最弱マスターと最強の従者達

花千烈風

転移とスキル

 しがないサラリーマンをしていた三島 怜こと俺は、突然のことに驚いている。

 目の前には何人ものローブを着た人たちがいて、慌ただしく何やらやり取りをしている。おかしい。さっきまで営業先へ向かうために歩いていたはずだ。それが急に場所が変わるなんて・・・。

 見たことがない服装の人たちとトカゲのような人までいる。なるほど。これがよく聞く異世界転移ってやつか!

 漫画やラノベで得た知識で納得しつつも理解が追い付かないで呆然としていると、目の前に1人の女性がやってきて話しかけてくる。


「失礼します。あなたは異世界の人ですか?」

「えっと・・・恐らくは」

「やっぱり! すぐに国王へ連絡を。鑑定者への声掛けも忘れずに!」

「あの、どういう状況なんですか?」

「詳しい話は国王から聞いた方がいいかと思います。それにしても召喚がこうも立て続けに成功するなんて」


 話的に俺以外にも異世界に召喚された人がいるみたいだな。にしても、異世界かー。面倒ごとにならなきゃいんだが。俺は平穏な生活がしたいだけなんだ。


「勇者よ。よくぞ来てくれた」

「勇者!?」

「うむ。異世界からの召喚は勇者を召喚するためのものなのだ。この国では魔物の被害が多く、勇者を召喚して助けて欲しいと考えている。魔物の被害によって国は困窮し―――」


 ありきたりなパターンだ。魔王とかを倒すために召喚したってお決まりのやつと同じ感じらしい。だが、この王様の焦燥感からして、かなり状況は悪いんだろうな。


「して、まずは鑑定によって貴殿のスキルを知ろうと思う」

「スキル?」

「そうだ。異世界から召喚された者は例外なく何かしらのスキルを得るのだ。そのスキルが強力だからこそ勇者と呼ばれるという訳だ」

「なるほど・・・」

「鑑定者! 勇者殿の鑑定を」

「はっ!」


 こうして鑑定者と呼ばれる人が1人来て、俺のスキルを鑑定し始める。見た目的には何もやられてるようには見えないが、鑑定されてるんだろうな。


「国王・・・これは・・・」

「む? どうしたのだ?」

「す、スキルが判明しましたが・・・」

「どうした。さっさとスキル名を言わんか」

「スキル名はマスターサーバントです」

「何!? そうか・・・」

「えっと、どういったスキルなんです?」

「簡単に言うと従者と呼ばれる存在を従えることが出来るだけのスキルだ。世間一般的には外れと言われている」


 この王様外れって言いやがった。従者を従えるスキルか・・・。こういった異世界物の定番だとステータスが見れて確認できそうだが。


「ステータスオープン」


 目の前にステータスがオープンされる。HPとMPってのは体力と魔力総量的な感じかな。次にSTR(力)、VIT(丈夫さ)、INT(魔力)、AGI(俊敏性)ってあるな。それぞれの能力値はあんまり高くなさそうだ。あと、何で名前がネトゲとかで使ってたグレンなんだよ。まぁ、こっちの世界で怜は似つかわしくないからいいけども。


【名前】 :グレン

【種族】:異世界人

【レベル 】 :1

【HP】:300

【MP】:200

【STR】:120

【VIT】:105

【INT】:140

【AGI】:100

【スキル】:マスターサーバント、鑑定

【従者】:なし


 それで、マスターサーバントの詳細は・・・っと、従者を従えることが出来てその能力の10%を主へ還元する・・・? いやいや、これ強過ぎるだろ。これで外れの能力とか他はどうなってるんだ?

 あとは、鑑定か。これは俺がステータスを見れたように他の人のステータスだったりアイテムなど全ての物体に対して知ることが出来るって感じか。


「あのー・・・恐らく勇者としての資質は自分には無いと思うので、しばらくの間だけ過ごせるだけのお金を頂いて自由に過ごしてもいいでしょうか?」

「それはならぬ」

「ならないんですか!?」

「うむ。召喚魔法は大気中のマナを膨大に使うため、他国と協議をして行われるのだ。つまり、勇者が召喚されたという情報は知れ渡ってしまい、危険がある」

「なるほど。下手に単独行動をすれば勇者の力を狙う人間から攫われる可能性があるということですね」

「そういうことだ。過去にも同じような事象があったから警戒しておいて損は無い。あまり自由にはさせられぬから金貨は多めに渡そう。

 この国内であれば監視の目が行き届いて危険はない。まずは従者となる存在を国内から探すのもいいだろう」


 思った以上に王様は悪い人じゃなさそうだな。金貨を500枚ほど貰えた。金貨1枚は日本円に換算すると10万円だから5000万円か。それだけ期待してるのかな。


「まずは王様の言う通り従者―――サーバントを探さないとか。といっても、どこで探せばいいんだよ。あなたはこれから従者となってくださいなんて普通の人に言えないだろ」

『助けて・・・』

「この声は何だ?」

『お願い・・・助けて・・・』

「脳内に響き渡る」


 悲痛な助けを求める声が脳内に直接届いているかのように響く。そして、その声を辿るように自然と体が動いていく。


「ここは?」

「どぉ~も! 初めまして! 私の名前はジョーカーと言います! 以後お見知りおきを」


 突然、目の前に小太りのピエロの格好をした男が現れてビックリする。どう見ても怪しさ満点だな。


「はぁ・・・どうも」

「このお店は何か知っていますかぁ?」

「いや、声に呼ばれて来ただけだから知らないんだ」

「声? 不思議なこともありますねぇ! ここは奴隷市場! ですよ」

「ど、奴隷!?」

「おやぁ、予想外の反応・・・お兄さん、勇者様ですね!」

「何で分かったんだ?」

「周辺国で奴隷制度を知らない人間はいませんからねぇ。奴隷に対してそんな反応をするのは異世界から呼ばれた勇者様ぐらいですよ」

「つまり、この店に異世界から来た人間が来たってことか」

「仰る通りです。勇者様にはいつもご贔屓にしていただいておりますのでぇ」

「常連かよ」

「実際、冒険のお供にするのであれば、冒険者ギルドで仲間を探すよりも迅速ですからねぇ。ぽっと出の勇者様に力を貸す冒険者を探す方が難しいですよ。」

「なるほど。確かに勇者は特別だけど、冒険者も自分の生活があるから力を貸すほどの強い物好きな冒険者はいないか」

「そういうことです! それで、今日はどういった奴隷をお探しで?」


 異世界だからと奴隷制度について自分の中で落とし込んで納得する。全てを元の世界の常識で考えたらやってられないからな。酷い闇の部分ではあるが、俺が何を言ったところで変わらないというのもあるけど。


『自由に―――たい』


 また声がする。再びした声の場所へと歩いて行くと、そこには頭から生えた角が折れた少女がいた。真紅の髪に真紅の瞳。誰がどう見ても美少女という出で立ちでありながら売れ残っている。


「この子は?」

「角折れですねぇ~」

「角折れ?」

「ええ。特別な事情があって角が折れてしまった異種族ですねぇ」

「異種族・・・何の種族なんだ?」

「それが私にも分からないのですよぉ。根元の方から角が折れているのもあってか特徴が分かりにくく判別しにくいのです。なので、安いにも関わらず買い手が付かないのです」


 なるほど。異種族ならステータスも高そうだな。鑑定で調べてみるか。


【名前】 :???

【種族】:竜種

【レベル 】 :10

【HP】:2535

【MP】:3425

【STR】:3588

【VIT】:4325

【INT】:3862

【AGI】:4327

【スキル】:なし


「ぶっ!!」

「ど、どうされましたかぁ!?」

「こ、この奴隷にする!」

「慌てて即決するなんて・・・なるほどぉ。鑑定でステータスを見ましたねぇ?」

「ダメなのか?」

「ダメではありませんよぉ! 鑑定出来るのは極一部のスキル所持者か勇者様か魔具しかありません! つまり、選ばれた人間の特権ということですねぇ」

「なるほど。それで、この子はいくらなんだ?」

「鑑定の驚きからして相当なステータスなので価値を値上げすることも出来ますが、あなたとは何かご縁がまたありそうな気がします。なので、正規の価格である金貨5枚でいいですよぉー!」

「今後は表情などに出さないようにしないといけないってことか」

「今回は私だったから良かったですが、商人であれば吹っ掛けることもありますので気を付けて下さいねぇ」

「分かった。忠告悪いな」

「いえいえ~。それでは、奴隷紋を刻む作業に入りますかぁ」


 奴隷を購入すると、奴隷紋と呼ばれる物を奴隷側に刻むことになる。奴隷紋がある奴隷は主人から一定以上の距離を離れることは出来ず、命令は絶対。主人が奴隷へ命じれば奴隷紋から激痛を与えることも出来る。人権なんてあったもんじゃないな。


「いや、俺には奴隷紋はいらない」

「はて? では、どうされるのです?」

「俺のスキルはマスターサーバント。この子を従者とする」

「はぁ!? ど、奴隷を従者にですかぁ!? 聞いたことありませんよ」

「別に俺がやりたいことだから気にするな」

「私は奴隷が売れるのであれば問題ありませんが・・・」


 ステータス画面にあるスキルを押してマスターサーバントのスキルを発動させる。そうすると空中にウインドウと文字が現れる。


『主従関係を結ぶ相手は、???の竜種でよろしいでしょうか? YES/NO』


 俺は、迷わずにYESを押す。そうして、目の前の女の子が光で包まれると主従の契約が完了したとシステムのアナウンスが脳内に響いて終わる。


「あ、あの・・・私は―――名前が無いんだった」

「この子には名前が無いのか?」

「えぇ、どこからともなく拾われ、名前も出身地も何もかも不明なんですよぉ」

「そうか。だったら、君の名前はスカーレットだ」

「スカーレット・・・嬉しい」


 真紅の髪と真紅の瞳から取ってスカーレットと名付けたが、気に入ってもらえたようで良かった。


「そういえば、鑑定で種族は分かったのですかぁ?」

「あぁ、この子は竜種だ。奴隷にいるぐらいだから珍しくもないんだろ?」

「りゅ、りゅ、竜種ーーー!?」


 ジョーカーの驚きの声が施設内に響き渡る。

 こうして、最初に従者になったのは竜種という最強種族であった。俺のステータスは主従関係を結んだことで一気に成長し、前よりか少しは見れるステータスになっただろう。

 最弱の転移者である俺は、様々な従者に出会い強くなっていく。


【名前】 :グレン

【種族】:異世界人

【レベル 】 :1

【HP】:300→554

【MP】:200→543

【STR】:120→479

【VIT】:105→538

【INT】:140→526

【AGI】:100→533

【スキル】:マスターサーバント、鑑定

【従者】:竜種 スカーレット


【名前】 :スカーレット

【種族】:竜種

【レベル 】 :10

【HP】:2535

【MP】:3425

【STR】:3588

【VIT】:4325

【INT】:3862

【AGI】:4327

【スキル】:マスターへの寵愛

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