投資話と美味い話

「えっと・・・これを全部倒したんですか?」

「俺じゃなくて従者のスカーレットが、なんですが。何かおかしいですか?」

「マスターを呼んできますので、少々お待ちください!」


 冒険者ギルドへと戻ってオーク討伐の報告をした。オークの群れとジェネラルオークと呼ばれる存在がいたことを伝え、解体場に行ってオーク55頭とジェネラルオークをアイテム袋から出したところで今の会話になった。


「あははは!! 流石はスカーレットちゃんね。まさか最初のクエストからオークの群れの討伐とジェネラルオークを討伐するなんて」


 豪快な笑いと共に幼女のギルドマスターが登場する。相変わらず小さいなー。


「やっぱり異常なことなんですかね」

「異常どころじゃないわよ。Cランクのクエストぐらいだったら余裕だとは思ってたけど、まさかここまでなんてね」

「ちなみにこのレベルだとクエストランクはどれぐらいなんですか?」

「Aランクよ。それも冒険者を選定するほどのAランククエスト。オークの群れだけならBランク相当ぐらいだけど、ジェネラルオークまでいるなら統率が取れた群れ。その脅威はAランクにもなる」

「まさかそんなレベルだったとは」

「誇るレベルよ。こうなると冒険者ランクも上げないといけないわね」

「ちょ、ちょっと待って下さい! 流石にいきなりそんなにトントン拍子で上げられても困るというか何というか」

「何言ってるのよ。適正なランクに適正な冒険者がいるのは当然よ。もし適正外のランクにいたら、そのランクにいる冒険者の稼ぎ口が減ったりランクポイントが稼げなくてランクが上げれずに新たな適正外の冒険者が生まれることになるの」

「強過ぎるとクエストをクリアし過ぎるからですか」

「そうよ。クエストにも限りがあるからね。だから強いやつはさっさと上がっていくのが普通なの。そこでクリア出来るクエストをやって行き、力を伸ばすの。

 という訳で、グレンのランクは今日からAランクよ!」

「ですよね~」


 そうしてランクが上がったところで今回の報酬を受け取る。


「さて、今回の報酬だけど、オーク55頭とジェネラルオークの討伐でこれだけね」

「こ、こんなに・・・?」

「そうよ。Aランクのジェネラルオーク討伐で金貨50枚。オークの群れの討伐で金貨30枚の合計で金貨80枚になるわ」

「凄いな。これで美味しいご飯を・・・そういえば、解体された後の素材って貰えたりするんですか?」

「欲しい素材だけを貰うことも出来るわよ。何か欲しい素材があるの?」

「肉ですね」

「肉? 料理でもするの?」

「えっと、知り合いの料理人に頼もうかと思って。やっぱり素材の横流しとかってダメなんですかね?」

「なるほどね。流石に全てのオークの肉をタダで横流しとなるとダメね。市場の価格崩壊に繋がってしまうから。そうねー・・・例えば、その料理屋への投資という形ならありかも」

「投資・・・ですか?」

「そう。冒険者が贔屓にしてる店というのは数多くあるわ。そして、その店にはギルドを通じて素材の受け渡しなどが行われているの。それもかなり適正価格から低くね。

 素材の提供の代わりに冒険にとって必要な物を得る。これが投資。だからこそ店は冒険者から気に入られるために色々と画策してるんだけど。例えば賄賂とかね」

「そういうことですか。ですが、適正価格よりも安く仕入れられるなら安く販売できるということで、それこそ市場の崩壊になりかねませんか?」

「それは店の経営努力よ。冒険者に気に入れられる武具、道具、食事。それらを提供できることも大事というわけよ」


 つまり、俺があの料理屋へ投資として素材を提供する形なら、今後倒して手に入れた魔物の肉を料理して貰える場所が出来るってわけか。

 俺自身も料理は出来るけど、この世界の調味料とか何も分からないから美味く出来るかどうか怪しい。だったらプロに頼むのが一番だろう。


「その投資はどうすればいいんです?」

「ギルドの受付で出来るから詳しい話はそこで。スカーレットちゃんも眠そうだし今日は帰って明日にまた来るといいわ。

 どっちにしろオークの解体は明日になりそうだし」

「分かりました。いろいろとありがとうございました」


 ギルドマスターの部屋を後にして宿へと帰る。オーク討伐で帰った後にすぐギルドへ向かったからかすっかり辺りは暗くなっており、スカーレットが眠そうにしているのも分かる。


「宿に帰って寝るか?」

「眠いしお腹も空いた」

「確かに夕飯を食べてないな。んじゃ、あの料理屋に行くか」


 確か料理屋 レストだったな。場所はこの辺りだったはずだけど。


「お、あったあった。空いてますか~?」

「いらっしゃい! あんた達か! 席は空いてるからどこに座ってもいいぞ!」

「ご飯~ご飯~!」


 今日は前とは違った料理を頼んでみたが、相変わらず美味しい。うーん・・・やっぱりこの料理の美味さと店主の人柄の良さは投資するには十分だな。


「すいません。えっと・・・店主の―――」

「俺の名前か。俺はガリアって言うんだ。何か用か?」

「ガリアさん。実は―――」


 ギルドで聞いた投資の話を店主であるガリアさんへとする。その話に聞き耳を立てていた常連客の何人かも周りへと集まってきてしまっていた。まぁ、聞かれても特に困ることは無いしいいか。


「なるほど。兄ちゃんが討伐した魔物の肉を俺の店へ投資という形で卸して料理を提供してくれってことか」

「大将! めったに無い話じゃないか! オークの肉を実際に持ってるところを見ると、かなりの腕前だ。魔物の肉が定期的に手に入るようになれば店も繁盛するぞ!」

「えっと・・・ちなみにAランクに上げられちゃいました」

「「Aランクだって!?」」


 Aランク冒険者はこの王国にいる冒険者でも上位10%いるかどうかの高ランク冒険者らしい。冒険者登録していきなりそのランクとかオーレリアさんも勘弁してくれよ。


「Aランク冒険者なら確かな強さだろう。だが、しかしだな・・・」

「あんた! 何で歯切れ悪く返事しないんだい!」

「げっ! ミリア!? まさか聞いてたのか・・・?」

「最初からね! 店が儲かるってのにうだうだと考えて返事をしないなんて情けない」


 店の奥から肝っ玉母さんのような人が出てきた。どうやらガリアさんの奥さんのようだ。周りのお客さんも、あーあ捕まっちまったから大将も逃げられないぞって笑ってるから尻に引かれてるんだろうな。


「いや、しかしだな俺の店はそういった―――」

「いやもしかしも無い! 冒険者さんから投資の話が来るなんて今後あるか分からないんだ。それも、うちみたいな店をだ。だったら喜んでやるもんだろ! 常連を大切にするのもいいが、店の基盤が安定しなきゃ常連たちも安心して飯を食えやしないよ。

 そうだろう!?」

「「女将さんの言う通りだ!」」

「お前らなー・・・分かったよ。兄ちゃんの申し出を受けようと思う。そういえば、名前を聞いてなかったな」

「俺の名前はグレン。そして、この子がスカーレットです」

「グレンとスカーレットか。投資の話ありがとう。喜んで受けさせていただこうと思う」


 こうして俺の美味い食事場所は確保された。投資の詳しい条件などはギルドで取り決めることになり、今日は打ち上げとなった。


「この書類に記載をお願いします。あと、投資の見返りとしての報酬などはどうしますか?」

「報酬ですか?」

「はい。投資の見返りとして売上の何%を報酬として配当金を頂くや、見返りに武具や食事などを提供して貰うなどですね」

「株の配当金みたいな感じか」


 ガリアさんと一緒に来ていたので、そこら辺の契約の細かいところの打ち合わせを進めて行く。


「クエストによって手に入れた魔物の肉をガリアさんのところに卸すことが投資として、報酬ですか・・・。食事の提供して貰えるだけで凄いありがたいんですよね」

「俺としては正直、売上から配当を出すのは正直厳しい。その代わりに美味しい料理なら提供出来るぞ」

「それで行きますか。余った肉は俺だけでは持て余すので、店での料理で使ってくれて全然いいので」

「は!? それはダメだろ。魔物の肉は買い取りで高価な物もある。それをタダで使わせてくれる訳にはいかない」

「正直、俺はそれでもいいんですが・・・。なら、店の売上が現状の倍以上になって軌道に乗ってから、俺たちが提供した素材を使った料理の売上の5%を配当で貰うというのはどうです?」

「そんなに優しい条件で良いのか?」

「私もそれはいくら何でも優しいと思いますが」

「いいんですよ。恐らく魔物の解体で出る他の素材で十分生きていけるだけのお金は出来ます。だったら、楽しめる部分に残りは投資をしていかないと。

 自分が楽しめる部分のためなのに貰い過ぎて負担になってはいけないですし」

「そういうことならありがたいが、スカーレットの嬢ちゃんはいいのか?」


 ガリアさんはこの条件ではあまりにも自分が得をし過ぎて嫌なのか、スカーレットに次は見直しを考えるように意見を求めた。

 まぁ、投資の話を持って行った時からそういった感じだったもんな。取引である以上は対等である必要があると思ってるんだろう。


「私は、そういうの分からないから何でもいい。美味しいご飯が食べられればグレンお兄ちゃんの決めた通りにする」

「はぁ~・・・マジか」

「ガリアさん諦めて下さい。俺に大きな配当をしたいなら、店を大きくして売上を伸ばせばいいんです。そうすれば、少ない%でも大きな配当になるので」

「・・・それもそうだな。分かった! 長い間考えちまってすまない。ギルドの受付嬢さん、この条件で頼む」

「分かりました。では、これで受理させて頂きます」


 こうして投資話は上手くまとまった。いやー、これで美味しいご飯にありつけるぞ。投資の見返りによる配当もあるけど、それよりもご飯の確保が大事だったからな。

 いくらお金があっても美味しいと思えるご飯が食べれなかったら毎日の活力にならない。

 さて、今日は時間もあるしステータスの確認をしてからクエストを受けるか。

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