第236話 私、佐藤望は突っ込みたい

「ねね、美海ちゃん? ちょっとお部屋見て回ってもいい?」


「え? うん、大丈夫だけど……見て回るほどかな?」


「美海ちゃんは分かっておりませんね。望さんは莉子と同じでワクワクしているのですよ、きっと」


「そそ! 扉がウィーンって開くのとか面白くない? 豪華な四姫花室にスクリーンの裏に隠された扉とかさっ。他にも何か仕掛けがあるかもしれない!? って思ったり思わなかったり~?」


「ふふ、変なの」


「せっかくだから……しのしのも一緒に探検しよ!! たまには千島ちしまっちから離れてさ」


「いえ、お誘いはありがたいですが、わたしめはみみ様のお傍から離れるわけには――」


「許可――」


「はいっ、許可もとれたことだし! しのしの、一緒に四姫花室を探検しよぉ~!!」


「みみ様のお傍を離れるのは心苦しいですが……実を言うとわたしめもうずいておりました」


「おっ、気が合いそうだねぇ……それじゃあ、レッツラゴー!!」


「いざ参りまする!!」


 ――って、始まった四姫花室の探検。

 広いは広いけど探検できるほど広くもなく、説明書きにあったこと以外の秘密も見つからず、『あっ』という間に飽きてしまった。


 でも私としのしのは、いまだに探検しているフリをしている。

 それはどうしてかと言うと――。


「ねぇ? 始まりが光さんでしょ? それに美緒さん……つまりそれって、やっぱりこう君は年上が好きってことになるよね? 五色沼先輩と一緒に過ごしていて平気かなぁ……」


「先ほども言いましたが誤っておりますよ、美海ちゃん。もう一度訂正しますが、郡さんは莉子に対してもお顔を真っ赤に染められました。このことを考えれば年上好きということは簡単に否定できます。まぁ? 莉子の包容力を考えたら? 莉子はもしかしたら郡さんにとって年上に当てはまるのかもしれませんけど??」


平田ひらた――」


「おっと美波ちゃん? それ以上は争いになりますよ? いいのですか? 莉子を平たい胸族と呼んでいいのは莉子オンリーですからね?」


「五色沼先輩って美人で年上でしょ? それなのに子供っぽくて、儚い感じでついつい手を貸したくなるような人で……意外としっかりもしているし、こう君はギャップに弱いところもあるから……」


「愚問――」


「そうです、考え過ぎですよ美海ちゃん。郡さんなら……まぁ、鬼むっつりですから流されそうな危険な場面はあるかもしれませんが、美海ちゃんを裏切るようなことはしませんって。そのことは美海ちゃんが一番ご存じのはずです。そんなことよりも美波ちゃんです。今の『愚問』にはもしや2つの意味を込められたのではありませんか?」


「ふっ――成長した――莉子――――」


「ふふふふ……どうして自身の豊満な胸を抑えながら成長したと言っているのですか? ケンカを売っているなら買いますよ? 義兄妹きょうだい揃って煽動せんどうするのがお上手ですね? 郡さんの義妹だからといって手加減などしてあげませんからね? むしろ郡さんに対して溜まりにたまっている不満ごとぶつけて差し上げますよ?」


「私が心配しているのは、五色沼先輩にこう君が鼻の下を伸ばすことと、他の子がこう君に惚れ……ねぇ、2人とも? もっと真剣に――」


 ……うん。私の手には負えない。


 この好き勝手に会話する状況はまさに『女子』って感じ。

 ちょっと混沌としている。

 しのしのもそう思っているから、さっきから身動き一つ取らず壁に向かってメンチ切っているんだと思う。


 私が言うのもなんだけど、ちょっと変な子だよね。

 しのしのって。


 そういう私も本棚にある興味もない本を抜き差ししているんだけどさ。

 これで仕掛けが作動して秘密の扉が開いたりしないかなぁって、期待もほんの少ししているんだけどね。


 それより八千代っち。


 いよいよ顔を赤く染めるようにまでなったかぁ~……本人としては嬉しいだろうけど複雑な気持ちでもいそうだなぁ。


 ま、器用な人だからね。

 もしかしたら今ごろは克服していそうな気もするけど。


 始まりが光さん。

 私は面識がないけど、義理のお母さんに対して八千代っちは顔を染めたって千島っちが言っていたなぁ。

 その光さんに頭を撫でられたあと、八千代っちが顔を染めたって聞こえてきた。

 でもなぁ……顔を染めた理由はそっちじゃないと思うんだなぁ。


 それで次に八千代っちの赤面を見た人はりこりーだ。

 朝のランニングのあと、りこりーが八千代っちを汗ばむ顔で見つめたからだと、りこりーは嬉しそうに言っていた。

 でもなぁ……やっぱりそっちじゃないと思うんだよなぁ。

 てかてか、汗ばむ顔に見つめられて顔を染めていたら、ちょっと引いちゃうかも。

 まぁ、人のフェチにとやかくは言わないけどね。

 私もゆうの頭のてっぺんの匂いをクンクンするの好きだし――。


 んで次は古町先生。

 これは美海ちゃんが言っていたことだから正確かどうか分からないけど、なんでもあの厳格な古町先生が、八千代っちに対して頭を撫でようとしたとか何とか。

 プライベートの場だったとしても想像できないよ。

 これに関しては、八千代っち本人に聞かないと分からないけど……やっぱりこれも違うと思うんだよなぁ、勘だけどさ。


 もしかしたら他にもあるかもしれないけど、この場で聞こえて来た話はこれで最後だ。

 八千代っちが顔を染めた相手。それは美海ちゃんに対して。


 美海ちゃんが言うには、八千代っちが5日間も美海ちゃんと会えないのが寂しいからって、夜に電話したいと言ったあとに赤くしたらしい。

 やるじゃん、八千代っち。

 やっぱり重めだけど、

 美海ちゃんも望んでいたことをハッキリと言うところは男らしいぞ!


 でも――。


 なにそれ? のろけ?

 私もそんなことゆうに言われてみたいっ!!


 ……って。今は私の話はいいか。


 それよりもやっぱりなぁ、これも違うんじゃないかな?

 だって美海ちゃん、何かを言おうとして口をつぐんだからなぁ、もしかしたらそっちが理由じゃないかなぁ。


「美海――」


「そうです、美海ちゃん。莉子と美波ちゃ……美波はこれから戦いをおっぱじめますので、望さんにでも聞いてもらうといいです。頼りになりますし第三者ですからね。きっと、よい回答を得られるでしょう」


 おっと、こっちにまで飛んできちゃった。

 りこりーの期待に応えたいけど、もうちょっと聞かないことには私にも分からないよ。


「望ちゃん、あのね――」


 あぁー……んもう、この不安そうな表情っ!!

 恋する乙女って感じで、ほんっとうに可愛いぃ!!


 でも、もう一度同じお話を聞くのは胸がいっぱいです。


「あ、美海ちゃんごめんね? 盗み聞くつもりはなかったけど、お話は聞こえていたんだ。私の考えでよければ言えるけど……それでもいいかな?」


 本当に盗み聞くつもりなど全くこれっぽっちもなかったんだけどねぇ~。

 今度八千代っちにアイス……だと寒いか。

 何か別の物ご馳走してもらおっと。


 それで――。

 光さんに関しては、『光さん』から『母さん』って呼び方を変えるのに恥ずかしくなったこと。

 思春期の男の子には難易度が高いと思うんだよね。


 りこりこに関しては、単純に面と向かってプレゼントを渡すことに恥ずかしくなったこと。

 まぁ、プレゼントの中身が中身だからね。


 古町先生に関しては、八千代っちに聞かないと分からないけど、勘で違うと思ったってこと。

 多分だけど、光さんと同じように呼び方に関わる何かだと思うんだよね。


「それで美海ちゃん」


「え、はい?」


「私も美海ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、いいかな? それの答えでハッキリわかる気がするんだよね」


「うん、私に答えられることなら」


「うんうん、じゃあ単刀直入に聞くけど――さっきは何を言い噤んだのかな?」


「えっと、それは……えへへ」


 可愛いかよぉー、えへへじゃないよぉー。


 え、何?

 そんなに恥ずかしいことなの?

 八千代っちがいないのに、ほんのり耳まで染めちゃってさっ。


「えっとね、恥ずかしいんだけどね……その……キス、しちゃったの」


「――えっ!?」

「は!?」

「むうっ――!?」


 いつの間に私の後ろまで来ていた、りこりーと千島っちにもビックリだけど、そんなことよりも!!


 え、なに? キスって、あのキス????


 美海ちゃんと八千代っちが!?


 両片思い状態で付き合っているみたいな関係だけど、まだ正式交際に至っていないのにキス!!?


「あ、でもね! 電話する約束をした時にね、指切りをして……こう君の小指にちょっぴり唇を当てるくらいのだよ?」


「な…………なっるほどねぇ~~」


 まぁ――そうだよね?


 きっちりしている2人なら、まだするわけないかぁ。

 興味が失せたのか、背後にいた2人はまた言い争いを始めているし。

 私も肩の力が抜けたから、ちょっと休みたいけどその前に――。


 美海ちゃん、紛らわしい!!!!


 あと、どう考えたって八千代っちが赤面した理由はソレだよっっ!!!!


 間違いなく!!


 不意にそんな大胆で可愛いことされたら、さすがの八千代っちも耐えられなかったんだと思うよ!!


 ちょっと可哀想に思うくらいだもん。

 でも――今度私もゆうにやってみようかな?


 顔真っ赤にしたりして?

 ははっ、慌てる優の姿はちょっと面白そうだし試してみようかな。


「美海ちゃん? 八千代っちはね、慣れていないからか分からないけど能動的なことで赤面をしたみたい」


「うん?」


「でもね――受動的……唯一、八千代っちの不意をついて赤面させたのは美海ちゃんだけってことだよ」


「えっと、つまり?」


 ここまで言ってあげれば、いつもの美海ちゃんなら察することのできる簡単なこと。

 それなのに分からないのは、八千代っちに恋をしているから。


「八千代っちの心を動かせるのは美海ちゃんだけってことだと思うな。だから安心して大丈夫だと思うよ?」


「そ、そうかな? でも……えへへ、私だけかぁ……ふふっ、ありがとう望ちゃん!! 私、今日の夜にでもこう君に聞いてみるねっ」


 うんうん、それがいいと思うよ。

 まぁ、私が何か言わなくても美海ちゃんは自分で解決したと思うけど。

 でも、これで一件いっけん――。


「これにて一件落着ですね。ささ、そろそろ昼休みも終了となります。みみ様、教室へ戻りましょう」


「望ちゃん、莉子ちゃん、私たちも戻ろっか」


「美波ちゃん、今日のところはこれで勘弁しておいてあげましょう」


「ふ――」


 なんだかなぁ~、ずっと壁相手にメンチ切っていた、しのしのに美味しいところ持って行かれてスッキリしないなぁ……って思ったけど――。


 美海ちゃんが可愛く笑って、手を繋いでくれたならそれでいっか。


「冬休みが楽しみだね美海ちゃん?」


「うんっ!」


 八千代っちが帰ってきたら、赤面事件簿の報告ついでに聞き取りをして、美海ちゃんが可愛かった自慢でもしよっと。


 その笑顔は見るからに乙女。


 喜色きしょくの表情を浮かべた美海ちゃんを見ながら、最後にそんなことを考えて四姫花室を後にしたのだ。


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