冒険者ギルド
奴隷商を後にして俺は、スカーレットと目的地に向かって歩いている。奴隷自体は珍しくない国だが、人目を惹く容姿のスカーレットが布一枚でいるのは流石にダメだろとなった。
「あの・・・ご主人様、これからどこへ行くの・・・ですか?」
「あぁ、服屋だよ。あと、喋りにくいなら敬語じゃなくていいよ。それから、ご主人様ってのも悪くはないが、俺のことはグレンって呼んで」
「ぐ、グレンお兄ちゃん・・・あ、ありがとう。けど、奴隷である私に服なんて」
「お、お兄ちゃん!?」
まさか、お兄ちゃんって呼ばれるなんて・・・。悪く無いな。こんな美少女にお兄ちゃんって呼ばれるのは、実に悪くない。
キョトンとしているスカーレットに気付いて話しを戻す。
「えっと、スカーレットは奴隷じゃないよ」
「え? どういうこと?」
「スカーレットは俺が買ったけど、奴隷としてではない。従者として一緒にいて欲しいからなんだ。あと、その服装で連れまわしてると俺がヤバイやつに思われるのもある」
「い、一緒にいて欲しい!?」
あれ? なんか違う意味で捉えられたかな。まぁ、いいか。
「スカーレットは自分が何の種族かって知ってるのか?」
「知らないの。名前も住んでたところも分からなくて」
「そうか。何か覚えてる事とかあるか?」
「覚えてるのは、燃え盛る炎で全てが焼かれて焼ける臭いがしてる場所にいることだけ。いろいろな人の悲鳴も聞こえるの」
「辛い事を思い出させちゃったな」
「ううん。今は思い出しても分からないことが多くて何にも思わなくなったから」
スカーレットと会話をしながら歩いていると、あっという間に服屋に着いてしまった。服屋の主人に服を見繕ってもらい、会計をする。
「銅貨で8枚となります」
「すいません。金貨1枚で」
「かしこまりました。こちらがお釣りとなりますので、ご確認ください」
銀貨9枚と銅貨2枚が渡された。銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚だから合ってるな。
「ありがとう。あと、何か冒険者のような仕事をしたいんだけど、そういった場所ってあります?」
「冒険者のような仕事・・・でしたら、冒険者ギルドに行くのがいいと思いますよ」
冒険者ギルドがあるのか。ゲームとかラノベではよく出てくる定番の場所だな。まぁ、確かにそこに行けば仕事は何とかなるか。
服屋の主人に場所を聞いて店を出る。
冒険者ギルド自体はそこまで遠くは無かったので、10分ほどスカーレットと会話をしながら歩いていたら到着した。
「盾と剣をモチーフにした看板からして、いかにもって感じだな」
「グレンお兄ちゃん、ここは?」
「冒険者ギルドだよ。貰ったお金はまだあるけど、仕事をしないといつかはお金が無くなっちゃうからね。さて、受付に行っ―――」
「おいおい! ギルドに女の子を連れてくるようなやつが何の用だ!?」
いかにもって感じの風貌をした男が喧嘩を吹っかけてきた。ラノベとかではありがちな展開だな。ギルド登録前に厄介ごとは勘弁してほしいんだけど。
「グレンお兄ちゃんに何か用?」
「お、おい、スカーレット」
「なんだぁ? こいつの妹か何かか? 下がりな。俺はこの軟弱者に用があるんだ」
「グレンお兄ちゃんをバカにしたね。許さない」
スカーレットが怒りを顕わにした同時に真紅のオーラが拳の周りに集まる。いや、これどう考えてもヤバいだろ。止めなきゃと思う間に事は済んでしまっていた。
「これに懲りたらグレンお兄ちゃんのことを悪く言わないでね」
スカーレットは突き出した拳を下ろしながら喧嘩を吹っかけてきた男に対して言う。いや、その男は冒険者ギルドの入り口から奥の壁まで吹っ飛ばされて意識を失ってるんだが。えぇー・・・ステータス値が高いとここまで強いの?
そういえば、さっきの真紅のオーラはスキルとかなのかな。
「ギルドで厄介ごとはしないようにっていつも言ってるでしょ!」
幼女だ。幼女が奥から怒りながら出てきた。金髪の髪を後ろで一つに結んでポニーテールにしている。見た目的には12、3歳ってところに見えるが。
「ぎ、ギルドマスター! すいません」
「ギルドマスター!? この幼女が!?」
「誰が幼女ですって! こう見えても20歳を超えた成人よ!」
え? この見た目で20歳超えてるってマジ? 普通にありえないだろ。これが異世界なのか?
「はぁ、それで、どういう状況なの?」
「ガンドのやつがこの人に因縁を付けたんです。そしたら、この女の子によって吹っ飛ばされたようでして・・・」
「吹っ飛ばされたよう?」
「はい。あまりの速さに見えませんでした。ただ、拳を突き出していたので、そうなのかなと思ったのです」
「なるほど。あなた名前は?」
「グレンです。こっちがスカーレット」
「・・・奴隷といった感じではなさそうね。詳しい話を聞きたいから付いてきて頂戴」
ギルドマスターに付いて行き、案内された部屋へと入る。机を挟んで座ってギルドマスターが質問をぶつけてくる。
「私の名前はオーレリア。この冒険者ギルドのギルドマスターよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「冒険者として登録しに来たところで、厄介な冒険者に絡まれてスカーレットちゃんが吹っ飛ばしたってところかな」
「概ね合ってます」
「血の気の多い連中ばかりで申し訳ないわね。後でガンドには厳しい処罰を下すわ」
「いえ、そこまでしなくても」
「ダメよ。これは他の冒険者への見せしめでもあるの。最近は礼節を忘れた冒険者が多くなってきたから、釘を刺す意味も込めてやらないとダメなの。
普通に考えて、依頼者もギルドに来るかもしれないのに喧嘩を吹っかける方がおかしいでしょ?」
「それもそうですね」
「そういうことだから気にしないで。さて、私が聞きたいのはスカーレットちゃんについて」
「どういうことです?」
「ガンドは腐ってもCランクの冒険者。駆け出しのFランクや上のランクであるEランクやDランクよりも上のランクの冒険者。素行はどうあれ腕は立つ冒険者なの。
それが一撃であそこまで吹き飛ばすほどの力・・・。何者なの?」
「スカーレットは俺の従者です」
「従者? ということは、マスターサーバントのスキル所持者なの?」
「そうです」
「・・・弱い主よりも強いであろう従者を従えてるということ?」
「まぁ、奇跡的にと言いますか何と言いますか」
「グレンお兄ちゃんは弱くない!」
「ふふふ、ごめんなさいね。あなたの主の事を悪く言って」
「ギルドマスターであるあなたになら話してもいいかもしれませんね」
スカーレットは奴隷商で見つけたこと。そして、スカーレットの種族は竜種であり、圧倒的な強さを持っているということを。
マスターサーバントの能力の詳細、異世界から来たこと、鑑定が出来ることは伏せて話した。それらが他に知られ渡る可能性を減らすためだ。
「竜種!? それは強い訳よ。しかもまだ幼い。まだまだ強くなるって考えたら将来有望になるわね。だけど、角が無いような・・・」
「角折れって奴隷商が言ってました」
「そう。角折れなのね・・・。辛い目にあってきたわね」
「角折れについてよく分かっていないのですが、やはり境遇としては異質なのですか?」
「かなりね。様々な種族がいるなかで、角や尻尾などの身体的な特徴が顕著に出る種族がいるの。そして、それは魔力だったりのステータスが大きく伸びる象徴でもあるの。その象徴を無くすなんてあり得ないわ」
「ステータスに関係してくるなら普通は大事にしますね」
「そういうこと。だからこそ親は子に教え込むのよ。命の次に大事にしなさいって」
「なるほど。他にもこういった子達っているものなのですか?」
「たまにいるわよ。戦争で失った子、金目当てのゴミに奪い取られた子、親からの虐待で失った子などなどね。だけど数は多くないわ。そもそも他種族の特徴である部位を尊重しているから無くしてやろうなんて考えない。
だからこそ、角折れの子は辛い目にあってきたって分かるの」
「そうだったんですね」
「あなたは主だからスカーレットちゃんの心のケアもしっかりしてあげなさいよ」
「もちろんです」
「いい返事ね。さて、長々と留まらせてしまって悪かったわね。いきなりCランク冒険者を倒すほどの人物がどういった素性なのかを知る必要があったの」
「まぁ、自分が同じ立場でもそういった行動をすると思います」
「ありがとう。ギルドへの登録は下の受付で行って頂戴。スカーレットちゃんも付き合わせてごめんね」
「私は大丈夫。それにあなたは悪い人じゃないから好き」
「あら、嬉しい!」
美少女であるスカーレットから好意を持たれたことに歓喜しているギルドマスターのオーレリアさんの部屋を後にして下の受付へと向かう。
「・・・はぁ、まさか王様が言ってた異世界人がギルドに来るとは思わなかったわね。しかも、サーバントに選んだのが角折れの竜種なんて。マスターサーバントで10%の能力を付与されるって考えたら一番なのかもしれないけど、規格外だわ。
何が外れスキルよ。今までは従者に恵まれなかった主ばかりだったからじゃない。今回みたいに従者が猛者だらけになったら異常なスキルになるわ。
それを監視する意味でも冒険者登録してギルドの管轄内にいてくれる方がいいわね」
オーレリアは独り言を言いながら考え巡らせる。何が一番最善手なのかを。
「あの、冒険者登録いいですか?」
「はい。ギルドマスターから話は聞いてます。こちらの用紙に必要事項を書いて下さい。あと、お連れの方の登録はどうしましょう」
渡された用紙の言葉はご都合主義なのか分かる。異世界の文字でも読み書きが出来るのはありがたいね。
そして、スカーレットの登録か。従者の登録って普通はどうするんだろ。聞いてみるか。
「従者の登録ってされる方多いんですか?」
「そうですねー・・・従者を連れている方がそもそもいないので前例は無いです」
「そうですか」
「ただ、テイマーという職業の方はいて、魔物を従えてる人はいます。その方の場合は、街に魔物を連れることもあって従魔として登録という形になります」
「なるほど。従者として登録って出来ます?」
「ギルドマスターの方から言われていますので出来ますよ」
こういった事を見越してたのか。さすがギルドマスターなだけあるな。
「では、それで登録お願いします」
「かしこまりました。では、こちらが登録カードになります。再発行には銀貨1枚掛かりますので、注意して下さいね」
「あのー・・・何でいきなりランクがCから何ですか?」
「ギルドマスターの指示です」
「え!?」
「Cランク冒険者を倒すような従者を連れているやつをFランクから始めるなんてありえない。駆け出し冒険者達の稼ぎ口を無くすことになるからCランクから始めるように。
とのことです」
言ってることは分かるけど、俺もこの世界の駆け出しなんだけどーーー!!
こうして、俺の冒険者としての旅も始まる。
金稼ぎとレベル上げもしなきゃだな。
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