過去のお話

「よく集まってくれた。国内に滞在する勇者達に声を掛けたが、来てくれたのはグレン達とアキラ達だけであったか。だが、来てくれるだけありがたい」


 謁見の間に集められた俺達、ギルドマスターのオーレリアさん、アキラ達。王はそのメンバーを一瞥して話を続ける。俺たち以外にも勇者はいるんだな。


「さて、今回は勇者から魔王へとなったアカツキという人物の話をしようかと思う。あれを!」

「はっ!」


 王様の横にいた家臣達が一斉に準備を始める。俺たちの真ん中の地面に水晶を置き、カーテンを閉めて謁見の間を暗くする。そうして、水晶が光りだすと空中にアカツキさんが映し出された。


「へぇー、この世界にもこんな技術があるなんてな」

「かつての発明王が作った技術を改良した機器よ。王よ、それでこれで何を見せようと言うのです?」

「うむ。この世界にある古いおとぎ話を聞かせようかと思ってな」

「なるほど。あの話でしたら一発で分かりそうですね」


 王様がそう言うと空中に映し出されたアカツキさんが絵本のような絵柄に変貌する。その姿はゲームでよく見るような勇者の格好をした男の子であり、魔法陣の真ん中から現れて次々と魔物を倒していくというストーリーであった。よくある話に思っていたが、次の瞬間に全てが変わる。

 今までのストーリーは全て嘘で、本当は違っていた。次に映し出された場面は血まみれの勇者が立っていて、その周りには何十人もの人間が死んでいるという場面。血まみれの勇者は赤い塊を抱きかかえて泣き叫んでいた。あまりにも凄惨な光景に言葉を失う。そうして、その勇者は魔物を統率する魔王となり、他の勇者と戦うことになったのでした。と、そこで話は終わった。


「これがアカツキさんなんですか?」

「そうだ。旧名はマサムネ。我が国の隣にあった亡国のオーティスのせいで不幸になってしまった勇者なのだ」

「一体何があったんです?」

「うむ。それは100年以上前の話になる。その時代は勇者召喚の儀というのは今以上に軽んじた物として扱われており、他の国に対しての戦力としても使いたいとどこの国でもどんどんと行われていたのだ。本来、勇者召喚の儀は大気中のマナが大量に満ちた時に行われる儀式なのだが、それが満ちる前に行うことが出来ないかと研究されていた。だが、そんなのは正規の手順では無いため、不具合が生じ始める。

 1つ目の不具合は勇者召喚の成功率が100%ということ」

「それの何がいけないんです? 俺達が召喚された時の喜び方を見ると召喚の成功率は少しでも高い方がいいと思いますが」


 確かにアキラの言う通りだ。俺が召喚された時も連続の召喚成功で喜んでたもんな。ただ、アカツキさんが話してた内容からすると良くないんだろうな。


「勇者召喚の儀というのはこちらから一方的に相手を召喚するというものではなく、相手も世界に対して何かしら不平不満が一定値の基準を超えている場合のみ召喚される。

 そして、その対象者がいない時は召喚されずにマナだけが消費されるのだ。つまり、両者にとって利益がある召喚ということだな」

「その召喚率が100%ということは・・・望まない人間が召喚されてたということですね」

「その通りだ。そして、2つ目の不具合は召喚の時に関係のない人間まで巻き込んでしまうという事」

「関係のない人間? けど、俺たちが召喚された時は3人一緒でしたが」

「うむ。アキラ、マイ、ヘイジの3人は一緒の召喚であった。だが、それは召喚の基準を満たした3人が別々の場所から召喚されたのだ」

「ということは、勇者として召喚された人物の周囲の人間が巻き込まれるという事ですか?」

「これが最低最悪なことであった。勇者マサムネことアカツキは愛する妻と2人の子供がいたのだが、それらが召喚の儀に巻き込まれてしまった」

「・・・その奥さんと子供は?」

「死亡した状態で召喚された」

「え? 死亡? どうしてです? ただ召喚されたのならそうはならないと思いますが」

「勇者召喚の際に勇者にはスキルなどが付与される。それは消費されたマナが勇者の魔力へと変換されるために生じることなのだが、勇者に選ばれていない者はマナの濁流に飲み込まれて無事では済まない。

 アカツキが召喚された時に見た妻と2人の子供は肉塊となってアカツキの横に存在していたそうだ」

「肉塊って・・・そんなのあんまりだわ。許せない」


 マイは真実を知って涙を浮かべながら怒りを顕わにする。誰だって同じような気持ちになる。自分勝手な理由で召喚しておきながら大切な人を亡き者にされたんだ。アカツキさんの当時の心境を考えるとやるせないな。


「愛する妻と子供を一気に失ったアカツキは問うた。なぜこんなことになったのか、と。ただただ幸せに暮らしていただけなのになぜ、と。

 オーティスの王は答えた。勇者を欲したがいらない付属品まで付いてきた、儀式の間が汚れるからその汚い物をどけろと。その時、アカツキは魔王となったのだ」

「そして、国は滅びたと」

「うむ。オーティスは滅びるべくして滅びたが、それと同じ過ちを犯してはならないと現在は勇者召喚の儀に対して厳しく取り決めが行われている」


 アカツキさんにそんな過去があったのか。あの時アカツキさんが顔を歪ませるほどの怒りを面に出していたのはそういうことか。確かに勇者召喚の儀を忌み嫌う訳だ。


「王様一ついいですか?」

「ヘイジか。何でも聞いてくれ」

「ありがとうございます。気になったのですが、そういった過去があったのであればどうして勇者召喚をいまだに行っているのですか? 言い方は悪いですが、勇者から魔王になるというイレギュラーはそれ以降も起きる可能性があります。

 でしたら、リスクを無くした方がいいと考えるのが普通のような気がしますが」

「うむ。その疑問は最もなことだ。ワシらとって勇者とは希望である。魔物を倒し世界の脅威から救ってくれる希望。その存在は国民にとって大切であったからこそ正規の手順での勇者召喚の儀は続けたのだ」

「なるほど。高ランク冒険者に頼るというのは出来なかったのです?」

「その疑問も出てくるのは当然だな。高ランク冒険者というのは国によって縛られることなく、自由を約束されるというのが契約としてあるのだ。なので、国の緊急時に召集となってもなかなか集まらないのが実情ではある」

「これに関してはギルドマスターである私からも補足すると、そもそも高ランク冒険者というのは数が多く無いの。世界にある4大国家の冒険者ギルドに所属するSランク冒険者でも100人、Aランク冒険者で500人ほどしかいないわ」


 オーレリアさんが王様の話を補足し始める。アキラ達はギルドマスターを見たことが無いのか幼女でありながらギルドマスターのオーレリアさんに驚く。可愛いもの好きのマイは今すぐにでも飛びつきたそうだったが、ヘイジによって押さえられた。


「そんなに少なかったんですね」

「更に高ランク冒険者の中には勇者もいるから勇者以外の高ランク冒険者となると少なくなるわ」

「それで魔物からの脅威を守ろうと思うと厳しいですね・・・」

「そうなのよね。だからこそ勇者召喚は世界にとってありがたいことなの。後は、昨日アカツキが言ってたこともあるわ」

「言っていたこと?」


 アキラ達は知らないので、俺がそれについて話しをする。マナが溢れれば人間にとって有害であること、勇者召喚は成功しても失敗してもマナは消費されるため世界にとっては必要なシステムであるということ。そのことを聞いてアキラ達も正規の勇者召喚の儀であるならば納得した。


「それで、魔王アカツキの過去は分かりましたが、それ以外にも話があって呼ばれたんですよね」

「うむ。魔王アカツキは最後に他の魔王が動き出していると言っていた。それの対処をしなければならない」

「魔王ってそんなにも多くいるんですか?」

「現在確認されている魔王はアカツキを含めて7人。それぞれが魔王を名乗るに相応しい力を有しており、七大魔王と呼ばれている。」

「七大魔王・・・。その魔王が動くとなるとただ事ではないですね」

「本来なら勇者全員で対処をして欲しいのだが、しばらく平和だったのもあり、勇者も自由に過ごしているからなかなか連絡が取れない者も多いのだ。

 現状はグレン達とアキラ達だけの連絡となってしまうが、戦いに向けてレベルアップをして欲しい」

「どう動くかも分からない以上はそれしかないですね。そこにいる吸血種に俺達は手も足も出なかったから鍛えないとな」


 アキラはそう言ってラピスを見る。ラピスはその視線に気づいたのか煽るかのように笑って返した。こらこら、いくら何でもその対応はダメだろ。


「ラピス、勇者同士は共闘しないといけない。態度を改めろ」

「主様、申し訳ありません」


 そう言ってラピスはアキラへペコリと頭を下げる。不快に思ったアキラだったが、ラピスの改めた態度を見て気分を直したようだ。

 揉め事は無い方がいい。


「俺も従者を増やしつつ自分のレベルを上げないとなー」

「グレンよ、従者となる可能性がある者の場所に心当たりがある。オーレリア、後日情報をギルドに渡すのでグレンへ提供を頼む」

「分かりました」

「長々とすまなかったな。これから大きく世界は動くことになる。勇者として招集されることになる。この世界ではない人たちに任せるのは筋違いではあるが、ワシらは無力だ。勇者である、そなたらの力をどうか貸して欲しい」


 王様は深々と俺たちに頭を下げて懇願する。それほどまでに国を想い世界のことを考える王様であるならば力を貸さない訳にはいかない。俺で良ければ戦うために協力しようと強く思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る