第167話 会話文だけです2

【29日『見学会後』】


『幸介、少し話せる? 早百美ちゃんのことなんだけど』

『おう、少しなら大丈夫。早百美がどうしたんだ? また郡に迷惑かけたのか?』


『早百美ちゃんから進路について何か聞いてる?』

『いや、何も』


『今日さ、女池先生に頼まれて図書室の留守番をしていたんだけどさ』

『ああ』


『学校説明会に早百美ちゃんが来ていたんだよ』

『はっ? まじ?』


『本当に。赤木さんや魅恋ちゃんも一緒に。多分7人グループだったと思う。赤木さんの言葉を鵜呑みにするなら、赤木さんと魅恋ちゃんの付き添いで来たらしいけど、一応幸介には言っておこうと思って』

『――まじかぁ……7人いたんだよな?』


『うん、それは間違いない』

『…………』


『幸介?』

『わりぃ、郡。ちょっと、母親に電話していいか?』


『もちろん。余計かと思ったけど、伝えておいてよかった』

『ああ、ありがとう。助かった。じゃ、またな』


『またね』


 ▽▲▽


『なに? 今日は迎えに行けないわよ?』

『早百美が名花高校の見学会に行っていたらしい』


『……誰情報よ?』

『今、郡から電話があった』


『そう……それなら、本当のことなのね』

『どうすんだよ?』


『パパに相談してみるけど……』

『郡が言うには、赤木蘭花の付き添いだって』


『……夜、早百美と話してみるわ』

『郡は今やっと……いや、言っても仕方ない』


『夜7時に家族会議をしましょう』

『ああ、分かった』


 ▽▲▽


【10月1日『莉子初出勤』】


「美海先輩、今日からよろしくお願いします」

「うん、莉子ちゃんよろしくね」

「じゃあ、僕はホールに出るけど……美海? あまりきつく言ったりしたら駄目だからね?」


「もう、分かっているよ。こう君心配しすぎっ」

「え? え? 何がですか?」

「莉子さん、頑張ってね。万が一の時は……骨は拾ってあげるから」


「どういうことですか、郡さん? 急激に不安の波が押し寄せてきているのですが?」

「ほらっ、こう君行った、行った!」


「ということで、莉子ちゃん。気を取り直して頑張ろうねっ」

「は……はい。や、優しくお願いしますね?」


「もちろんだよっ!」

「じゃあ……お願いします」


 ▽▲▽


「莉子ちゃん? 盛り付けはこうね?」

「はい。分かりました」


 ▽▲▽


「莉子ちゃん? ここの盛り付けはこうね?」

「あ、はい。そうでした」


 ▽▲▽


「莉子ちゃん? さっきも教えたけど、ここの盛り付けはこうね?」

「あ、はい。そうでした。すみません、美海ちゃん」


「大丈夫だよ。出来るまで教えてあげるからね」

「……はい。お願いします」


 ▽▲▽


「莉子ちゃん? ここね、さっきも教えたけど、盛り付けはこうだからね?」

「はい……すみません、美海ちゃん」


「莉子ちゃん?」

「はい……」


「莉子ちゃん?」

「はい……」


「莉子ちゃん?」

「はい……」


「莉子ちゃん?」

「はい……」


「莉子ちゃん?」

「はい……」


「莉子ちゃん?」

「すみません。莉子は調子に乗っていたみたいです。少しばかり可愛くなったからって、本当の莉子は何ひとつ変わっていなかったのです。なめくじ以下の存在なのに、アルバイトしたいだなんて言ったりして、本当にごめんなさい。お詫びされても迷惑かもしれませんが、どうか謝らせてください。本当にすみ――」


「え? えっ? どうしたの莉子ちゃん? ちょっと怖いよ」

「すみません。天使様を怖がらせるつもりなど毛頭なかったのですが、怖がらせてしまって。本当にダメですね、私。どうお詫びしたらいいか。一層のこと――」


「え? どうしてまた天使様呼びに戻しちゃうの? え? それより大丈夫?」

「すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません。すみません――」


「こ……こうく~ん!! 莉子ちゃん壊れちゃった、助けてぇ!!」


 ▽▲▽


「郡くんもコーヒー淹れるのだいぶ上手になったわね?」

「ええ、教えてくれる人がいいのでしょう」


「あら? 煽ててもほっぺにチュウくらいしかしてあげないわよ?」

「最高のご褒美じゃないですか」


「ふふっ、郡くんも冗談言えるようになったのね?」

「冗談?」


「え? 冗談で言ったのでしょう?」

「僕はいつでも真面目ですよ?」


「へ、へぇ~? それなら、本当にしちゃっても、いいんだ?」

「注文も落ち着いていますし、事務所行きます?」


「美海ちゃんに言っちゃうわよ?」

「その時は美空さんの方が怒られると思いますよ?」


「もう、ごめんって! お姉さんが悪かったから、この辺で許してください」

「ふ。仕方ないですから、許してあげます」


「揶揄ったなぁ? あと、やっぱり笑うと可愛いね? 郡くん」

「先に揶揄ったのは美空さんですからね? 可愛い……ですか。美海にもよく言われますけど、可愛いと言われても複雑ですね」


「頭いいのに、女心はまだまだって感じだね」

「まあ、それはそうですね。よく分からないことの方が多いかもしれません」


「ところでっ」

「……その切り出し方は怖いので、仕事に戻りましょう」


「美海ちゃんから聞いたわよ~?」

「……何をですか?」


「一応、美海ちゃんのために言っておくけど」

「はい」


「美海ちゃんは郡くんの前だから肌の出る服装をしたんだからね? 普段の美海ちゃんなら絶対に肌を見せたりしないからね? この意味分かる?」

「……はい」


「それならいいの。またまた一応言っておくけど」

「はい?」


「古い校則で、夏のタイツは禁止されているのよ。だから仕方なしでニーハイ……長い靴下を履いているの」

「なるほど。そんな校則は廃止しだほうがいいですね」


「ふふっ、そうだね。衣替えしている間になんとかしないとだね」

「優先事項に決めておきます」


「郡くんたら、可愛い」

「そうで――」


 ――こ……こうく~ん!! 莉子ちゃん壊れちゃった、助けてぇ!!


「……ちょっと行ってきます」

「ふふっ、いってらっしゃい」


 ▽▲▽


【10月9日『スポーツの日(後編)』】


「楽しかったね、莉子ちゃん」

「それはもう、本当に。でも、おふたりはずっとイチャイチャされていましたね」


「涼子と関くんは見ていて微笑ましかったね」

「そっちもですけど、美海ちゃんと郡さんがですよ?」


「学校では出来ないから、つい、ね?」

「可愛く上目使いしたりして……可愛いですよ、本当に」


「ふふっ、ありがとう。莉子ちゃんも凄く可愛いよ?」

「ええ、郡さんのおかげで可愛くなれましたから」


「こう君は一夫多妻でも狙っているのかな?」

「おや? それなら莉子も立候補してみましょうかね。狙うは第2、いえ、第3夫人でしょうか?」


「私が全力で阻止するから、諦めて?」

「チッ」


「女の子が舌うちしたりしたら、ダメだよ?」

「それで美海ちゃん。何か話しがあるのでは?」


「あ、やっぱり気付かれていたかぁ」

「そりゃあ、不自然に郡さんを避け、莉子に声を掛けてきたら気付きます」


「莉子ちゃんの人気って凄いよね?」

「なんですか、ヤブカラファンタスティックに?」


「え? やぶからなんて?」

「先をどうぞ」


「莉子ちゃんて、たまによく分からない言葉呟くよね」

「美海ちゃんはたまにお腹の中の黒いものが溢れてきますよね」


「それで生徒会に入ったりしないの?」

「そういう所が郡さんそっくりですね。あと莉子はそんな器じゃありませんよ。誘われたら考えてみますけど」


「ふふふっ、褒めても何も出ないよ? でも……ふ~ん、分かった」

「褒めたつもりはないのですが……ですが、え……え? 美海ちゃん変な事考えていませんよね?」


「ふふっ、考えているよ?」

「……巻き込むのはいいですけど、郡さんに恨まれるようなことは止めてくださいね?」


「もちろんっ。最終的にはこう君も理解してくれるよ、きっと?」

「不安ッ!! 不安しかありませんッッ!!」


「こう君を困らせたり、コテンパンにした人への仕返しだから手伝ってくれるよね?」

「詳しく話を聞きましょう」


「ふふっ、ありがとう! 莉子ちゃん!!」

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