ボス攻略と呪い

「アキラ! グレンさん! 後ろの防御をすり抜けてコウモリが5匹そっちに行った!」

「了解! おい! お前も勇者ならもっと倒してみろ!」

「おっさんに無理言うなよ。これでも頑張ってるんだぞ」

「ディフェンスアップ! オールヒール!」


 アキラ達と共同戦線をしているが、3人の連携が凄まじい。しっかりと連携が取れているパーティはこんなにも戦いがスムーズに進むのか。それで苦戦するほどの相手のボスにスカーレットは無事なのか?


「蒼炎! ホーミングフレア!」


 スカーレットは新しいスキルである蒼炎を拳に纏いながら戦いを続ける。黒い霧によって炎が遮られて上手く攻撃が通らないが、何度がやっていればいつかは攻撃が通るはず。

 だが、ボスの攻撃もかなり激しくなってきている。


『―――しい』

「え? 何か言ったか!?」

「こんな戦闘が激しい時に何を言ってやがる!」

『―――して、―――は、ただ―――』


 また声が聞こえた。スカーレットが従者になった時と同じ状況だ。つまり、このボスは従者候補ってこと!?

 こんな猛攻してくるボスを相手にどうやって従者の契約を結べばいいんだよ。


『苦しい。解放して。私は、ただ生きたい』


 ・・・はぁ、何とかするしかねぇか。助けを求めるのに放っておく訳にはいかないよな。


「グレンお兄ちゃん!?」

「あっちは3人で何とかなる。それよりもコイツを助けるぞ」

「助ける?」

「そうだ。コイツはスカーレットと同じで苦しんでいる。だから助けるんだ」


 コウモリとの戦いをして思ったが、あの3人で何とかなると感じた。なので、スカーレットと共にボスと戦うことにした。

 まぁ、こっちに走って来る途中でアキラに罵詈雑言を言われたけど。


「さて、スカーレットと同じでマスターサーバントのスキルを押して・・・やっぱり反応しないか」


 マスターサーバントのスキルを押しても以前のようなウインドウが出てこない。何が原因なんだ?


『お知らせします。マスターサーバントのスキルを阻害する効果を持った黒い霧がスキル発動を妨げています。黒い霧が消失すればスキルが発動されます』


 黒い霧の消失か。黒い霧は恐らくボスのHPと連動してる。HPバーの減りと同時に黒い霧が徐々にだが無くなっていってるからだ。だが、スカーレットも消耗が激しく、ジリ貧な戦いをしていてはいつかやられてしまう。なら、やることは一つだ。


「スカーレット! 俺が何とかしてボスの攻撃を食い止める。その隙にボスを倒せるだけの魔力を溜めるんだ!」

「けど、グレンお兄ちゃんとボスとでは力の差があり過ぎる! 魔力を溜めてる間にグレンお兄ちゃんがやられちゃう!」

「大丈夫だ。俺だってダンジョンに入ってから成長してる。それに、たまにはカッコぐらいつけさせてくれよ」


 このダンジョンに入って戦闘をしてきたことで、レベルが大きく上がった。スカーレットは相変わらずレベルが上がりにくいのか3レベルほどしか上がらなかったが、俺は20レベルも一気に上がった。

 そのお陰でステータス上昇と新たなスキルを手に入れることが出来たんだ。


「分かった。絶対に死なないでね、グレンお兄ちゃん」


 スカーレットが一撃必殺の攻撃を放つために力を溜め始める。真紅から蒼い炎へと緯度となく変化を続けて炎に練り込む魔力を上げていく。

 その様子に気付いたボスがスカーレットを狙うが、行かせねぇよ!


「従者への守護!」


 手に入れたスキルは攻撃系のスキルではなく、防御系のスキルだった。能力としては、従者を護る時にVIT値が5倍に跳ね上がるというもの。デメリットとしては、攻撃関係のSTRやINT値が0になってしまうという大きなデメリットがある。

 だが、攻撃をする必要が無く、ただスカーレットを護り抜くというのであれば最強のスキルだ。


「俺のVIT値はスカーレットからの10%込みで現状は1500ちょっとだ。それの5倍で7500もあればお前の攻撃を受けるぐらいは出来るぞ。

 さぁ、スカーレットの魔力が溜め終わるが先か俺が倒れるのが先か勝負だ!」


 コウモリの攻撃力は俺のVIT値を遥かに下回るため、ダメージは無い。だが、ボスの攻撃で少しずつだがダメージを受ける。

 STR値とINT値は俺のVIT値を少し下回っているが、スキルの効果と黒い霧の効果なのかSTR値とINT値上昇の効果を受けてダメージを与えてくる。

 このままじゃいつかHPが無くなる。


「HPが5割を下回った。このままじゃマズイか・・・」

「リジェネ!」

「HPが徐々に回復していく!? マイか!」

「グレンさん! スカーレットちゃんが頑張ってるんだから踏ん張りなさいよ!」


 HP自動回復の効果があるスキルか。あっちはあっちで大変なのにありがたい。後は俺のスタミナが持ちつつ耐えるだけだ。

 攻撃を受け流しつつ、高いVIT値を生かして耐え続ける。

 何十回という攻撃を耐えた時、痺れを切らしたボスは俺を吹き飛ばして一気にスカーレットへと近づく。


「ダメージ目的じゃなくて俺を離れさせるのが目的の攻撃か。だけど、遅かったな」

「紅と蒼が織り成す最強の炎。スーパーノヴァ!」


 紅くもあり蒼くもある美しい炎。その火球がボスへと当たると地面に炎が残り続けてダメージを与え続ける。ボスの体に張り付いた炎と地面からの炎で2重にダメージを受け続け、ボスのHPは消失。それと同時に黒い霧も無くなった。

 ボスが倒れたのを見て、スカーレットは腕を振るって炎を消す。カッコ良過ぎだろ。


「これがボス? 綺麗な女の人ね。男共は見ちゃダメよ!」

「マイお姉ちゃん、私は見てもいい?」

「スカーレットちゃんは女の子だから大丈夫よ」

「分かった! グレンお兄ちゃんはダメー!」


 女性陣に言われて俺たちは後ろを見る。そして、アキラから戦いの愚痴を言われる。


「コウモリと戦ってる時に急にいなくなるとかどうなってるんだ」

「悪い悪い。だけど、3人の連携の凄まじさなら何とかなると思ったんだよ。パーティとしての戦いがあそこまで凄いとは思わなかった。正直、羨ましくも思った」

「羨ましい?」

「ああ。俺にはパーティを組めるような人はいないからな」

「何を言ってやがる。いるじゃねぇか」

「いる?」

「お前を兄と慕う従者はパーティじゃねぇのか? そんなこと言ったら傷付くだろ」


 アキラの思わない言葉に俺は気付かされた。そうか。どこかでスカーレットは従者であり妹のような存在だからと思ってた。だけど、違うんだな。スカーレットと俺はもうパーティだったな。


「アキラ、ありがとう」

「別に気にするな。俺たちもグレン達がいなければ死んでいたからな」


 俺の名前を呼んでくれるようになったの驚くと、その様子を見ていたヘイジが思わず笑う。


「アキラが素直になるなんてな。グレンさん、あなた達は何か信頼される力があるようだ。いや、グレンさんの人柄がなせることか。俺も前の世界でそんなことが出来ればもっと営業が上手くいったんだけどなー」

「ヘイジさんは営業やってたんですか?」

「ええ。といっても、かなりブラックだったので今の世界の方が好きなんだがな」

「ははは。確かに今の世界の方が自由ですからねー」


 そうやって男たちだけで話していると、ボスだった存在が目覚めたようである。黒い霧が無くった後は全裸だったため、毛布を掛けてある。

 毛布だけを羽織っているのもあるが、綺麗な女性だ。思わず特徴的な豊満な胸に目が行きそうになるが、理性を保つんだ。

 ・・・頭の角は折れてるのか。


「わ、妾は・・・一体何が?」

「ん? まだ何かおかしいのか? 名前のところが空白になってるぞ」

「アキラもそう見えるのか。俺も名前の所が空白なんだよな」


 スカーレットの時は記憶が無いからってのもあって名前が空白だったのも分かるが、このボスは何でなんだ?


「うぅ・・・頭が・・・思い出せるのは妾が吸血種ということだけ。名前は―――思い出せない」

「さっきの黒い霧が関係してるのか?」

「グレンお兄ちゃん・・・」


 スカーレットが不安そうな声を出しながら俺を見上げている。このボスはこのままではどうなるか分からない。ギルドに報告をすれば討伐対象となる可能性があり、かといって何もしなければ俺たちではどうしようもない。

 最悪の場合は奴隷商へ流れる可能性もある。それに角折れは過去の傷がある証拠だ。何にせよ放っておけないか。


「なぁ、俺と従者の契約を結ばないか?」

「グレン!?」「「グレンさん!?」」


 アキラ達が驚いて声を上げる。まぁ、そういった反応になるよねー。ボスと従者契約を結ぼうなんてありえないもんな。だけど、俺の従者となればギルドへ報告をしても問題は無いし、全てが丸く収まる。だったら従者契約しない手は無い。何よりステータスを見たが、スカーレットに負けないステータスだから戦力的にも従者となって欲しいし。


「妾と従者契約・・・?」

「そうだ。恐らくこのままだと最悪な結果になりかねない。だが、俺の従者となれば衣食住全てを用意出来る。もちろん嫌だったら断ってくれてもいい」

「・・・嫌ではないが、いいのか? 妾は吸血種の魔物だ。それなのに従者契約を結ぼうなど」

「いいんだよ。困ってるやつに誰とかは無い。それに救いの手を差し伸べたいんだ」

「ありがとうありがとう」

「んじゃ、契約を進めるか」


 マスターサーバントのスキルを押して発動させる。空中にウインドウと文字が現れる。


『マスターサーバントのスキルを発動しました。主従関係を結ぶ相手は、???の吸血種でよろしいでしょうか? YES/NO』


 もちろんYESだ。スカーレットの時と同様に完了しましたというアナウンスが流れて、ステータスの従者の欄が増えた。名前を決めないとか。


「俺が名前を決めちゃってもいいのか?」

「妾の主である貴方様が決めるのであれば何も問題ありません。妾に名を与えて下さい」


 美しい銀髪に特徴的な綺麗な瑠璃色の瞳。まさに絶世に美女って感じだ。そうだなー・・・。


「ラピスってのはどうだ?」

「ラピス・・・嬉しいです。ありがとうございます」


 こうして俺の従者に新たにラピスが加わった。アキラ達はやれやれといった感じでこの状況を見守っていた。


【名前】 :グレン

【種族】:異世界人

【レベル 】 :25

【HP】:554→860→1588(従者の10%加算分)

【MP】:543→783→1999(同上)

【STR】:479→845→1637(同上)

【VIT】:538→823→1952(同上)

【INT】:526→736→2005(同上)

【AGI】:533→814→2060(同上)

【スキル】:マスターサーバント、鑑定、従者への守護

【従者】:竜種 スカーレット 吸血種 ラピス


【名前】 :スカーレット

【種族】:竜種

【レベル 】 :15→20

【HP】:3165→4630

【MP】:4130→5756

【STR】:4363→6280

【VIT】:5127→7832

【INT】:4268→5420

【AGI】:5432→6823

【スキル】:マスターへの寵愛、蒼炎、スーパーノヴァ


【名前】 :ラピス

【種族】:吸血種

【レベル 】 :16

【HP】:2650

【MP】:6395

【STR】:1642

【VIT】:3457

【INT】:7265

【AGI】:5642

【スキル】:マスターへの寵愛、真祖の力、四元素の英知

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