王女の訪問
レストで食事を済ませた後は宿屋へと帰ってきた。ラピスは今日も机に向かって魔法の勉強をしている。そして、スカーレットは俺が出す魔法を魔法で打ち落とす遊びをしていた。
宿での暮らしもいいけど、やっぱり泊まるお金とか考えると一軒家とか欲しいよなー。この世界の一軒家がどれぐらいの値段か分からないが、クエストをもっとこなしてお金を貯めないといけないな。
「なぁ、明日は久々にクエストを受けようと思うんだが」
「戦えるのー!?」
「そうですね。実戦で主様の魔法を見たいのでお願いしたいです」
「分かった。あと、一つ相談なんだが」
俺は、一軒家を買うことを相談した。2人はお金を持っているのは俺だから、俺の決定なら何も不満は無いとのことだった。とりあえず、明日はクエストの受注か。
「Aランクのクエストの受注を承りました。サイクロプスの討伐ですのでくれぐれも注意して下さい」
「ありがとうございます」
ギルドに着いて掲示板を見ていると、2人がクエストの希望を言ってくれた。サイクロプスの討伐であれば戦いが面白いからとスカーレットは言い、サイクロプスであれば魔法の耐性があるので主様の魔法がどう効くか気になるというのがラピス。2人がオーガという魔物をかなり余裕だと思ってるってことなんだな。
「邪魔だ。そこをどきな」
「な、なんだ! そんなドレスを着飾った人間がどうし―――イリアス王女!?」
「そうだよ。私が邪魔だと言ってるんださっさと消えるんだ」
「な!? 王女だからって舐めた口を!」
何やらギルドの入り口が騒がしい。ギルドにいるには似つかわしくないドレスを着飾り、豊満な体を強調しているため、目のやり場に困る。そんな女性が巨漢の男に絡まれている。危ないと思って駆け寄ろうとしたが、男が殴り掛かろうとしたのをその女性は腕を取って思い切り投げ飛ばしてしまった。スカーレットが殴って吹き飛ばしたこともあるけど、普通の人間である女性であんなことが出来るなんて。
「ギルド内で喧嘩はしないことっていつも言ってるでしょ! って、イリアスじゃない。どうしてギルドに来たの?」
ギルドマスターであるオーレリアさんが騒ぎを聞きつけてやってきた。あの人も心労が絶えないな。そして、その口ぶりからするにオーレリアさんの関係者のようだ。
「オーレリア、王からの任務であそこにいるグレンってやつに接触するよう言われた」
「嘘!? 王様からそんな任務が・・・」
「とりあえず、応接室へグレンと私たちを案内してくれ」
「分かったわ。あと、前から言ってるけど、王女なのだから口調を直しなさい。そんな乱暴な言葉遣いではダメよ」
「何度も言われてるから分かってるよ。けど、私は変える気はない。私の自由はオーレリアがいなくなった時から保障されてる。そうだろ?」
「・・・そうね。それじゃ、案内するわ」
俺は、ギルドの受付嬢の人に案内されて応接室へと入った。中に入るとオーレリアさんとイリアス王女が椅子に座って待っていた。
俺たちは促されて対面の椅子へと座り、話が始まる。
「私から紹介するわ。こちらの方はイリアス王女。王位継承権を持っている次期国王なの。言葉遣いは乱暴だけど、あまり気にしないでね」
「姉上は一言余計なんだよ」
「こら! 外では私のことは姉として接しないようにって言ってるでしょ」
「え!? 姉ってことは、オーレリアさんも王女なんですか?」
「うーん・・・私は王位継承権をギルドマスターになるということで放棄したの。王様の娘ではあるけどね」
「なるほど。それで、イリアス王女は俺に何の用があったんですか?」
「挨拶をしようと思ってな。この国の未来を担うであろう勇者への挨拶をするのは王族として当然だろ」
「挨拶ですか。ご丁寧にありがとうございます。言ってくだされば出向いたのに」
「これでいいんだよ。それに久々にギルドへ行ってギルドマスターであるオーレリアがしっかりと仕事をしてるのかも見たかったし」
「イリアスに言われなくても仕事はやってるわよ。だけど、挨拶というのは分かったけど護衛は? いくらなんでも不用心過ぎないかしら」
「護衛なら常に私の周りにいるから大丈夫だよ。それに私の実力は分かってるだろ? 下手な護衛なんか不要だ。それよりも王からギルドマスターのオーレリアへ言伝を預かっている」
「言伝?」
「ああ。先日話したグレンの新しい従者候補がいそうな場所の情報だ」
イリアス王女が預かってきた情報によると、王都からかなり北上したところにある山にとある魔物が住み着いているらしい。その魔物は竜種や吸血種と肩を並べるほどの魔物のため、接触などを禁じるほどであり、手を出さなければ害は無いのでそのままにしてあるとか。
「なるほど。強力な魔物ということは分かったのですが、何で従者候補なんですか?」
「グレンが従者としている魔物は全て訳ありの角折ればかりだ。そして、その住み着いている魔物も角折れという報告が出ている。まぁ、可能性としてはあるかもねってことだ。
従者とならなくてもそれほど強力な魔物を放っておくことも出来ないから、あわよくば討伐してくれないかって考えなんだろうな」
「スカーレット達がいるからこその情報という訳ですね」
「そういうことだ。まぁ、行くかどうかは任せる。さて、長居しちゃって王もうるさいだろうから私は帰るわ」
「イリアス、たまには私にも会いに来てね」
「姉上、私は・・・いや、何でも無い」
そう言ってイリアス王女は部屋を出て行って帰ってしまった。残されたオーレリアさんはどこか悲しげな顔をしていた。
「何かあったんですか?」
「まぁ、王位継承権のことでちょっとね。無理やりイリアスに王位継承権を渡したから怒ってるのよ」
「そうだったんですね」
「さて、あなた達もクエストを受注していたのよね。クエストに行くんでしょ?」
「はい。このクエストクリア後にイリアス王女が教えてくれた場所へと向かおうと思ってます」
「分かったわ。サイクロプス討伐頑張ってね」
「ありがとうございます」
俺たちも部屋を後にしてクエストへ向かう。姉妹の問題に俺たちがこれ以上首を突っ込むことではない。本人たちが解決をするだろう。
「サイクロプスがいるのは東にある廃村だったか」
「はい。サイクロプスは基本的に集落を持たないのですが、今回は廃村を拠点にして集落を形成しています。恐らく上位種の存在がいます」
「サイクロプスの上位種か」
「ジェネラルオークは弱かったし今度の強かったら嬉しいなー」
「スカーレットは相変わらずだな」
東の森を一気に駆け抜けて目的の集落の場所まで到着する。そこには一つ目の魔物である緑色の体のサイクロプスがうじゃうじゃといた。
「サイクロプスってこんな数でいるものなのか?」
「いえ、基本的にいたとしても2、3体です。ここまでの群れは初めて見ました」
「なるほど。だが、レベル上げと腕試しには丁度いい。俺が魔法を練り上げて一気に数を減らす。サイクロプスが気付いて襲ってきたやつを各個撃破で」
「「了解!」」
俺は、この場所の四元素の精霊を見る。色的に多いのは緑か。つまり、風属性の魔法が一番効果的ってことになる。
風属性で範囲攻撃となると・・・まぁ、これで行ってみるか。
あれから少し考えたが、魔法をイメージするのはそれほど難しくは無いが、全く同じイメージの魔法を使い続けるというのは難しい。また、イメージするまでの時間も短縮したい。そういったことをラピスに相談したところ、魔法に名を付けてイメージと関連付けることで発動し易くしているらしい。
今回の魔法はこの名前でいいか。
「グランドストーム」
手のひらで作り出された小さな嵐を解き放つ。嵐は空気中にある四元素の精霊を飲み込みながら巨大化していき、大地を変形させてしまうほどの嵐へとなった。
そして、サイクロプスはようやく状況に気付いたがもう遅い。嵐が次々とサイクロプスを飲み込んでいき、その身を切り裂いていく。ただの嵐では無く、嵐の中で風の刃が吹き荒れており、次々と中に入った獲物を切り裂くようにした。
我ながら恐ろしい魔法を生み出したものだ。
「す、凄いです。これほどの風魔法を打てるとは。妾も負けてはいられませんね」
「私も負けなーい!」
ラピスはこの地に満ちているのが風の四元素だということを知ったので、風の魔法を使う。俺が見せたような大規模魔法では無く、サイクロプスの顔面の周囲にだけ魔法を放っているようだった。
「ふふふ・・・いくら魔物と言っても、人間と同じで呼吸は必要です。でしたら、顔の周囲のみ真空にしたらどうでしょうか?」
なんてエゲつない魔法を使うんだ。次々とサイクロプスが倒れていく。その様子を見ていたスカーレットは自分の取り分が無くなると思ったのか蒼い炎を拳に纏わせて走り出した。
「私も戦いたいのにみんなでズルいー! 蒼炎!」
前にオークを倒したようにスカーレットの炎を纏ったパンチとキックでサイクロプスの体に穴が空いていく。いや、どんな破壊力だよ。ただの拳と蹴りであの威力はおかしいだろ。
「流石は竜種ですね。蒼き炎を身に纏っているとはいえ、ただのパンチとキックで硬いサイクロプスの防御を軽々と打ち抜くとは」
「やっぱラピスから見てもスカーレットのあれは異常だよな。だけど、スカーレットはまだまだこれからだぞ」
「え? スカーレットちゃんに秘密が?」
「まぁ、見てろって」
奥の方から色の違ったサイクロプスが現れる。青色のサイクロプスか。てことは、あれがこの群れのボスって感じだな。個体名はサイクロプスヘッドか。
「あはっ! やっと強いのと戦えるんだね」
「っ! これが主様の言っていたことですか」
スカーレットが見せた狂気にラピスは恐怖しているようだった。顔は青ざめ、体が震えるのをどうにか抑えてるといった感じだ。まぁ、あの狂気を間近で見たらそうなるよな。あんな少女だけど中身は竜種。最強クラスである竜の狂気なんて怖過ぎるだろ。
「そうだ。スカーレットは戦いの中で狂気に飲まれることがある。まぁ、その姿もまたいいんだけどな」
「主様・・・」
そんな憐れむような目で俺を見ないでくれ。そして、スカーレットとサイクロプスヘッドの戦いが始まった。
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