第230話 好きな人に後ろから撃たれました
放課後。
僕と美海が2人仲良く向かった先は、
以前から3人で来たいと考えていたカフェだ。
学校を出て、店の前で合流した美空さんと共に店内へ。
「ふふ、今日は私まで誘ってくれてありがとね、郡くんっ!! カフェ『OHANA(おはな)』、良さそうなお店ね。確か……ハワイ語で『家族』や『運命共同体』って意味だったかしら?」
今改めて聞いてもいい名前だよな。OHANAで運命共同体か――なるほど。
「郡くん?」
「あ、いえ……その通りでさすが美空さんだなって。秋休みに学校の先輩と来た時から美空さんと美海と一緒に来たいなって考えていたんです。バタバタしていたため日が空きましたが、ようやく来ることができました」
「ふふ、これでもカフェの経営者ですから。でもそっか。ちなみに学校の先輩は女の子だったりして?」
言えば何倍にもなって返ってきそうだから言わないけれど。
自慢げに胸を張る美空さんはどこか幼く見えて、普段の綺麗な美人なお姉さんというよりは、可愛い女の子にしか見えない。
「男性の方です。デートの下見に付き合ってほしいといった理由でご馳走になりました」
「あら、そうなの? 郡くんのことだから当然に女の子だと思っちゃった。ごめんね?」
確かに女性の知り合いばかり増えているけど、当然に女の子とか偏見もいいところだ。
幸介の他には、順平や優くん、元樹先輩、三穂田さん。
あと……そうだ最近は長谷と小野とだって出掛けたりもした。
まあ、その2人は『八千代郡』として出掛けた訳じゃないからカウントしていいか怪しいけれど――。
僕が1人、脳内で自問自答していると美海が援護射撃をしてくれた。
「お姉ちゃん? それは間違えているよ」
「そうなの? 大きな間違いはないと思うのだけれど?」
うんうん、いいぞ美海。
美空さんに言ってやってくれ。僕には男友達もいるってことを。
「こう君はね、女の子からもそうだけど男の子からもモテモテなんだよ?」
いいや、それは違うぞ美海。
それこそ間違えている。
「あ、確かに。お姉ちゃんが間違えていたね――改めてごめんね、郡くん?」
「美海も美空さんも冗談はそのくらいにしましょう」
「「冗談じゃないよ??」」
息を揃えて返事を戻すと共に首を傾げて僕を見て来る2人は、何とも大真面目な顔をしている。
その仕草や顔はとても可愛いけど、冗談じゃないと言う2人に対して『それこそ冗談だろ?』といった気持ちが込み上げてきてしまった。
援護射撃どころか、背中から撃たれた気分だぞ。
だからつい、気持ちを誤魔化すため、先に届いていたアイスティーへと手が伸びてしまう。
12月にもなると、段々と気温も低くなり寒いと感じる日が増えてきている。
そのためホットコーヒーとアイスティーのどちらかにしようか悩んだが、喉を潤すと共に冷静になることもできるから、アイスティーを選んで正解だったようだ。
冷静になることはできたが、同時に空腹までも思い出してしまった。
早く届かないかな――。
「それよりお腹空きましたね」
「「ふふっ」」
「またそうやってこう君ったら」
「都合が悪くなったのね」
「え、いや今のは別に誤魔化したわけじゃ――」
「お待たせいたしました。先に『OHANA(おはな)特製サラダ』です」
以前――。僕と元樹先輩の関係に誤解した結果、女性従業員を生贄に捧げた男性従業員がサラダを初めとして、それからも注文した料理を席まで運んでくれた。
ランチの時間から外れ、今はディナーメニューのため、2人にお勧めしたかった『ロコモコプレート』を食べてもらうことは叶わなかったが、注文した料理はどれも美味しくて店内の雰囲気も悪くない。
2人との会話も楽しい。
けれど、配膳するたびにチラチラと美空さんを見てくる視線だけが気になってしまった。
「すみません、美空さん。不快ですよね……」
「あの程度なら可愛いものよ。だから郡くんが気にする必要はないからね? それより遠くから郡くんをチラチラ見て来るあの子が来るよりはずっといいかな」
美空さん、さらに美海が見る視線の方に顔を向けると、以前犠牲にされた女性従業員と目が合ってしまった。
するとその子は何やら意を決したような表情をして、
「お
僕ら3人のグラスには、今もまだ8割方お冷が残されている。
つまりは手つかずと言っていい状態だ。
だから不要なことを伝えたのだが――僕に用事があるのか、モジモジした様子をして立ち去ろうとしない。
「えっと、どうかされましたか?」
「お……」
お? なんだろうか、嫌な予感しかしないぞ。
『よし。言ってやる』と伝わる程に決意漲らせる表情をしないでくれ。
「お、お客様は男性がお好きなのではないのですか? 以前、体格のいい方から告白されていましたよね?」
まあ、そんな気はした。
そのため質問に驚き固まる美海や美空さんとは違って、僕は
あきらかに残念な表情をして去って行く女性従業員を見送ってから、顔を2人に向き直すと――。
「ねっ、お姉ちゃん?」
「そうね、そうなのね」
「…………とりあえずデザート頼みましょうか」
反論する言葉も気力もないため、そう言うだけで精一杯だった。
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