第225話 幼馴染はポンコツだったようです

 今日、昼休みを共に過ごす人たちは、火曜日に集まる顔ぶれではない。


 四姫花室、風騎士委員団室の確認も合わせて、所属する人たちと合同で昼食を取ることに決まったためだ。


 場所は9階、委員会エリアの一角。


 入室するためには四姫花が持つ徽章及び騎士団長が持つ徽章が鍵となる。

 登録された徽章がセンサーに反応して、自動で扉が開くシステムとなっている。


 その説明をされたとき『ハイテク』。

 そんな感想が出たけど、それとは別に、

 いやそれよりも『絶対になくせない』。


 その感想の方が強かった――。


「なんか……凄い仕掛けだね、こう君」


「本当に。こんなにお金かけたりしないで、普通の鍵でよかった。いや、むしろ普通の鍵の方がよかった」


 本当に驚いているのか、ほんの少しだけ口が開いている。

 滅多に見られない美海の横顔を見ながら、同意の言葉を返事した。


 普通の鍵なら、万が一紛失したとしても鍵交換費用を最低限で抑えられるからな。


「莉子は結構ワクワクしておりますよ。映画の世界みたいで格好いいなと」


「莉子ちゃん好きそうだもんね、こういうの」


「はい、好きです。大好きです。本当に好きです」


「莉子ちゃん? どうしてこう君を見て言っているの?」


「まぁ、まぁ、落ち着いて下さい美海ちゃん。莉子の思いは『友達』の意味ですから。ところで郡さん」


「えっと、なに?」


「ここは学校ですよ?」


「そうだね」


「騎士団長が着任早々に風紀を乱してどうするのですか」


「僕だけのせいじゃないと思うけど?」


「そうですけど、貴方は取り締まる側なのですから流されてはダメですよ。しかもこの場は、風騎士委員団室です。このままでは悪の巣窟……いえ、18禁コーナーとなってしまいます」


 莉子さんが苦言を呈するのも仕方ない。

 僕の右腕に美波、左腕に美海が抱き着いているのだから。


「と言うことだから、美海と美波は僕から離れて」


「や――」

「私もやっ」


「可愛いですけど、『やっ』じゃありません。いいから――」


 可愛くごねる2人と莉子さんが言い争いをしている間に、室内を見た感想でも整理しよう――。


 先ず四姫花室から入った僕らは、その豪華な内装に驚いた。

 用意されているソファやテーブル、絨毯。

 壁に飾られた絵画。鑑定眼などなくとも、高校生に相応しくないということは一目で分かった。


 他にも小上がりになっている畳スペースや簡易キッチン、冷蔵庫、オーブンレンジ、プロジェクターを映すための大きなスクリーンまであるから、居心地もよさそうだ。


 四姫花室に入った左手には、もう一つ扉があった。

 そこに入るとさらに今度は五つの扉がある。

 春姫、夏姫、秋姫、冬姫それぞれの徽章に反応して扉が開いたことを見るに、専用の個室となっているようだ。


 それでもう一つの扉は何かと思い近づくと、僕が持つ徽章に反応して扉が開いた。

 中は来客対応用のソファ、テーブルセット。

 他は事務所のような簡素な内装だ。


 四姫花室のあとに見たせいかみすぼらしく見えるが、これが普通だろう。

 むしろこれでも他の委員会より豪華に感じる。


 騎士委員団室と予想されるこの部屋には出入り口の扉が別にある。

 おそらくだけれど、四姫花室を通じて入って来た扉は非常用の連絡扉か何かかもしれない。


 各々、部屋を見学して確認を終えたら四姫花室に集まり昼食をとる。

 そう決めてから僕が風騎士委員団に入ると、美海、美波、莉子さんが付いて来て、部屋の中央まで進むと美波が抱き着き、それを美海は真似た状況が今ということだ。


 騎士団長が持つ徽章に反応したため、誰かが入ってくる心配はない。

 そう考えたから美波と美海は堂々と抱き着いて来たのだろう。


 ただ、緊急用の扉と考えるならば、僕が持つ徽章だけに反応するとは思えない。

 あの時は扉に一番近い位置に僕がいたから反応した気がする。


 そう考えた直後、肯定するかのように扉が開き美愛さん、月美さん、鈴さん、山鹿さんが入ってくる。


「あ~!! 美海ちゃんと美波ちゃんズルい!! 私もくっついちゃお~っと」


「続くです」


「美愛先輩から触れるのは構いませんが、千代くんからはけして触れたりしないように」


「八千代郡、美海ちゃん以外を拒絶しないなら呪ってあげます」


「と、盗られるくらいなら前は莉子がもらいます!!」


 カオス。


 つまりは混沌とした状況になりそうだ。

 拒絶しようにも下手に動くと、女性特有力に触れてしまう。


 それと山鹿さんに呪われてしまうし早く振りほどきたい。

 でも、いつもより言葉遣いが丁寧だったし、呪うと言ったのは冗談か何かか、な――――――。


「み……美海と美波、あと莉子さん。今すぐ離れて」


「や――」

「やだっ」

「イヤです」


 みんな可愛いな、おい。


「いや、真面目に本当に離れて。山鹿さんの手。手に藁人形……僕の写真? とにかく、ちょっと不味いからお願いだから離れて。あ、ちょ――美愛さんと月美さんも勘弁してください」


「八千代郡、時間切れ――」


「あーちゃん、待って」


 焦るように昔ながらのあだ名を言った僕に対してあーちゃんは、後夜祭で魅せた笑顔をしてポケットに手を入れた。


 あの時は神聖な笑顔に見えたけれど、今は反対に邪悪な笑顔にしか見えない。

 いや、それよりもポケットから手が出てきた時が終わりの時だ。


 きっと釘か何かを取り出すのだろう。そして――。


「………………今日は勘弁してあげる」


「「………………」」


「………………もしかして釘でも忘れた?」


 図星であったのか、あーちゃんは俯き顔を真っ赤にさせた。

 そのあーちゃんに美海が『可愛い』と言って、僕から離れたことで、次々に離れて行き自由を得る。


 そして今度はあーちゃんが次々に囲まれ抱き着かれ、ゆでだこの様にさせられたが、ここで――。


 ――グゥーー。


「ご飯にしよっか」


 誰のお腹が鳴ったのか分からないが、美愛さんの言葉でようやく――。

 男子1人、美女に囲まれる肩身の狭い昼食が始まったのだ。


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