初クエスト

「早速クエストを受けますか?」

「うーん・・・一応受けておきます。Cランクだとどんなクエストがあるんですか?」

「Cランク以上ですと討伐と護衛が主なクエストになります。現在あるクエストですと・・・オークを10頭討伐がありますね」

「そのクエストを受けます」

「いきなりオーク討伐で大丈夫ですか?」

「仲間が強いので大丈夫ですよ」

「グレンお兄ちゃんに褒められた」


 こうしてオーク討伐のクエストを受けて宿へと向かう。まだ子供とは言え、女の子と一緒の部屋も悪いと思って2部屋取ろうとした。

 だが、スカーレットから強く拒否されて1部屋になってしまった。嫌われてるより好かれてる方が嬉しいが、年頃の女の子なんだからそこら辺は考えて欲しいよなー。


「グレンお兄ちゃん、お腹空いた」

「そういえば何も食べて無かったな。街に食べに行くか。何か食べたいのとかあるか?」

「何でもいいよ。どんな料理でも美味しくて好きだから」

「そうか。んじゃ、行くか」

「うん!」


 元奴隷ということもあって心の傷を心配していたが、今のところは何とも無いな。だが、暗い過去があるのは事実だ。少しでもその傷が癒えるようにしていかないとな。


「グレンお兄ちゃん、この料理は何?」

「うーん・・・俺にも分からん」

「分からないの? この国にいるのに?」

「まぁ、そこら辺の詳しいことは帰ってから教えるよ。とりあえず食べよう。・・・美味いな!」

「美味しい!」


 肉料理と思われる物とサラダを食べたが、元いた世界と違った味付けだったりで新鮮で美味しい。スカーレットも気に入ったのか、すぐに料理を食べ尽くしてしまった。


「お腹いっぱい~」

「そうだな。さて、帰るか」

「兄ちゃん、ちょっと待ちな」


 急に呼び止められたので、振り返ると大きな男が後ろにいた。目つきは悪く、鍛えられた筋肉で大きく見える体は威圧感さえ感じる。


「グレンお兄ちゃんに何か用?」


 スカーレットは俺の前に出て拳を構える。いや、いきなりそんな事をしたらダメだろ。これは戻ったら教えないとか。


「威勢がいいお嬢ちゃんだな」

「それで、何か用ですか?」

「俺の料理を美味しい美味しいって絶賛しながら食べてくれる食べっぷりがいい客がいたって聞いていてもたってもいられなかったんだ。

 料理人として感謝するぜ! ありがとうよ」


 男はニカッと笑いながら感謝を言ってきた。なるほど。この店の料理人だったのか。この時間帯なのに客はあまりいなかったから、俺たちの声がしっかりと聞こえて飛んできたと。


「いえいえ、この世界でこんな美味しい料理を食べられたのは最高でした」

「この世界? まぁ、いいや。いつでも来てくれよ。あそこまで食いっぷりも良くて褒めてくれたやつならオマケとかもしてやるからよ」

「ありがとうございます。また来ます」


 飯屋を後にして宿屋へと戻る。


「うーん・・・やっぱり風呂入りたいよなー」

「風呂?」

「温かい水に入って体を綺麗にするって感じかな」

「そんなのがあるんだ。私もいつか入ってみたい」

「そうだな。今日はもう疲れただろうし寝ようか」

「うん。グレンお兄ちゃん」

「ベッドは2つあるしそっちのベッドをスカーレットは―――」

「グレンお兄ちゃんと一緒に寝る!」

「は?」


 スカーレットが一緒に寝ると言って聞かず、妹みたいな感じだし仕方ないかと折れて一緒に寝ることになった。


「お父さん・・・お母さん・・・」

「寝言か」


 この年齢で孤独になったんだ。寂しいだろうに。俺が何とかして寂しい思いをさせないようにしなきゃな。何にしても明日のクエストを達成しないとな。


「あれがオークか。豚のような見た目だけど、人型で大きいな」

「あれを倒せばいいの?」

「クエストはそうなってるな。って、スカーレット!?」


 オークが5頭ほどいるところへスカーレットが一気に走り出す。その速度は人間の速度を遥かに超えており、オークが気付いたのはかなり近付いてからだった。

 やっぱり竜種って存在は異常な強さだな。あんなのを見せられたらとてもじゃないが怒らせないようにしないと。

 オーク5頭があっという間に倒されていた。


「全部一撃で仕留めてる・・・」

「あんまり手応えが無かった」

「マジかよ」

「グレンお兄ちゃん、周りに反応がいっぱいある」

「何!? オークは5頭だけじゃなかったのか。ざっと見ただけで50頭以上はいるじゃないか。それに、あのひと際大きいオークはボスか?」

「グルアアアァァァー!!」


 ボス的存在のオークが雄たけびを上げる。鑑定スキルで見てみるか。

 ・・・ボスオークの名前はジェネラルオークっていうのか。レベルとステータスが他のオークと比べて3倍以上違うな。ランクはAランクのモンスターか。Cランク冒険者のクエストでこんなのが出てきたら終わりだろ。

 だけど、スカーレットとのステータス差に開きがあり過ぎる。


「これなら楽しめそうだね」


 スカーレットのその一言に思わず背筋が凍った。この瞬間に見せたスカーレットの狂気は後々になっても忘れることは無い。それほどまでに恐怖した。

 恐らくスカーレットは無意識に戦いを求めてる。それは強者であればあるほど高揚するんだろう。

 んー・・・戦闘狂の美少女の竜。めっちゃいいな。


「ホーミングフレア!」


 スカーレットの両手に火球が現れ、それをオークの集団へと投げる。その火球はオークへ当たると次のオークへと向かって飛んで行く。火球はオークを焼いては次のオークへ、と言った感じで飛んで行き、ジェネラルオークのみが残った。

 1対1で対峙するスカーレットの口元は笑っていた。


「はあああぁぁぁーーー!!」


 スカーレットの拳は真紅のオーラを纏っているが、それが紅蓮の炎へ変わり、最後は蒼炎へと変化してジェネラルオークの胸を貫く。


「もっと本気を出して戦いたかったな・・・」

「スカーレット・・・」

「あ、グレンお兄ちゃん。そうだよね。こんなのおかしいよ―――」

「悪くない!」

「え?」

「確かにその力が悪の道に転じたらダメだ。けど、今回のオークは誰かを苦しめていた魔物だ。それを倒すための力なら何も悪くない!」

「けど、こんなにも戦いが好きで好きで仕方がないのも変だよ」

「そうだなー・・・確かにそこは普通とは違うのかもしれない。けど、スカーレットは力を持て余してるからこそ戦いたくて仕方ないのかもしれない。

 それに自然では弱肉強食が原則だ。このオーク達もスカーレットが無意味に殺したことにはならない」

「どういうこと?」

「オークの素材は食材になったりして余すことなく使われるんだ」

「そうだったんだ・・・。それでも、いつかこの力が良くないのに使っちゃうかもって思うと怖いんだ」

「俺が好きな言葉あるんだが、”大いなる力には大いなる責任が伴う”」

「どういうこと?」

「凄い力には相応の責任ある行動をしなければいけないってこと。スカーレットには類まれなる力がある。それは素晴らしいことでもあり、スカーレットが不安になっているような怖い力でもある。だからこそ責任ある行動をしなければいけないんだ」

「責任ある行動」

「そう。その力を私利私欲のために本能のままに使えば誰かを傷つけてしまう。常にその事を考えて力を使えば間違えることはない。それに俺も側にいる。スカーレットが道を踏み外しそうなら俺が戻してやるさ」

「ありがとう、グレンお兄ちゃん」


 こうしてオーク討伐のクエストは完了した。魔物はどうしたものかと悩んだが、王様が金貨と同時にアイテム袋なるものをくれたのを思い出した。

 国内にあるアイテム袋の中でもかなり上位の袋であり、収納数は桁違いなんだっけ。

 そのアイテム袋の中にオークを次々と入れていく。最後に残ったジェネラルオークを入れようとしたところ、豪華な装飾品の槍が目に入った。


「そういえば、ジェネラルオークが使ってたな。こういったドロップ品が意外といい値段で売れたりすんだろうし持っていくか」

「これで全部入れれた?」

「何も問題無く全部入れれたな。凄い便利な袋だ。さて、帰ったらギルドに報告しつつご飯でも食べようか」

「ご飯!」


 ご飯というワードに嬉しくなったのかスカーレットの歩くスピードが速くなる。そのスピードで歩かれると俺が置いて―――かれてない?

 さっきの戦闘でステータスでも上がったのか? まぁ、詳しいことは帰ってからだな。とりあえず、一気に森を抜けて王都へ帰る!


「へぇ~・・・オークの群れを一瞬で倒すほどの従者を手に入れるとは。王様アイツに報告するべきかどうか」

「イリアス様、意見してもよろしいでしょうか」

「何だい?」

「グレンは我が国に敵対意思を持っていません。ですが、王に報告をして暗部の監視が強まれば従者に気付かれて敵対することになりかねません」

「確かにな。現状でもアイツらが見えるかどうかぐらい離れてやっと索敵の外だ。あの従者はイカれてるよ。まぁ、脅威ではあるが大丈夫だろう。

 うし。適当に報告しておくから監視を続けろ」

「はっ!」


 側にいた女性は一瞬で消える。くのいちのような姿をしており、グレンの元の世界で言うなら忍のような存在である。

 忍者のような服装でありながら抜群のスタイルで妖艶さを感じさせるのがイリアスと呼ばれた暗部のボスである。豊満な体を服の隙間から見える網タイツがより際立たせており、この容姿で見惚れない人間はいないだろう。


「いやはや面白くなってきたな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る