第232話 空中庭園からの眺めは筆舌に尽くし難かったです

 なんとなく。

 ただなんとなくではあるけれど。


 赤面のコントロールができるようになった気がする。


 ハッキリとした理由など分からない。

 根拠のない自信。


 けれどきっと――月曜日の夜に起きたことがショック療法となったのだろう。


 あれに勝ることなど早々起きることはない。

 だから平気、そう考えることにした。


 赤面コントロールを身に付けた日の翌日。


 5日の火曜日は騎士任命と騎士団の名称を決める期日となっている。

 本宮先輩の呼びかけで集まったのは、月美さんを除いた四姫花の3人、風騎士委員団に加え新たに任命される騎士、それと現生徒会役員となった。


 集まった場所は前回の大講義室とは異なり四姫花室。

 相変わらずの女性率の高さに居心地の悪さを覚えるものの、ひと先ず騎士の任命から行う運びとなった。


「それでは騎士団長殿――とは言ったものの、顔ぶれを見れば誰がどの姫に就くかは予想できますが、騎士の任命をお願いいたします。まさかとは思いますが、先に夏姫様や他のどなたかに漏らしたりはしていないだろうね?」


「任命までは話してはいけない。決まりですからね、例えそれが美海相手だとしても漏らしたりしませんよ。それより本宮先輩。見習い騎士制度を承認いただきありがとうございます」


 候補者が見つからず一番頭を悩ませていた美波の騎士。

 見習いという名の通りに仮ではあるものの、おかげで目処がたったからな。

 難航すると思っていた交渉だけに、白岩さんには感謝しないといけない。


「ああ、別に構わないよ。代わりに厳しい条件を付しているからね。それに――新しい体制や制度には、新たなルールの設立や既存する規則の変更はつきものだ。だから私は寛大な心で、理に適っている提案ならば、暫らくは受け入れる気持ちで臨むとするよ」


 自分で自分に対して寛大と言い切る辺りが本宮先輩らしいが、それに助けられているのもまた事実。


 だから僕は素直にお礼を告げ、騎士を任命することにする――。


「新たな騎士として、1年佐藤さとうのぞみと同じく1年白岩しらいわ羽雲わくの2名を。続けて見習い騎士として、1年はた幸介こうすけと同じく1年国井くにい志乃しのの2名を任命します」


 この場では、後夜祭で行ったような任命の儀を行わず、僕の手から徽章の授与だけを行った。

 幸介と国井さんに限っては、仮の騎士となるため2人で一つの徽章となる。


 そこから続けて担当騎士を任命する流れとなり、最後に騎士団名の発表となる――。


 春姫の美愛みあさんに就く春騎士として船引ふねひきすず

 すでに風騎士委員団に所属しており、悩む必要もなく一番初めに決めることができた人選だ。


 夏姫の美海みうに就く夏騎士として佐藤さとうのぞみ

 土曜日に出掛けた時にお願いしたら、快く引き受けてくれた。前期末試験の順位も30位のため問題ない。


 秋姫の月美つきみさんに就く秋騎士として白岩しらいわ羽雲わく

 生徒会から転属の許可も得ているし学年3位でもある。月美さんが評価もしているため、そのまま就いてもらうことにした。


 冬姫の美波みなみに就く冬騎士として1年はた幸介こうすけ国井くにい志乃しの

 厳しい条件を付されたが、2人の承諾は得たためお願いすることになった。


 騎士団長補佐として1年平田ひらた莉子りこ

 本来の肩書は副団長となるが……名称は補佐がいいと言う莉子さんの希望で補佐となっている。


 そして――。

 騎士団長として僕、八千代やちよこうりを筆頭に、以上の6名を加えて、『087ゼロハチナナ騎士団』が結成された。


 今は省かれたが、騎士団から生徒会に派遣されている日和田ひわだけやき


 それとは反対に生徒会から騎士団に派遣されている山鹿やまがはふりの2名に関しては監査役となるため、特殊な立ち位置となっている――。


「ハワイ語のOHANA(おはな)から、087ゼロハチナナでオハナ。運命共同体、か――。込められた意味もそうだが、名花高校に相応しい名前だね。ひと先ず、結成おめでとうと言っておこうか、千代くん」


「ええ……ありがとうございますと言っておきます」


「確認になるけれど、姫に就く騎士は1人まで。つまり幡もしくは国井のどちらかには退団してもらうことになるよ? 厳しいことも言うけど、後期末試験の結果次第では2人とも退団してもらう」


「2人の承諾も得ておりますので問題ないです」


「なら結構だ――」


 居心地が悪くなった生徒会を辞めて、風騎士委員団に移りたいと相談してきた白岩さんを通して、本宮先輩に交渉したこと。


 それは騎士の条件にある期末テスト学年30位以内の緩和についてだ。


 これに対して本宮先輩は、破格の特権が付される以上これくらいは達成してもらわねばならないと断った。


 けれど、莉子さん同様に次回の期末テストで30位以内に名を刻むと約束するなら、騎士見習いとして認めることを提案してくれた。


 代わりに見習い期間中の騎士特権付与はなし。

 さらに、万が一にも達成できなかった場合、退団に加えて一つの例外を除いて騎士になる権利が剥奪されることになる。


 前期末試験結果を考えるならば、かなり努力しないと厳しいが、幸介は要領もいいし地頭がいい。


 心境の変化でもあったのか、美波の騎士になることにも抵抗もなく、あっさり『任せろ』と言ってくれた。


 そうなると国井さんが心配だが、趣味を封印して勉学に励むとやる気をみなぎらせていた。


 達成できるかは未知数だが、騎士団長として、美波の兄さんとして、可能な限り協力するつもりだ。


「千代くん、この後はアオハル実行委員……の話をしようかと思ったけれど、止めておこう。私なら明日以降でも千代くんと話す機会はいくらでもあるしね。それなのに今日という貴重な時間を奪ってしまえば、夏姫様や冬姫様の反感を買ってしまう。だから今日はこれで解散としよう――」


 美海と美波の視線に負けた本宮先輩は、陽気に笑いながら解散を宣言した。

 この時点で、開始から30分が経過しているが、ホームルームの始まる時間まで余裕がある。


 さて、どうしようか――と、悩む間もなかった。


 すでに見学を済ませている美海、美波、美愛さんの説明付きで、”空中庭園”の見学をすることに決まったからだ。


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