第221話 待つのも楽しいけれど……

 携帯持った、財布持った、ポーチ持った、忘れ物なし、持ち物よし。

 クセはなし、形もよし、髪の毛よし。

 天気は晴れ、昼間の気温は16度。

 上は長袖、下はタイツ。

 秋用コートで寒さ対策。

 露出もなし、服装よし。


 これならこう君も文句ないよね?


 待ち合わせは午前11時。

 今は10時40分を過ぎた所だから余裕で間に合う。


 うん、大丈夫かな。


「じゃあ、お姉ちゃん行ってくるね。夕飯には帰ると思うから」


「いってらっしゃい、美海ちゃん。変な人に付いて行かないんだよ」


「子供じゃないんだから、付いて行ったりしないって」


 最後まで心配事を口にするお姉ちゃんを背にして、待ち合わせした駅前にある緑の扉前へ向かう。


 選ぶ道は、こう君が心配するから裏道でなく人通りの多い道。

 明るい時間帯でも心配してくれるこう君は過剰なくらいに心配性だ。


 嬉しいけどさっ――。


 大通りに出ると、スーツや制服を身に纏うサラリーマンや学生の姿が目に飛び込んでくる。

 休日の駅前ならまた違った服装の人で溢れていたかもしれない。

 けれど今日は月曜日。

 普段なら学校で授業を受けている時間。


 でも文化祭のあった木曜日が世間では祝日だったから、今日はその代休となっている。


 アルバイトもお休みだし何しようかなって考えていたけど、嬉しいことに望ちゃんから、莉子ちゃんと3人で買物しようってお誘いを受けた。


 友達2人と過ごせるのも嬉しいけど、近々幡くんの誕生日やクリスマスも控えているから、タイミングも良かった。


 待ち合わせ場所に到着してから、不快な視線を無視して何を買おうか考えていると望ちゃん、続いて莉子ちゃんもやって来た。


 3人で挨拶を交わし、天気や占い、家族の話、どこのお店に行こうかと会話に花を咲かせていると男性3人組から声が掛かる。


 望ちゃんが格好良くあしらってくれてから、気を取り直して場所を移動する。

 男性たちから向けられる視線。


 始めは上から下、それから脚、胸、顔の順で舐め見るような視線は本当に気分が悪くなる。


 今までは目立つこの場所で待ち合わせすることを避けていたけれど、

 最近のこう君は誰かと待ち合わせする時によく利用している。


 だから私も真似てみたけど……こう君が心配する結果になるから、これからは止めておいた方がいいかな。


 それに、友達を巻き込むのも嫌だし――。


「2人ともごめんね。私の我儘で待ち合わせした場所であんなことになって……」


「美海ちゃんは何も悪くないから気にしないのっ! ね、りこりー?」


「そうですよ。ゲスみたいに気持ち悪い視線を向けて来るやからのせいで、美海ちゃんが気に病む必要はありません」


 優しい笑顔を向けてくれる友達2人にお礼を告げると、望ちゃんが3人で手を繋ごうと提案してきたので左手を差し出し手を繋ぐ。


 左側が莉子ちゃん、中央に望ちゃん、右側が私の並び順だ。


「うへへへ~、今の私って両手に花ってやつだ? 八千代っちに刺されたりしないかな」


「こう君はむしろ推奨してくれるんじゃない? 仲がいいのはいいことだって言って」


「そうですね、刺すようなことはしないでしょう。ですが――」


「「ですが?」」


「後ろから莉子たちの今の姿を見た郡さんは、『山の字だ』とか空気の読めないことを言いそうでもあるなと……」


「「…………」」


 私と莉子ちゃんは150センチに届かないくらいの身長。

 その2人に挟まれている望ちゃんは160センチちょっと。


 だから『山』に見えるかもしれない。


 普通の人ならそんな感想は言わないかもしれないけれど、こう君なら言うかもしれない。

 そう考えてしまった結果――。

 私たち3人は沈黙してさらには、繋いでいた手を離してしまった。


「さ……最初はどこ見に行こっかぁ~? 美海ちゃんとりこりーは何か気になるお店あったりする?」


「莉子は最後でいいのですが、アティにあるスポーツショップに行きたいです」


「ふむふむ、八千代っちと一緒に走ってるもんね。新しいシューズか何か探してたり?」


「いえ、郡さんに……ご主人様に素敵なプレゼントを頂いたお礼をしたいと思いまして。キャラメルと悩みましたが、やはりランニング関係にしようかと」


「ご主人様って…………もしかして、りこりーがつけてるその可愛いチョーカー?」


「ええ、ええ、よくぞ聞いてくれました望さん――」


 そう――。そのチョーカー。

 私も昨日散々莉子ちゃんに自慢された。

 文化祭で頑張ったお礼にもらったと言って。


 莉子ちゃんには嫌な役割をしてもらったから、それくらいの役得があってもいい。

 そう思うから別にこう君に不満を言ったりしない。


 でもね、莉子ちゃんは前にハンカチをもらっている。

 それで今回はアクセサリー。


 私も前にクロコそっくりなぬいぐるみを貰えたけど……莉子ちゃんみたいに何か身に付けられる物を貰えたらなって、羨む気持ちもある。


 呆れた表情をする望ちゃんに気付かず、嬉しい思いを爆発させた莉子ちゃんが自慢している姿を見ながら、心の中で『こう君のバカ』と不満を呟く。


 あと莉子ちゃんはどうしてキャラメルと悩んだのだろう?

 こう君は特別キャラメルが好きってわけでもないと思うのだけど――。


「はははは、りこりーの話の続きはお昼食べる時にでも聞くとして、美海ちゃんはどこか行きたいところある?」


「私は、幡くんの誕生日プレゼントとあとは、クリスマスも近いから何かいいのがあればなぁって感じかな? 時間があれば本屋さんも行きたいかも。望ちゃんは?」


「あ、そっか。幸介くん誕生日近いんだったね。じゃ、私も今日買っちゃおーっと。それから私個人が気になるのはゲームとか電化製品? だから電気屋さんかなぁ……あとはそうだなぁー……アクセサリー? とかちょっと気になるかも?」


 望ちゃんがアクセサリーを欲しがるのは珍しい。

 もしかしたら大島くんへのプレゼントか何かかな。


 だって――。

 恥ずかしいからか、目を逸らし明後日の方へ向いちゃったから望ちゃん。


 恋する乙女って感じで可愛いなぁ、もう。


 これでまだ付き合っていないんだから、おかしな話だよね?


「何でしょうか、莉子だけが取り残されたように感じるこの疎外感……いえ、考えたら負けです。とりあえず、エスパルやアティで物色しましょうか。間にお昼を挟んで、購入する物を決め、それからもう一度お店を回って行きましょう」


 莉子ちゃんの行動計画に賛成して、手を繋ぎ直してからエスパルへと移動する。

 本、お洋服、石鹸、雑貨、アクセサリー。


 それから、電気屋さんにスポーツショップを約2時間見て回り――。

 高校生の味方、お手頃価格でイタリアンが楽しめる全国展開するお店。

 エキナカに入っているそのお店でお腹を満たすことを決める。


 お昼の時間から外れているためか、待つことなく席に着くことができた。

 注文した料理もすぐに届き、それぞれ食事を完食させる。

 初めて食べたけれど、普通に美味しくて驚いちゃった。

 今度こう君を誘って来てみようかな。


 あ、でも……莉子ちゃんから聞いたけど、キャラメル的な何かを飲みたいとこう君が言っていたみたいだからなぁ。


 下の階に生キャラメルパンケーキが美味しそうなお店もあったから、そっちと悩むけど……日を変えて両方誘えばいいか。


 それから3人順番にドリンクバーで飲み物をお代わりしてから作戦会議して、先ずは幡くんへの誕生日プレゼント、それから気になった物をそれぞれ購入していき、目星をつけていたアクセサリー屋さんに。


 今日は購入するに至らなかったけど、3人でどんなアクセサリーが好みとか話したり、店内を見て回り、店員さんが許可してくれたアクセサリーを試着してみたり、『今度、優におねだりする』と、顔を真っ赤にさせながら言った望ちゃんが可愛かったりして、楽しい時間だった。


 最後の目的地、アティにあるスポーツショップに向かうため、エスパルの2階を歩いていると。


「ねね! なんか今日暑くない?」


「望ちゃんだけだと思うよ」

「美海ちゃんに同意です」


 暑い理由は恥ずかしい思いをしたからだと思う。

 いつも冷静な望ちゃんでも、好きな人のことを考えるとこんな風になることを考えると、ちょっと怖い。


「2人してイジワルなんだからぁ~!! これも全て八千代っちのせいだ。あとで八千代っちに文句言ってやる」


「さすがにそれはこう君が可哀想じゃない?」


「ええ、八つ当たりは可哀想ですよ」


「うぅ……私に味方してくれる人が誰もいないなんて……シック、シック」


「「あ、でも――」」


「……どうせ八つ当たりされた八千代っちを慰めてあげようとか考えたんでしょ? お二人さん」


 目を合わせる私と莉子ちゃん。それだけで莉子ちゃんが私と同じ考えに至ったことが分かる。


「その八千代っちは今何してるんだろうね?」


「多分、お家にいるんじゃないかな? 10時に美容室行ってそのあとは家で勉強するって言っていたから。あ、ちょっとココのお店に寄ってもいい?」


「なるほどなるほど。当然の様に把握してるんだね。紅茶屋さんってことは、八千代っちにプレゼント?」


「うんっ。いつも美味しい紅茶淹れてくれるから、そのお礼に」


「いいですね、莉子も気になります。ちなみに莉子も郡さんの予定は知っていましたよ」


「こりゃ八千代っちは悪いことできないに~。ま、とりあえず入ろっか」


 こう君は目立つから望ちゃんの言う通りだ。

 でも、そもそも――。

 女の子と会いに行くときは報告してくれるから、悪いことも何もないと思う。


 ただ、私が妬いてしまうだけ……。


(早く彼女になりたいなぁ)


 そう思いながら望ちゃんの後に続いたのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る