第194話 いい人悪い人は、視点が変われば異なるのだろう
文化祭準備期間3日目となった金曜日、昼休み。
本宮先輩の弱点を探るといった理由で、元樹先輩と共にする昼食も本日で4回目となる。
表向きの進捗については芳しくない。
けれど、前生徒会役員3年生と接触できたのだから、身を削り、噂を許容した甲斐があったのだろう――。
「――話は分かった。だが、先に言っておく。これは本宮にも言ったことだが、生徒会を引退した俺たちに派閥などない。だから手を貸せ、協力してくれなど言われても無理だ。貸せたとしても、友人に声を掛け協力を募るくらいが精々となる」
「そうですか……失礼ながら聞かせてもらいますが、友人に声を掛けた場合はどれくらいの方が協力してくれるのですか?」
「手堅く言うならば、俺ら3人合わせて約20人は約束できよう」
田村先輩が言ったように派閥と呼ぶには少ないかもしれないが、その20人で勝敗が決まる可能性が高い。
だから今の僕らからすると、喉から手が出るほどその20人の協力が欲しい。
だが――。
僕と先輩方の関係性は薄く、本宮先輩と先輩方は同じ生徒会仲間であり、昔からの知人でもある。
元樹先輩に関しては本宮先輩に好意を抱いている。
これらを考えると僕へ協力する見込みなど皆無だと思えてしまう。
そもそも、メリットを提示できるわけでもないのだから。
「単刀直入に聞きますが、僕がお願いしたら協力してもらえます?」
「俺にとって本宮真弓は手のかかる妹のようなものだ。だから八千代お前に協力する事はできない……と、言いたいが、八千代お前が何を企んでいるのか、どうして勝負をしているのか、おおよそのことは予想できる。真弓にお灸を据えると考えれば、八千代に協力してやってもいいと考えている。だか――」
「では――」
「待て、最後まで聞け」
予想にしていなかった反応でつい、気持ちが逸ってしまった。
軽く頭を下げ謝罪して次の言葉を待つ。
「正直言うと、俺個人としてはどちらでもいい。だから優次と元樹、2人が八千代の説得に応じるならば、俺も八千代に協力しよう。だが説得に失敗したならば俺は真弓に手を貸す」
3人を説得する必要があったが、2人になった。
言葉だけ聞くと易しくなったように感じるが、中々厳しい条件だ。
それでも受けるほかないのだが――。
横塚先輩はずっと笑顔を浮かべているが、見るからに作られた笑顔ということが分かる。
愛想笑いというやつだ。
そのせいで内心何を考えているのか全く読めない。
その隣に座る何かと縁のある先輩。
元樹先輩は人がいい。
これまで僕と築いてきた関係性もあってか、悩んでいる様子がみえる。
だけどきっと、好きな人の味方でありたいだろう。
(正直厳しいか……)
僕がそう思っていたら、元樹先輩は後頭部を掻き困った表情を見せた。
でもすぐに『よし』と呟き、いい意味で僕の予想を裏切ることを言った。
「郡には世話になった。だから俺は郡に協力するぜ!!」
「…………いいのですか? お願いしている僕が言うのもなんですが、本宮先輩の敵になるということですよ?」
「いいんだ。郡から受けた恩を仇で返す訳にもいかねぇからな。それにそっちの方が多分あいつは喜ぶだろ? でも……怒っかな? あ、いや、もう決めたんだ。男に二言はない」
「ありがとうございます、元樹先輩。とても嬉しいです」
――おう!
と、歯を見せる明るい笑顔を向けてくれた。
次に横塚先輩に目を向けると、あっけらかんと言った。
「俺もいいぜ」
あまりにもあっさりし過ぎていて、拍子抜けした。
と言いよりも、逆に警戒してしまう。
「お前がかわいがってる後輩って、八千代のことだろ? それなら俺は別にいいぜ。自信家の真弓が負けて悔しがる姿を見るのも面白そうだしな」
つい今ほどまで浮かべていた愛想笑いと打って変わって、本当に可笑しそうに笑い、元樹先輩の脇腹を小突いている。
その横塚先輩に対して元樹先輩も小突き返し、田村先輩はそんな2人を見て笑っている。
僕が考えていた以上に3人は仲がいいのかもしれない。
「ああ、でもな、一つ条件がある」
「その条件とは?」
あっさり決まるかと思えたが、やはりただではないようだ。
まあ、その方が変に警戒しなくて済むから条件を言ってくれた方が信用しやすい。
「真弓を引きずり下ろしたらさ、校則……なんとかしてくんね? 女子に話し掛けるのが生きがいなのに、今のままじゃ窮屈で仕方ねーんだよ」
すみません。その校則は僕の指示です。とは言えない。
「……ええ。僕も早く校則や制約を変えたいと思っています。目的が達成できたら、すぐにでも取り掛かるつもりです」
「ほいじゃ、握手しようぜ」
横塚先輩に右手を差し出し握手する。
続いて『俺も!』と岩のように大きく見える手を差し出してきた元樹先輩とも握手を交わす。
「とういことで、決まりだ。当日その時まで、2人の気持ちに変わりがなければ、協力することを約束しよう」
本契約でなく、仮契約のようなものか。
不安に感じるが、全く期待していなかったことを考えれば上々の結果だろう。
「郡……俺の気持ちに変わりはないからなっ!!!!」
田村先輩の言葉に僕が不安に感じた。それを心配してか、元樹先輩は大きな声で気遣いの言葉を掛けてくれた。
会話を聞かれてもいいように、周囲を美愛さんのファンクラブで固めて貰っているとはいえ、少し恥ずかしい。
「用が済んだなら俺たちは行く」
「はい、貴重なお時間をありがとうございました」
田村先輩、元樹先輩、横塚先輩の3人に礼を告げ、この日の話合いは終了となる。
肩透かしを食らった気分だが、いい方向に話がまとまり安堵する。
横塚先輩に対しては美海との一件があり、あまり良い印象を抱いていなかった。
でも、美海もしくは女性が関わらなければ、悪い人ではないのかもしれない。
ただ、それでも、美海や山鹿さんにしたことは気分の良いものではないが。
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