第238話 アラーム音
仰々しい言い方に感じる騎士団長の出張。
またの名は修学旅行。
学年違いの修学旅行から戻って来てからは、あっと言う間に時間が経過していき、気付けば12月22日終業式を迎えていた。
12月の後半にもなると、耳や鼻先が痛いと感じる寒い日々が続くようになっている。
そのため、もしも暖房設備のない体育館に集合して終業式が行われていたら、ある意味拷問と呼ばれてもおかしくないのかもしれない。
特にスカートを履く女子の姿を見るだけで、こちらにまで寒さが伝わって来る気がする。
服装は自由にしていいと校則で認められているのだから、もっと厚着したらいいのに。
冬休みを前にして風邪を引いても大変だろうに。
まあ、制服は今しか着ることのできないブランドのような物だと莉子さんも言っていたし、承知の上なのかもしれない――。
ただ、今回の終業式は今までと異なっていることがある。
夏休み前の終業式で疑問に感じたこと。
夏冬等に訪れる過ごし難い気温のときは、体育館に集まらずモニター等を活用した方がいいのでは?
僕はこの疑問を古町先生にぶつけていたのだ。
結果、古町先生が動き学校が対応してくれることとなった。
そのため、今日の終業式は寒さに凍えることなく、暖房設備のある教室でモニター越しに校長先生の話を聞いているという訳だ。
うん、体育館と比べれば快適だ。
着席したまま聞けるというのもいい。
良いことしかないな。
まあ、デメリットを無理に挙げるならば、快適なせいで普段以上に校長先生の話で睡魔が襲ってくるというくらいだろう――。
そんなこんなで睡魔も耐え凌ぎ切った終業式。
それから、冬休み中の過ごし方や明けてからの行事説明を古町先生から受けて迎えた放課後。
教室の中は友人同士で集まり、冬休みの過ごし方について話し合う声で賑わっている。
美波とポミュの木にオムライスを食べに行った12日に、朝のニュースで流れた話題だけど、お米大好き
クリスマスにふたご座流星群が観測できるから、特定の相手がいない人同士で、前日の新月の夜からお泊り会をして、一緒に観ようと話す女子。
その他にもさまざまな話題が聞こえて来るけど、僕は一歩も動けずにいる。
美海や幸介、友人たちとも挨拶を済ませ、あとは帰るだけの状態なのに通せん坊を食らっているのだ。
「何か用事でもあるのかな、
「冬休み」
「うん?」
「冬休み、1日……半日でいいから時間ちょうだい」
「それくらいなら大丈夫だけど? 改まったりしてどうしたの?」
「1月1日は何してる?」
「特に決まった予定はないけど、初詣には行けないから家で過ごしているかな?」
クロコを連れて美波や母さんのいるマンションに帰ってもいいが、今のところ特には決まっていない。
「そう……また連絡する」
「うん、またね?」
なんだかよく分からないけど、山鹿さんが分からないのはいつものことだ。
よくあることでもあるし、道も開けたことだから帰るとしようか。
今日は少し忙しいからな。
美容室で髪と眉毛を整えたあとは、冬至用のゆずを買いにスーパーへ行きたい。
夕方から始まる『空と海と。』でのアルバイト前に、明日の準備だってしておきたい。
夜には不動産のアルバイトだってあるからな。
明日に備えて早く寝たいけど、こればっかりは仕方がない。
自分で頼んでアルバイトさせてもらっているのだから。
今日の予定を考えながら、お昼を買うついでに
ちょこっとだけクロコに遊んでもらってから、美容室へ向かう。
12月に入ってから2、3日置きにやってくるクロコの甘えん坊モード。
可愛いし癒されるけど少し心配だな。
食欲もあり排泄物も良好、毛艶に変化もないから心配いらないと思うけど――あくまで素人判断だからな、嫌がるだろうけど今週のどこかで病院で診てもらうとするか――。
「はい、かんっせぇ~い!! 今日も格好良くバッチリ決まったわよ!!」
「大須賀さん、いつもありがとうございます」
「いぃ~え~! こちらこそ八千代さんにはお世話になっておりますから」
「大須賀さん、忙しいのに……逆に迷惑になったりしていませんか?」
「まっったくよ!!
あたかも僕が紹介したような感じで話が進んでいるけど、今名前が挙がった中で僕が紹介した人は美愛さんだけだ。あとは、美海や莉子さんからの紹介となっている。
そう否定の言葉を述べたが、
始まりは僕だからということで押し切られてしまった。
ただ、それを言ったら僕を紹介してくれた幸介が始まりなんだけど……とは、言えるような空気ではなかった。
そしてさらには、会計を済ませ出入り口で見送ってくれるとき、無茶な相談をされてしまった。
「そんな八千代さんに期待してなんだけど、一つ頼まれてもらってもい~い?」
「ええ、お世話になっておりますし僕にできる範囲であれば。過度な期待は困りますが」
「最近、アシスタントが辞めちゃってねぇ~。新しい子募集しているんだけど、中々見つからないのよぉ。もし、誰かいい子がいたら紹介してほしいの」
「分かりましたって言いたいですが、知り合いにはいませんね。まあ、もしも見つかれば声を掛けてみます。ちなみに女性限定ですか?」
「希望が許されるなら女の子がいいけど……このさい男の子でも構わないわ。一度だけ面接……と言っても、ただお話するだけになるけど、よさそうな子がいたらそのことも伝えておいてもらえると嬉しいわ」
「ええ、承知しました」
「適度に期待してるわねぇ~!!」
そう言って見送ってくれた大須賀さん。
最後に次回ヘッドスパ無料券を無理矢理持たされてしまったため、責任が圧し掛かって来たけれど――。
券を使用しなければいいだけかと、開き直ることに決めた。
それからは、予定した通りに時間が過ぎて行き、日付が変わり冬至が終わってしまったことに気付きながらも、ゆず風呂で体の疲れを癒し、体についたゆずの匂いをしっかり洗い落としてから就寝の準備を整え、深夜1時を過ぎた時間にベッドへ入った。
明日、美海を迎えに行く時間は12時。
寝坊することはないだろうけど、
一応クロコにお願いしておくことにしよう。
「クロコ、明日は美海とデートに行ってくるね。いつもみたいに頼んだよ」
「――」
「クロコ?」
返事は戻って来なかったが、尻尾が大きく横に揺れたということは渋々だけど了承してくれたのだろう。
やきもちかな?
と、考えながらも、お腹に乗るクロコに『おやすみ』と言って、1日が終わった、が――――。
翌朝。
初めて――僕の携帯からアラーム音が鳴り響くことになった。
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