第213話 会話文だけです
【10月10日放課後】
「莉子ちゃん行くよ」
「はい」
「山鹿さん、お時間あれば少しお話し出来ない?」
「……上近江さんに平田さん。時間はあるけど……急だね?」
「名前で呼んで欲しいな? 莉子ちゃんのことも、みんなが呼んでいるみたいに『りこりこ』でね?」
「ちょっと、美海ちゃん。勝手に決めないでください。まぁ、いいんですけどね」
「……気安過ぎるような気がするけど、そのうちでいいなら」
「ふふっ、私は何て呼んだらいいかな? 祝ちゃん? それとも――」
「好きに呼んでくれていいけど……?」
「じゃあ、祝ちゃんって呼ばせてもらうねっ。でも、2人の時は『あーちゃん』。そう呼んでもいいかな?」
「…………………………思い出したの? みゅーちゃん?」
「やっぱり、あーちゃんだったんだねっ! でもね、あーちゃんのことはずっと覚えていたよ? 小さい頃に神社でよく遊んでいたんだから忘れるわけない」
「でも、美海ちゃん。アルバム見るまで気付かなかったんですよね? それなら、忘れていたということでは?」
「莉子ちゃん細かい! あだ名で呼び合っていたから本名を知らなかっただけ。それに、名前も変わっていたみたいだし?」
「愛宕家は没落したから、父の親戚が住む会津に越してきたの。だから、今は山鹿姓を名乗っている。それより、みゅーちゃん……ごめんね。今だけこの名を呼ぶことを許して。こーくんのことは?」
「そうだったんだね。でもここで再会できて――」
「は? ちょっと待って下さい。莉子はこの話聞いていませんよ? こー君って……?」
「私の、その……初恋の人。あと…………プロポーズしてくれた人、かな」
「まさかとは思いますが…………美海ちゃんと、はふはふに聞いてもいいですか?」
「みゅーちゃんが全てを思い出していると確信できるまでは、私から教えることはできない」
「私もうろ覚えだけど、それでいいなら答えるよ」
「おふたりの言う、『こーくん』とはもしや……郡さんのことですか?」
「アルバムの写真に写る男の子のね、切れ長の目をくしゃっとさせた笑顔が……そっくりなの。あの頃と何一つ変わっていない笑顔に思えた。だから、あの子は間違いなく――」
「――私の好きなこう君」
「…………今日から私はみゅーちゃんのために動く」
「ありがとうっ! 約束、守ってくれてっ!!」
「私の夢のため。だから、みゅーちゃんの願いを叶えたい」
「昔のこーくんがよく言っていたことだね? 『俺は俺のために』って! 今もその口癖は変わっていないけどっ」
「つまり……美海ちゃんとはふはふ、郡さんの3人は幼馴染というやつですか?」
「1週間くらい旅行に来ていただけだから、こう君はちょっと違うかな?」
「はぁ……誤差ですよ、そんなの。莉子が勝てない訳ですね……おふたりは、運命の赤い糸で結ばれている訳ですから」
「みゅーちゃんと違って、
「初恋の人の記憶があるから、全くってことではないと思うけど……あのあとすぐに、大変な事があったから、こう君」
「そうですね……あの頃の、クロコに救われるまでの記憶が一番抜けているとおっしゃっていましたし」
「あいつに何があったのかは調べたから知っているけど、関係ない。思い出せるきっかけや、ヒントはある。だから思い出せないのは怠慢。ただ、それだけ」
「はふはふ、郡さんに厳しすぎやしませんか?」
「私以外の人たちが甘すぎるだけ」
「ねぇ、あーちゃん? 9月23日。その日、保健室にいたんでしょ? 五色沼先輩とこう君の会話覚えていない?」
「一言一句覚えている。今から言ってもいい」
「うん、お願い」
「おふたりとも、ちょっと待って下さい。場所を変えた方がいいと思います」
「じゃあ、書道部の部室で続きを話そっか」
▽▲▽
「じゃあ、あーちゃん。お願い」
「長いから、よく聞いて――」
「やっとです? 千代くん今さらです。自己紹介するです。よく聞くです。『
「――突っ込みどころ満載ですけど、秋姫候補の先輩は、とんでもなく……個性的ですね?」
「こう君にお説教したいこともたくさんあったしね。でも……そうだね。参考になったかな」
「あとは、あいつがりこりこに31回振られた話や、騎士に勧誘した話が五色沼月美の口から出ている」
「……郡さんは、そんなことまで話していたんですか?」
「いや――」
「そうじゃないよ、莉子ちゃん。こう君は話さない。だから、きっと……五色沼先輩の代わりに、情報を集めている人が何人もいるんだと思う」
「さすが、みゅーちゃん。推察の通り、私もその1人」
「まるでスパイや忍びみたいですね――」
「山鹿家は忍びの末裔でもある。そして今は五色沼家に世話になっている」
「ほぇ~……現実にいるんですね」
「え、でも、あーちゃんは巫女さんだよね?」
「それも正しい。母方の愛宕家は代々巫女を輩出している一族でもあるから」
「はふはふの個性強すぎですよ……」
「みゅーちゃんはいい。でも、りこりこは他言無用にして。八千代郡にでさえ言っては駄目。でないと――」
「……なんです?」
「いい。脅しはこれくらいで十分」
「こわっ! 巻き込まれただけなのに! もちろん誰にも言いませんよ! 莉子は莉子が大事ですから」
「じゃあ、そろそろ今後について話そっか。莉子ちゃんも、あーちゃんもよろしくねっ!」
「もちろん」
「……郡さんのためですからね」
▽▲▽
【10月10日放課後②】
「またね、あーちゃん」
「みゅーちゃん、また」
「じゃあ、莉子ちゃん。次に行こうか。向かうはお店」
「は? 次? まだ誰かと内緒話ですか?」
「ふふっ。多分、そろそろ来る頃だと思うから」
「暗躍していますね、美海ちゃん」
「人聞き悪いなぁ~」
▽▲▽
「日和田先輩、こんにちは。今日も食べに来てくれたんですか?」
「上近江。それと、平田莉子?」
「気に入ってくれたんですね?」
「本当は毎日食べたい。でも、月に一度の楽しみにしたほうが、何倍も美味しく感じるから」
「ふふっ、ありがとうございます。でも来たのって、この間の土曜日ですよ? あと、今日はお財布忘れていませんか?」
「そうだっけ? でも、大丈夫。財布も、この間もらった今日限定で使えるクーポン券も持ってきた。そうだ。お金返さないと」
「お金はいいですよ。その代わり、してもらいたいことがあります」
「いい。返す。余計な事はしない。真弓からきつく言われている。だから、はい」
「残念です――?」
「何? その顔?」
「日和田先輩は薄情なんだなっていう顔です」
「理解不能」
「確かに返金『は』受けました。でも、あの日……私がいなかったら警察を呼ばれてもおかしくなかったですよね?」
「確かに。そう考えたら恩人。お金だけ返しても不義理かもしれない。なら倍払う」
「それだとまるで脅したみたいじゃないですか。受け取ったらお店が潰れちゃいます」
「………………大したことは出来ない」
「大したことはお願いしません。日和田先輩は生徒会じゃなくて風紀委員会に入ってください」
「無理。真弓に怒られる」
「『バナナの天ぷらバニラアイス添え』。月に1回、ご馳走します」
「………………駄目。真弓は怒ると怖い」
「ご卒業するまでの月に2回。それと、お好きな飲み物もつけます。最終的には生徒会にも移ってもらいます。いかがでしょうか?」
「………………キャラペチーノでもいい?」
「どれでもお好きな飲み物をお頼みください」
「………………真弓が――」
「私の予想ですけど、本宮先輩なら……最後は笑ってくれるんじゃないでしょうか? 日和田先輩のお茶目な悪戯の一つや二つくらい。それに、本宮先輩の願いを叶えることにも繋がりますから、この契約は本宮先輩のためにもなると思いますよ?」
「………………分かった」
「莉子ちゃん。欅先輩に今月1回目の食事の用意をお願いしてもいい?」
「……美海ちゃん、鬼ですね。まるで郡さんみたいな説得の仕方でしたよ」
「ふふっ。だって、こう君を真似たんだもんっ」
「怖いお人です。とりあえず、先に飲み物の用意をしてきます――」
「――先にキャラペチーノです」
「美味しい。頬が落ちそう」
「じゃあ、欅先輩。少し話を詰めましょうね」
「………………やっぱり――」
「駄目ですよ? もう飲んだんですから」
「………………上近江美海と八千代郡。2人が惹かれあったことが頷ける」
「ありがとうございます」
「褒めてない」
「ふふっ――」
「本当に、怖いおふたりです――」
▽▲▽
【10月28日『美波のお泊り』】
「隣――」
「たまには並んで食べるのもいいかもね」
「手――」
「行儀悪いし、食べにくいから今は駄目かな」
「あーん――?」
「まあ、それくらいなら……あ、美波がしてくれる方か」
「美味しい――?」
「自分で言うのもなんだけど、美味しい」
「むぅっ――」
「そうだね、美波が食べさせてくれたから格別に美味しかった」
「私にも――?」
「はい、あーんして」
「あーん――!」
「どう?」
「美味しい――もっと――」
「了解。でも、その前に。口の横についたソースを拭いちゃうから動かないで」
「ん――」
「はい、綺麗になった」
「可愛い――?」
「え? 美波はいつだって可愛いよ?」
「うんっ――!」
▽▲▽
「お風呂――」
「……行っておいで」
「一緒――」
「駄目。兄妹でも、高校生同士で入ったりはしないよ」
「水着――着る――」
「え? 水着持ってきてるの? まあ、だとしても駄目かな」
「寂しい――」
「……扉の前で話し相手になるのじゃ駄目?」
「我慢――」
「ありがとう。じゃあ、お風呂行こうか」
「うんっ――!」
▽▲▽
「いる――?」
「いるよ」
「義兄さんも――?」
「一緒には入らないよ」
「むぅっ――!」
「それでも駄目です。大人な女性は1人で入らないとね」
「ずっと――子供――」
「今でもすでに素敵なレディだけど、美波もいつか大人になる日がくるよ」
「義兄さんと――ずっと――いる――」
「何があっても僕はいつまでも美波の義兄だし、美波はいつまでも僕の大切な義妹だよ」
「うんっ――!」
▽▲▽
「義兄さん――?」
「え、美波? 何しているの?」
「背中――流す――」
「駄目だって。それより、風呂場から早く出て」
「服――着てる――」
「それはそれで問題だけど……」
「触る――?」
「触らないよ。仕方ない……背中だけだよ? あと、前は絶対に見ないでね?」
「うん――」
「ちょっとシャンプー流しちゃうから待ってて――」
「濡れた――」
「上がったら着替え直さないとだ。じゃあ、背中お願いしようかな。本当に背中だけだからね? いい?」
「うん――」
「気持ちいい――?」
「結構、気持ちいいかも」
「また――するね――?」
「……考えておくよ。じゃあ、ドライヤーしてあげるから先に上がってリビングで待っていて」
「うんっ――!」
▽▲▽
「義兄さん――」
「どうしたの? 眠れない?」
「一緒に――寝たい――」
「んー……今日だけだよ?」
「うんっ――!」
「身体冷やすといけないから、早くおいで」
「手――」
「はいはい。右手でいい?」
「いい――」
「おやすみ、美波」
「おやすみ――」
「――あの、美波さん?」
「――?」
「この際だから抱き着くのはいいけどさ。なんだか……」
「――?」
「いつもより、その……右腕に柔らかい物が伝わってくるんだけど、下着つけてる?」
「不要――」
「……お願いだから着けてきて?」
「やっ――!」
「こら、脚を絡めないの」
「やっ――!!」
「一緒寝ないよ?」
「嫌い――?」
「世界が滅亡したとしても、それはない……って、こら」
「ギュッ――して――?」
「……したら下着してくれる?」
「うん――」
「仕方ないなあ……」
「義兄さん――?」
「ん?」
「世界で――誰よりも――――大好き――――――!!」
「幸介よりも?」
「論外――」
「じゃあ、光さんよりも?」
「むぅぅっ――!!」
「ふ。ごめんって」
「意地悪――めっ――!」
「美波?」
「――?」
「美波は大切な義妹。だから僕も美波が好きだよ」
「うんっ――大好き――――――義兄さん――――――!」
「あ、こら。だから下着して」
「義兄さんの――エッチ――」
「………………」
「嬉しい――?」
「……美波、約束は?」
「行く――」
「美波?」
「――?」
「右手が寂しいから、早く戻って来てね」
「うんっ――!!」
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