ダンジョン攻略
「えっと・・・先に行きます?」
とりあえず、こういう時は変に事を荒立てることなく穏便に済ませるのが一番だ。あと、後ろから来て何かされるとたまったもんじゃないからな。
スカーレットも睨みつけてて、いつ爆発してもおかしくなさそうだしね。
「そうさせて貰う」
「ごめんなさいね~。異世界から召喚された同士だから仲良くしたいんだけど、アキラのプライドが高くって」
「お喋りし過ぎだ!」
「アキラもそう怒るな。この人も何か悪さをした訳でもないんだから気を立てる必要もあるまい。マイもアキラをからかうんじゃない」
「分かったわよ、ヘイジ」
アキラと呼ばれたのは生意気そうな青年。マイと呼ばれたのはギャルのような出で立ちの女性。最後のヘイジは大柄な男で細眼が特徴的だ。
何だかんだ仲が良さそうなパーティだな。
「一つだけ聞いても?」
「ああ、もちろん」
「ヘイジ! どうして!」
「アキラ、以前あったことも分かるが、全てに敵を作る必要などない。過度に仲良くする必要も無いが、敵対するよりかは全てが上手くいく」
「ちっ! 分かったよ。俺は入り口周辺にいるから終わったら来てくれ」
そう言うとアキラは歩いて行ってしまった。マイは俺の後ろに隠れているスカーレットに寄ってきて遊び始めた。
「さっきから見てて可愛いと思ってたのよね。名前は?」
「ス、スカーレット・・・」
「スカーレットちゃんね! この人とはどういった関係なの?」
「グレンさんはお兄ちゃんだよ」
「そうなんだ。ヘイジとグレンお兄さんで、大事なお話があるみたいだからこっちで遊んでようか」
スカーレットは、最初不信感を抱いていたがマイの独特な抱擁力に信用したのか付いて行った。スカーレットが何も言わずに付いて行くなんて珍しいな。
「珍しいな・・・」
「恐らくマイのスキルだと思う。女神の抱擁というスキルで相手に圧倒的な安心感を与えるんだ」
「そんなスキルが」
「それで、聞きたいこととは?」
「俺を異世界人だとどうやって見抜いたんです?」
「グレンさんも持っていると思うが、鑑定スキルを使ったんだ。それで異世界人だと分かった」
「常に鑑定スキルを!?」
「実は、この世界に最初に来てから詐欺に会ったんだ。3人で同時の召喚ということもあって一緒に行動していたんだが、右も左も分からなくてな。王様から貰った金貨の大半を失ってしまった。
その事件もあってかアキラは人間不信気味になってな。それから3人でローテーションして鑑定スキルを発動して相手を見極めようってなったんだ」
「そんなことが」
「失礼な態度を取ったアキラのことを許してやってくれとは言える立場では無いが、アキラ自身も精神的に追い詰められているんだと思う。
俺から謝罪させてくれ。すまなかった」
「気にしないで下さい。そんな事件があったなら俺だってそうなります。それにあれぐらいの年齢なら生意気ぐらいの方がいいですよ」
「ありがとう。ところで気になったのだが、もしかしてグレンさんは日本人なのか?」
「というとヘイジさん達も?」
「ああ。俺たちは名前からして分かりそうだが、グレンさんは名前から分からなかった。見た目的にそうじゃないかと思ってな」
「あー・・・この世界に来た時にどうやらネトゲで使ってた名前が使われたみたいなんですよ。本名はレンです」
「そうだったのか。いつかまた会えたらゲームの話などしよう」
そう言ってヘイジさんはアキラ達の所へと戻って行った。それと同時にマイに手振りながらスカーレットが帰ってきた。
「マイはいい人だったか?」
「とても優しくていい人。だけど、横にいた男の人は嫌い」
「ははは、そうか。まさかとは思うけど、それをその人に向かって言ったのか?」
「? 言ったよ」
通りでアキラが凄い落ち込んでる訳だ。その様子を見てマイはゲラゲラ笑い、ヘイジさんは慰めている。あのパーティの仲の良さは羨ましくもあるな。
いつか俺も従者をもっと引き連れてパーティを組みたいもんだ。
「さて、アキラ達が行ったらダンジョンに入るか」
「うん!」
ほどなくしてアキラ達がダンジョンへと入って行く。俺たちに向かってマイとヘイジさんは手を振って入って行った。
「んじゃ、行くか。と言っても今回はダンジョン全てを攻略する訳じゃない。目的は新しい食材の確保が第一目標だ。分かったか? スカーレット」
「分かった。美味しいご飯のために頑張るんだね」
「んー・・・そういうことだ!」
そして、ダンジョン入り口の衛兵が合図をしてからダンジョンへと突入する。中は洞窟のようになっていて、階段を下りていくことでダンジョンを進めて行く形式となっていた。
「本当にゲームみたいな感じなんだな」
「うーん・・・この辺の魔物は弱くて手応えが無い」
「まぁ、1階だからなー。下に行けば行くほど魔物も強くなるさ」
このダンジョンは全部で50階層という巨大なダンジョンとなっており、過去に挑戦した人の中での最高踏破階数は38階。
S級冒険者などは挑む必要が無いからとかで、手練れが挑んでいないこともあり、ダンジョン攻略は進んでいないようだ。
「お! 宝箱だ! 何が入ってるだろうな」
「空っぽ・・・この宝箱は嬉しい物なの?」
「中に貴重な物が入ってたりするんだ。何が入ってるかは分からないが、いい物を当てた時は楽しいだろ?」
「んー・・・よく分からない」
「まぁ、そういうものか」
少しずつ着実にダンジョンを進んで行き、下の階へとどんどん下りていく。ダンジョンで倒された魔物はダンジョンへ吸収され、素材だけが地面へと落ちる仕組みとなっている。
そんな仕組みじゃないと魔物の死体だらけで道が凄いことになりそうだもんな。
「ふぅ~やっと5階か。道中の魔物は一緒にスカーレットが倒してくれるからかなり余裕だな」
「グレンお兄ちゃんに褒められたのは嬉しいけど、魔物が弱いからあんまり面白くない」
「あははは! スカーレットに比べたらどの魔物も弱く見えるだろうな」
現在は5階にあるセーフエリアと呼ばれる場所で休憩をしていた。セーフエリアでは魔物の出現は無く、魔物もこの場所には入ってこない安全な場所となっている。
周りには何組かのパーティもおり、ご飯を食べたりして休憩していた。
「アキラ達は見当たらないな。もう先に進んだのかな」
「マイお姉ちゃんもいない」
「よっぽどマイのことが気に入ったんだな。この軽食を食べたら進もうか」
「うん! マイお姉ちゃんはいい人、アキラって人は嫌な人」
うーん・・・さすがは子供だ。容赦がない。
それからダンジョンの階層を進みながら素材を集めていく。道中の魔物から肉を何種類か手に入れたが、これって食べれるのか? 食べれ無さそうならギルドに売ればいいか。
そして、10階へと到達する。
「10階ごとにボスになっていて、ボス部屋へ行くポータルの前とボスを倒した後のボス部屋にダンジョン入り口へと帰れるポータルがあるんだっけか。
ただ、この部屋狭すぎてボス部屋へのポータルが目の前じゃん」
「ボス楽しみ。早くグレンお兄ちゃん行こう」
「そうだな」
本当はボスのところまで来る予定は無かったのだが、スカーレットが強いのもあって余裕でここまで来てしまった。
ポータルに触れてから魔力を流すと、ボス部屋へと一瞬で飛ばされた。
「ん? 誰か戦ってるな。あれは・・・アキラ達か」
ボス戦には先客がおり、アキラ達であった。ボスは黒い霧のような物で覆われており、眼の所だけが紅く光っている。それ以外は、どんな姿かが分からない。
黒い霧の体ラインからして女の魔物ってのは分かるが、それ以外が全く分からないな。
「グレンお兄ちゃん、マイお姉ちゃんたちが危ない」
「どういうことだ?」
「マイお姉ちゃん達よりもボスの方が強過ぎる」
スカーレットがそこまで言うレベルなのか。ボスのステータスは軒並み4桁台で約3000~5000という驚異的なステータスになっている。種族は吸血鬼か。
ダメだ。名前とレベルが見えない。
「確かに最初のボスにしては異常な強さだな。何だ? 何かノイズのようなものがステータスの名前のところにあって、しっかりと見えないな」
「ダメ! このままじゃマイお姉ちゃん達が死んじゃう!」
「マジかよ! よし、俺たちも戦いに参加するぞ」
アキラがボスの一撃でやられる瞬間にスカーレットが防いで何とか攻撃を受けずに済んだ。あの一撃を受けたらステータスが高いアキラでもどうなるか分からないだろうな。
「アキラ、大丈夫か!?」
「お前達か。・・・アイツには気を付けろ。黒い霧は伸縮自在で、それによって攻撃もしてくる。何より厄介なのが、このコウモリ達だ!」
ボスの黒い霧から定期的にコウモリが生成されて俺たちを攻撃してくる。一匹一匹は大したことないのだが、数が多くて処理に困る。
このコウモリを処理していると、ボスが攻撃をしてくるという厄介極まりないコンビネーションなのか。ステータス的にボスを倒せる可能性があるのはスカーレットぐらいか。
「アキラ、マイ、セイジ。俺の提案を聞いてくれるか?」
「いい提案なんだろうな!」
「ああ。俺たちでボスのコウモリを処理して、その間にスカーレットにボスを倒してもらう。鑑定で見た感じだと、ステータス的にボスを倒せそうなのはスカーレットぐらいだ」
「ふざけるな! って叫びたいところだが、俺もバカじゃない。確かにあの娘ならボスを倒せるだろう。分かった! その提案に乗った」
「私も賛成よ。スカーレットちゃん! 支援と回復は任せて思い切り戦っても大丈夫よ!」
「グレンさん、俺はタンク役だ。マイは聞いての通り支援と回復に回るからアキラと2人でコウモリの対処を頼む。ボスからの攻撃は俺が防ぐからそっちに集中してくれ」
「やっと手応えがある相手と戦えるの嬉しいな♪」
そのスカーレットの言葉を聞いてアキラ達は冷や汗を流す。前の時のような狂気を見せるが、今はその方が安心する。
さぁ、共同戦線と行こうじゃねぇか。
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