第206話 美海は暴露しました
賑やかなお留守番も気付けば1時間が経過しようとしている。
そして、お出かけ組が戻って来たことでバトンタッチとなる。
お留守番の1時間で納められた初穂料は6千円。意外と忙しかった。
この初穂料には、『空と海と。』の4人分も含まれている。
一生懸命書いたからな、ありがたい。
美空さんたち4人がカレーを食べたいと言ってくれた為、自由行動へ移る前にAクラスまでエスコートする。
見目麗しく、綺麗で大人な女性が4人。
その中の1人美空さんを、美海がクラスメイトに対して実の姉と紹介したことで、教室の中はちょっとした騒ぎとなった。
――やっっばい、超絶美人。
――大人の色気はんぱねぇ……。
――お姉さまとお呼びしても?
――上近江さんも将来あんな風になるのかな?
と、他にも聞き取れないほど多くの感想が飛び交った。
このままではまた騒ぎになってしまう。だが、そんな心配は不要だった。
騒ぎが膨れ上がる寸前、美空さんを迎えに古町先生が来てくれたからだ。
一応言っておくが、現れただけで騒ぎが収束したのだ。
注意も何もせずに収束したのだ。
詳細を言うと、古町先生はいつものスーツ姿でなかった。
美空さんにも負けず劣らず、大人な装いで現れた。
美空さん、古町先生2人並ぶことによってもたらされた圧倒的な『美』。
クラスメイトたちは、感動で沈黙せざるを得なかった。と言うことだ――。
僕らは、静寂が訪れた隙に美空さんたちと別れ教室から退室を果たす。
美海は当然のように僕の左側に立ち、同じく当然のように山鹿さんは僕らの少し後方に。
「どこから見て回ろっか? こう君と祝ちゃんはどこか見たいクラスとかある?」
正直な所、こうして美海や山鹿さんと一緒に見て回れるだけで充分だ。
ウィンドウショッピングを楽しむ人の気持ちが少しだけ分かった気がする。
それに一番気になっていた美波のクラスは昨日行ってしまったからな。
強いて言えば、誘ってくれた人たちのクラスに顔を出したいと思うくらいだ。
「元樹先輩や美愛さんに誘われたから、3年Aクラスに顔くらいは出したいかな。2人は?」
「2人に着いて行く。私の存在は気にしないで」
山鹿さんは僕と美海に任せてくれるようだ。
巫女服を着た女の子が後ろについて歩く光景は、他所から見たら異様に映るだろう。
それが理由で、気にしないでいることは難しいが……表情を見るに反論は許されなさそうだ。
「確か美愛先輩のクラスは……チュロスだったよね? ちょっとお口も寂しかったし、いいかも! 祝ちゃんも、何か気になるクラスあったら言ってね?」
――分かった。
と、山鹿さんが返事したことで移動を開始する。
エレベーターが7階で停止しているのが目に留まった為、階段の方へ進もうとする美海を呼び止めエレベーターへ乗り込む。
ボタン担当つまり、エレベーターボーイの任を買って出て9階のボタンを押す。
次に『閉』のボタンを押そうとしたが、女子2人が走り寄って来ている姿が見えた為、『開』のボタンを押す。
女子2人が乗り込んでから今度こそ『閉』を押した。
乗り込むときにパッと見えたネクタイには一本線模様。つまり同じ1年生ということ。
気も利かずそんなことを考えている僕と違い、気を利かせた美海が女子に声を掛ける。
「何階ですか?」
「あ、10階でお願いします。ありがとうございます」
「いえ。こう君、10階のボタンお願いしていい?」
女子2人がギョッと驚かせた表情をさせ、美海を凝視する。
気持ち的には僕も同じだが、ボタンを押してしまう。
「押したよ。聞いてくれてありがとう、美海」
今度はその驚かせた表情を僕へ向けてきた。
綺麗に揃った2人の動きは、まるでシンクロのようだと思った。
「何味のチュロスにしよっかなぁ~、迷っちゃう。こう君と祝ちゃんは何味にする?」
チュロスの味は全部で3種類。
王道のシナモン味にチョコレート味、抹茶味だ。
どの味付けも美海の好みだから迷っているのだろう。
別々の味を購入して半分こしようか?
そう提案するよりも先に、女子2人が何やらそわそわした様子で質問を投げかけてきた。
「上近江さん、急にごめんね。でも聞いていい? てか聞かせて!! なんで八千代くんのことは名前……てか、親しげにあだ名? で呼んでるの?? 上近江さんて男子を名前で呼ばないよね……確か」
「つまりそれって……上近江さんと八千代くんはただならぬ関係だったり……して? それかそれに近い仲とかとか!?」
女子2人にうっすら見覚えはあるが、直接会話したりするほどの面識はない。
様子を見るに美海も同じだと考えられる。
名花高校の有名人である美海の名前を知っていることについて驚きはない。
だが、僕の名前を知っていることは驚いた。
……いや、今さらか。
前期末試験や体育祭で目立ってしまった影響だろう。
このあと、後夜祭で起きることを考えると少し憂鬱となってしまう。
だが今は、質問された美海が彼女らに何て返答するのか集中しよう。僕も気になる。
まあ、美海のことだし無難に仲のいい友達か何かと言って誤魔化すだろう――。
「ん~、私は……いつでも――いいんだけど、ね?」
今度こそ僕が驚かされる番となった。
時が止まったと錯覚するほどに驚いた。
女子2人のように大きく目を見開いたりすることはなかったが、大きな動きで首を美海へ向けてしまった。
女子2人はというと黄色い声をあげている。
美海に関しては悪戯が成功したような目で僕を見ている。
「ね、ね、ね!! 八千代くん!! 八千代くんはどうなの!? ね、ねっ!?」
「聞きたい、聞かせて!! 八千代くんも上近江さんのこと名前で呼んでるってことは……つまりつまりそれって!?」
上半身を前のめりに寄せてくる女子2人の圧が凄い。
何て答えようか……全く予想にしていなかった状況で返答に迷う。
だがこの場はエレベーター。
タイミングが味方につき、目的地である9階に到着した。
「ふふっ、着いたし降りよっか」
美海、山鹿さんに続いて僕も降りると後ろから
『えぇ~~!!』と声が響いてきた。
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