマスターサーバントⅡになってる。どういった効果なんだ?


〖従者のステータスの10%を主人に付与。主人及び従者契約を結んでいる者が経験値を獲得時に従者全てに一定割合の経験値を付与』


 俺と俺が従者契約を結んでるスカーレット達が魔物を倒して経験値を獲得したら、それが全ての従者へ行き渡るってマジか。

 てことは、残ってたラピスと使用人5人達も今回のアンデット討伐の経験値が入ってるってことかよ。ヤバ過ぎだろ。

 従者をとにかく増やしまくって魔物を討伐しまくってたら、どれだけ基礎能力が低い従者でもレベルが上がってステータスが上昇する。その恩恵を俺が受けれるってことか。とんでもない強化されたな。

 まぁ、とりあえずは王都に戻ってギルドへ報告だな。


【名前】 :グレン

【種族】:異世界人

【レベル 】 :25→80

【HP】:860→4563

【MP】:783→4289

【STR】:845→5120

【VIT】:823→5983

【INT】:736→6437

【AGI】:814→5168

【スキル】:マスターサーバントⅡ、鑑定、従者への守護、闇の精霊の使役

【従者】:竜種 スカーレット

     吸血種 ラピス

     鬼種 サクラ

     ヒューマン アリス、メルト

     ドワーフ オルティス

     エルフ エレイン

     獣人 ミスティ


【名前】 :スカーレット

【種族】:竜種

【レベル 】 :35→45

【HP】:7135→9963

【MP】:6854→9545

【STR】:9894→13367

【VIT】:10658→12131

【INT】:7812→10656

【AGI】:9548→12235

【スキル】:マスターへの寵愛、蒼炎、スーパーノヴァ、真なる竜の子、感知


【名前】 :サクラ

【種族】:鬼種

【レベル 】 :25→35

【HP】:9783→13563

【MP】:2546→4213

【STR】:4568→5986

【VIT】:8756→14569

【INT】:1369→2654

【AGI】:6878→9786

【スキル】:鬼の覚醒、絶対なる守護者、バーサーカー、神薙、マスターへの寵愛


【名前】 :ラピス

【種族】:吸血種

【レベル 】 :28→32

【HP】:4350→5136

【MP】:9683→11269

【STR】:2465→2978

【VIT】:5784→6832

【INT】:11354→13254

【AGI】:8876→10131

【スキル】:マスターへの寵愛、真祖の力、四元素の英知、精霊術、サポートヒーリング

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