第224話 美海に愚痴を言ったら「そういうとこだよ」と言われてしまった
そのため、今後の本宮錦を打倒する話し合いは、臨時で作られた『アオハル実行委員』のメンバーのみで行うことで決まった。
ちなみに六つの議題よりも長い時間を使用して決まった内容は、『アオハル実行委員』という名前だけとなる。
委員長は発案者である僕、八千代郡。
副委員長は本宮先輩。メンバーは以上の2人だけだ。
他のみんなは「勝手にやってくれ」と言って加入してくれなかった。
それでそのあと。
朝のホームルームになんとか間に合い、古町先生からは労いの言葉を掛けられた。
けれど、美海、莉子さん、山鹿さんの3人からは刺すような目付きで見られてしまった。
まあ、僕が追加で議題を挙げなければ余裕で間に合ったのだから仕方がない。
前生徒会長の田村先輩から説明があったように、ホームルームの時間で古町先生からクラスメイトへ説明が入る、が――。
嫌な雰囲気を察したクラスメイトたちが一斉に机と睨めっこを開始した。
「大事な話をするのに、あなた方は下を向くのですか?」
その言葉を聞いたクラスメイトたちは、今度は一斉に古町先生に顔を向けた。
それに満足したことで、ようやく説明に移っていく――。
曰く、先のブラック校則制定は学校側の思惑であり旧風紀委員会、船引鈴は指示されて実行したに過ぎない。つまり船引鈴も被害者の1人である。
学校側がそんな強硬手段を取った理由について――。
今年入学した1年生の生活態度は、例年と比べるとよろしくなく、散々注意喚起してきた。
けれど前期期間が終了した時点で一向に改善が見られないため、戒めとして負の遺産となる校則を限定的に復活させた。
生徒会長本宮真弓は、文化祭を盛り上げるイベントに利用できると考え、体育祭でも活躍した八千代郡に目を付け、監視役を付け、焚き付けた――。
「その結果――。学校、生徒会の予想を上回る伝説が生まれた訳です。いいですか皆さん。今回はこれで済みましたが、今後、学力の低下また、生活態度の改善がみられない場合は、負の遺産復活も有り得る。そう考えて生活してください。規則やルールさえ守れば、当校は比較的自由な学校です。矛盾することを言いますが、自由を手にするために規則を守り、日ごろから頑張りなさい。あなた方はもう時期先輩になるのです。後輩の見本、模範となる先輩を目指すように。以上」
堅い話から解放されたことで、教室の至る所から弛緩する雰囲気や息を吐き出す声が聞こえてきた。
それにしても、学校側がよく泥を被ることを了承してくれたな。
おそらく本宮錦副理事を頼ったのかもしれないが、どうやって話を付けたのか気になるな。
思い出した時にでも本宮先輩に聞いてみようかな。
「失礼。最後にもう一つ――」
再度、教室に緊張が走る。どうしてか古町先生は僕と視線を重ねている。
そのせいで僕の背中には悪寒が走った。
「Aクラスには騎士団長が在籍しておりますね。いい機会です。騎士団長殿からも何かひと言いただきましょう。どうぞ――」
僕は弁が立つわけでもないから、どうぞと急に振られても何も思い浮かばない。
とりあえず立ち上がりクラスを見渡すが、
『余計なこと言うなよ』そんな視線がいくつも届いてくる。
安心してくれ、僕も面倒な仕事は増やしたくないから余計なことを言うつもりはない。
ああ、でも――面倒で思い出したが確かにいい機会だ。
今のうちに言っておくとするか。
「そうだな――騎士団長が在籍するクラスの生活態度が一番悪いとは言われたくもないからある程度は律するけど、もの凄く細かいことを注意したりするつもりはないから安心してほしい――」
当たり障りない話で安堵した様子が見えたが、僕の言葉はまだ終わりではない。
「けどさ、自分の机や椅子くらいは自分自身で管理してもらいたいかな。みんなは知らないだろうけど、放課後で乱れた机や椅子を毎朝僕と古町先生が整理整頓しているんだよ。いい機会だから、これからは自分自身で管理してほしい。机と机の間隔だけど、縦は60センチ、横は45センチ間隔にすると綺麗に並ぶから。慣れたら目測でも分かるようになるからお願いね」
「「「「「「……………………………………」」」」」」
返事もない無言の視線にほんの少しだけたじろいでしまうが、聞き取れていなかったと考え、もう一度同じ説明をする――――。
「――ということだから。いい? 頼んだよ?」
「「「「「「――いや、細かいって!!!!」」」」」」
「え? 何が? どの辺が細かかった?」
「間隔だよ、かんかく!!!!」
「定規や物差しで測れってか!?」
「いやいやいや、メジャーがないときつくね!?」
「つか、なんセンチって言ったっけか?」
「確か縦60センチとか横60センチと――」
「いや、縦60センチの横45センチね。もう一度説明するけど――」
「「「「「「あ、大丈夫。もう分かったから!!!!」」」」」」
――キーン、コーン、カーン、コーーン。
――キーン、コーン、カーン、コーーーーーーン。
「そう言うことです。騎士団長殿は私よりも細かい性格のようですから、皆さん、くれぐれも気を付けるように」
「「「「「「はいっ!!!!!!」」」」」」
「よろしい。騎士団長殿が飛ばした檄のおかげでまとまりのあるクラスになりそうですね。これからを期待します――。以上、これで朝のホームルームを終了とする。各自、休憩をとりつつ次の授業の用意に移るように」
僕としては何も細かいことなど言ったつもりも、檄を飛ばしたつもりもなかった。
そのため解せぬ思いが残ってしまったけれど。
これで朝の整理整頓作業から解放されるなら、結果オーライなのかもしれない。
でもやっぱり解せぬ。
僕、ただ1人だけが納得できぬホームルームとなったのだ。
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