第222話 こう君の喜ぶ顔が見られたらいいな

 満場一致で賛成してもらえた後、

 3人でお店に入り見て回ったのだけれど。


 普段、どの紅茶を飲んでいるのか、こう君がまだ買ったことのない紅茶が分からず、思ったよりも選ぶのに難航する。


 それにもう一つ、私たち3人が知らなかったことがある。


「あ、の、さ~……いつも気にせず美味しい美味しい言って飲んでたけど、紅茶って思ったより高いんだね?」


「ええ……もっと味わうべきだったと、莉子も絶賛後悔中です」


「八千代っちも言ってくれたらいいのに。あ、でもでも、書道部で淹れてくれてる紅茶って部費で賄ってるんだよね?」


「……こう君、部費には手をつけてないんだよね」


「えぇ~、なんでまた? 古町先生も少しならいいって許可したんだから、使っちゃえばいいのに。八千代っちって、そういうとこ真面目だよね」


 活動もせず紅茶だけを買う訳にいかない。

 こう君はそう言っていたから、望ちゃんが言うように真面目な性格もあっている。


 でもその他にも、こう君はこう考えたのかもしれない。


 私用で部費を使うと本宮先輩に隙を見せることになり、粗を突かれる可能性が出る。

 だから下剋上する前は避けるべきって。


 これは私の予想だからあっているか分からないけど、そっちの可能性の方が高いように考えられた。


「これまで部室で飲んだ分は部費で清算し直すとして、いつも淹れてくれているお礼として、今日は3人で何か一緒に買わない?」


「莉子は賛成です」


「ありがとぉ~、助かります。私もアルバイトできたらいいのになぁ……帰ったらお母さんに交渉しよっと」


「望さんならどんな仕事でもこなせそうですからね、交渉が上手くいくといいですね」


「はは、そしたら面接の練習手伝ってね、りこりー」


「では、面接官役のイメージトレーニングでもして準備しておきますね」


「おっと、思ったより本格的だ。でも、どうしよっか? どの紅茶がいいのか悩んじゃうね」


 店員さんに聞けたらいいんだけど、何て質問していいかも分からないから聞くに聞けない。こんなことなら、こう君にもっと詳しく説明してもらえばよかったな。

 そう反省しつつ店内をグルグル歩いていると――。


「可愛いお嬢さん方は何かお困りですね? 私でよければ、お手伝いしますけど?」


 声を掛けてくれた人は、柔らかい笑顔を浮かべるお姉さん。

 急に声を掛けられたせいもあるけど、あまりにも綺麗な人で返事もできず3人で目を合わせてしまう。


「ふふふ、警戒させちゃいましたね。紅茶に関しては人より詳しいと自負しているけど、どうかな?」


 私が目で『いい?』。そう訴えると、望ちゃん、莉子ちゃん、2人も首を縦に頷いてくれたため、お願いすることに。


「ぜひ、お願いします」


「ふふふ、喜んで。ちょっと張り切って選んでみますね。悩んでいた様子を見るに、贈り物か何か? それに……相手がどの紅茶を好んでいるのか分からず、どれを選んだらいいのか分からない。そんなところだったり?」


「はい、もう恥ずかしくなるくらい言われた通りです。相手は同年代の男の子なんですけど……せっかくなら飲んだことない物を選びたいねって話していたところです。あ、その子は今年の4月から紅茶にハマり始めました」


「こんなに可愛い3人から紅茶を贈ってもらえる男の子は幸せ者だね。その子が飲んだことのある紅茶、どれか一つでも名前とか分かったりする?」


「えっと――」


 聞いたことあるのはお泊りの時に淹れてもらった紅茶くらいかな。

 名前は確か――。


「アッサムのカルカッタオークションとダージリンのセカンドフラッシュって紅茶です」


「お友達はいい趣味しているね。それなら……同じダージリンなら秋摘みのオータムナルとかおススメかも。今年から紅茶を嗜むようになった子なら飲んだことないと思うよ。今年分は今日から売り出したばかりだし、この近辺には茶葉を購入できるお店もないからね。もしネットで購入していたらお手上げだけど、その時は許してね?」


「ふふっ、もちろんです。丁寧に教えてくださり、ありがとうございます」


「それなら良かった。もしも不安なら、ちょっと単品価格が上がるけどティーバックの詰め合わせとかでもいいんじゃない? 後日、その中で気に入った物の茶葉を選んで贈ってあげてもいいかなって。その男の子が本を読む素敵男子なら、こんな物もあるし楽しめるんじゃないかな? 参考にしてみてね」


 お姉さんが紹介してくれた物は、『ブックオブティ』と書かれている商品。

 冬に飲みたい30種類のティーバッグが本の形をした特製ボックスに詰め込まれている物で、こう君は間違いなく喜びそう。


 でも4千円近い値段だから望ちゃんの予算的には厳しいかもしれない。


「ありがとうございます。どちらにしようか、3人で相談して決めようと思います。えっと、何かお礼とか――」


「ふふふ、気にしないでいいよ。可愛い女の子が困っていたから助けたいって思っただけ。私もね、ある男の子の何気ない優しさに触れてから、人に優しさを分けるように心がけているだけなの。それでも気になるようなら、そうね……私、隣の焼菓子屋さんで働いているから、今度買いに来てよ」


「素敵な考え方ですね。それなら、お姉さんが働いている姿を見かけたら、寄らせていただくことにします」


「そう言って貰えて嬉しい。じゃあ、私は行くね。来てもらえる日を楽しみに待っているよ」


 私たち3人だけでなく、周囲に居る他の客も目を奪われるくらい綺麗な笑顔をしてからお姉さんは去って行った。


「12月4日にお姉ちゃんとこう君とご飯を食べに行く約束があるんだけどね、その日にお姉ちゃんと一緒にブックオブティをこう君に贈りたいから、今日はオータムナルにしてもいい?」


「うううっ、美海ちゃんの優しさで私ご飯なん杯でもお代わりできそうだよぉ~」


「莉子も特に異論はありません。それにしても、美空姉さんにも負けないくらいの美人さんでしたね。郡さんが好きそうな年上美人って感じでした。あと望さん。美海ちゃんは気遣い半分、下心半分ですよ。いえもしかすれば8割方下心の可能性もありますね」


「なんだか最近は美人さん遭遇率が高い気がするなぁ……あと、りこりー。私もね、美海ちゃんの下心にはうすうす気付いてた~」


「もうっ。私、レジ行くからね」


 無事に紅茶を購入することは叶ったけど、スポーツショップまでの道中は2人に揶揄われることになってしまった。


「望ちゃんも言っていたけど、やっぱりちょっと暑いね」


「美海ちゃんだけだと思うなぁ~」

「望さんに同意です」


 聞いたことのあるようなやり取りをしてから到着したスポーツショップで、莉子ちゃんはネックウォーマーをプレゼントに選んだ。


 こう君が持っている可能性もあるけど、これから本格的に寒くなるから二つあってもいいと思う。

 何より、莉子ちゃんからのプレゼントならこう君は喜んで使うはず。


 ひと通り買物が終わったため、外に出ると店のすぐそこでカメラやマイクを持った人たちが道行く人にインタビューをしていた。


「テレビか何かの撮影でしょうか?」


「チラ~ッと聞こえたけど、クリスマスの過ごし方について聞いてたみたいだよ」


「特集とかでテレビで流れだす時期だもんね。捉まらないうちに行っちゃおっ」


「そうですね、面倒ですしそうしましょう」


「うんうん、賛成! でも、芸能人とか初めて見たけど、やっぱり綺麗な人だったね?」


「お母さんと同世代なハズなのに20代にしか見えませんよね。お名前は確か……」


新光しんこうあやさんだよ、莉子ちゃん」


「おや? 美海ちゃんにしては珍しくお詳しいですね?」


「うん、新光さんは新潟出身の人でお母さんが同級生なの。昔は仲良かったみたいだけど、もうお話は聞かないから今は会っていないのかも」


 それに驚いた2人だけど、私はお話したこともないから2人と似たようなもの。

 新光さんに対して2人は、

 芸能人オーラが凄いとか、美魔女だとか、背が高くて切れ長の目で格好良くて大人の女性で憧れるとか、感想を口にしていた。


 それから今放送されているドラマの話に移り、子役の子が可愛いことで盛り上がり、子供が好きかどうかの話に変わっていく。


 こう君や大島さんは子煩悩だとか、幡くんもいいお父さんになりそうとか、さらには私も知らなかったこう君の過去話を莉子ちゃんから聞いたりもした。


 この後の予定は特に決めていなかったけれど、まだ話し足りないと言う2人を自宅に招待して、お姉ちゃんと4人で女子会を開き、夕飯を食べてから、迎えに来た莉子ちゃんのお母さんと一緒に2人は帰宅していった。


 就寝の準備をし、お姉ちゃんとおやすみを交わし部屋に入る。

 それから机に置いてあるブックオブティを見てからベッドに入る。


「こう君喜んでくれるといいな」


 電気を消し暗くなった部屋で、好きな人の喜ぶ顔を想像しながら眠りについたのだ。

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