第166話 会話文だけです

【とある日『美波』】


「ママ――?」

「どうしたの?」


「義兄さん――?」

「もちろん貴女と同じくらい大切に思っているわ。でも、それが?」


「勘違い――」

「そんな、まさか……え、本当に?」


「だから――出て行った――」

「うそ……」


「義兄さん――ママも――」

「……」


「馬鹿――」

「そうね……」


「似てる――」

「どの辺が?」


「不器用――」

「そうねぇ……」


「思い込み――」

「……確かに激しいかもしれないわね」


「素直――なろう――?」

「許してくれるかしら?」


「なるの――!」

「そうね、素直にならないと……居なくなってからでは、もう……伝えられないものね」


「ご飯――」

「お願いしてもいい? そうだわ、郡くんのアルバイト先に行ってみない?」


「義兄さん――」

「ええ、予約お願いしておいてね。美波」


「うん――!」


 ▽▲▽


「義兄さん――」

「どうしたの、美波?」


「ママ――」

「光さんが?」


「好き――」

「えっと……僕の聞き違いでなければ、僕のことをってこと?」


「そう――」

「……美波には言いにくいけど、僕は嫌われていると思うよ?」


「勘違い――」

「美波のことは信頼しているけど、美波の勘違いってこともあるしね」


「むぅぅっ――!」

「分かった。ごめん、美波」


「ご飯――?」

「いいけど、いつがいいかな?」


「美空さん――」

「え、『空と海と。』で食べるってこと?」


「肯定――」

「分かった。美空さんに予約お願いしておくね」


「うん――」

「日にち決まったら教えてね」


「義兄さん――?」

「ん?」


「大好き――!」

「僕もだよ」


「むぅぅっ――!」

「僕も……大好きだよ」


「うん――!」


「いや、お前らここ昼休みの教室!!」

「な、なんとてぇてぇご義兄妹であられますか……」


 ▽▲▽


【24日午後『空と海と。』】



「郡くん。メイン料理が届く前に要件を済ませてしまいましょう」

「美波からは何か話があると聞いていますが?」


まなぶさんの仕事の関係で、国に提出する書類があるの。その資料を探しておいてもらえない? そこまで急ぐわけでもないけど、忘れても困るし今のうちにね」

「分かりました。秋休み中にでも探しておきます」


「ありがとう。あとで詳細のメッセージを送っておくわね。それと、もう1つ」

「はい、なんでしょう?」


「郡くん、高校を卒業したらどうするの?」

「まだハッキリと決めた訳はないですけど、一応、大学への進学を考えています」


「そう。それならよかった。お金のことは気にしないで自分の進みたい道を選ぶといいわ」

「ありがとうございます。ハッキリ決まったら相談させてください」


「ちなみに、何か就きたい職でも?」

「これもまだハッキリしませんが……少し、教職に興味があります」


「へぇ、意外ね。でも、向いているかもしれないわ。ただ……少し残念ね」

「向いているか分かりませんが、考えさせられる事がありまして。それで、残念とは?」


「郡くんには美波と一緒に私の会社を継いでもらいたいと考えていたのよ。その場合は、美波を代表に郡くんが秘書かしらね。逆も面白いけど、美波に秘書は無理でしょうし」

「むぅ――出来る――」

「そうですね……それも楽しそうですので、少し考えてみます。あと、美波も成長しているので、美波が出来ると言ったら、秘書でも何でもやり切ると思いますよ」


「義兄さん――手――」

「はいはい」

「いいことだけど、本当に仲良しね。見ていて安心するわ。でも、郡くんが一考してくれるなら、そうね……資格は取っておいてもいいかもね」


「そうですね、もし、継がせてもらえるようなことになれば、資格は取得した方がいいと考えています」

「決まりね。簿記も勉強しているようだけど、郡くんなら高校在学中に取れるでしょ? あと、美波? 美波は来年の試験で取っておいてね」


「分かった――」

「……分かりました。努力してみます」


「料理も届いたようだし、頂きましょう」

「うん――」

「はい、いただきます」


 ▽▲▽


「美空さん、美海さん。ごちそうさまでした。とても美味しかったわ。また食事に来させてもらいますね」

「お口にあったようで何よりです。その……私たちもご一緒していいのですか?」


「ええ、もちろん。お2人がよろしければですけど」

「郡くんのお母様とでしたら、喜んでお付き合い致します」

「私も、こう君のお母さんとお話がしてみたいです」


「ありがとう。それに、美波にピアノを弾かせてくれたお礼もしないとですね」

「いえ、美波ちゃんの演奏が素晴らしくて……逆にお礼がしたいくらいです」

「前も上手だと思ったけど、今日はもっと音が綺麗に聴こえる……美波、楽しそう」


「よかったわね、美波?」

「うん――」


「ところで、美海さん?」

「え、あ、はい。なんでしょうか?」


「それで、私の息子のどこがいいの?」

「ふぇっ――っっッッ!?」

「……光さん? 僕がいる目の前で聞くことじゃないと思いますよ?」


「郡くんは黙ってなさい」

「えっと……」

「…………」


「特にいい所はないのかしら?」

「……お耳を拝借させてもらってもよろしいでしょうか?」


「ええ、いいわ。聞かせてちょうだい」

「…………………………………………」


「そう、分かったわ。ありがとう、聞かせてくれて。郡くんをよろしくね」

「はい、お任せください」

「……美海? 変なこと言っていないよね?」


「義兄さん――ピアノ――」

「ちょっと、美波」


「もう少ししたら、帰らせてもらいますね。改めて、今日はご馳走様でした。それに、美波と郡くん、2人によくして頂いて本当に感謝しています。美空さん、美海さん。これからもどうか、よろしくお願いしますね」


「はい、またいつでも来てく――」

「是非、お待ちしております。それに、こちらこそ……光さんとは末永いお付き合いになると思いますので、よろしくお願いいたしますね」


「ちょっと、お姉ちゃんっ!!」

「ふふふっ。そうね、こちらこそ、末永くお願いするわね」


「光さんもっ!!」


 ▽▲▽


「光さん、少しお願いがあります」

「いいわよ。何かしら?」


「何か、短期でアルバイトがあれば紹介してもらえないでしょうか?」

「……何か欲しい物でも? お金ならあるでしょう?」


「クリスマスも近いので、その、なんていうか……出来れば自分の手で稼いだお金でプレゼントとかは買いたくて」

「そういうことね。いいわ。何か考えて……いえ。来年、新店を出す予定だから、その手伝いをしてもらおうかしら。そうしたら自宅に居ても仕事が出来るしちょうどいいんじゃない?」


「ありがとうございます。助かります」

「いいのよ。そうね、11月頃からお願いするわ。大変だけど、弾むから頑張ってね。必要なら前払いも相談してくれていいから」


「何から何までありがとうございます」

「その代わり、値が張る物でなくていいから、美波にも何か用意してもらえると嬉しいわ」


「もちろん。美波にも用意するつもりです」

「そ。それならいいの」


「はい」


 ▽▲▽


【25日午後『美容室』】


「大須賀さん。今日は我儘言ったのに、担当して頂いてありがとうございました」

「いいのよ~、私も楽しかったし」


「その……凄く可愛くしてもらったので、また次からもお願いしていいですか?」

「もっちろんよ~!! 他の美容師に切らせたりしないでよね?」


「はい。じゃあ……これからもお願いします」

「それにしても、美海さん?」


「はい、なんですか?」

「八千代さんが言っていた通り、本当に可愛いわね。もう……全てが可愛いわ」


「えっ!? こう君が……大須賀さんにそんなこと言っていたんですか?」

「うふふふ。これ以上は、な~いしょ」


「そう……ですか」

「ちなみに、美海さんにとって八千代さんはどんな人?」


「えっと……」

「恋人?」


「まだ……違いますけど――」

「けど?」


「私にとって特別な人です……こう君には内緒にしてくださいね?」

「ふふふっ。ええ、もちろん内緒にするわ」


「じゃあ……今度こそ。こう君が待っていると思うので帰ります」

「ええ、またお待ちしているわ」


「では。美波、莉子ちゃんも行こっ!」


 ▽▲▽


【26日午後『買い物』】


「美海――」

「……シャボン玉?」


「莉子――」

「はい、シャボン玉ですね」


「義兄さん――」

「……こう君がどうしたの?」

「郡さんとシャボン玉に何かあると?」


「不明――でも――」

「うん」

「はい」


「曇る――」

「こう君の表情が?」

「昔、何かあったのでしょうか……」


「そう――上書き――」

「そうだね、楽しい思い出に上書きしないと」

「手伝わせてください。でも……美海さんにしか出来ませんね」


「美海――お願い――?」

「美海ちゃん、頼みましたよ?」

「うん――私なりにこう君と話してみる」


「義兄さん――?」

「え、今度はな、に……?」

「郡さん……また男に絡まれておりますね」


「また――?」

「莉子ちゃん、またって何?」

「ああ、昨日、3年生の男子から愛の告白をされていたって噂があったんですよ」


「事実――?」

「詳しく」

「相談事らしく詳細は教えてくれませんでしたが誤解とのことです。まあ、裏取りも出来ておりますので間違いないでしょう」


「さすが――義兄さん――」

「どんどんライバル増えるなぁ」

「あの? 莉子の話聞いていました?」


「突撃――」

「突撃あるのみだね」

「え、急に? おふたりとも随分と好戦的ですね? あ、待ってください」


「義兄さん――」

「心友です」

「こい……友達以上の関係」


「美海――?」

「美海ちゃん、最初になんて?」

「……なんでもいいでしょっ!」


「取っちゃう――?」

「美波ちゃん、それもありですね」

「それはダメ。こう君は譲らない」


「それで――?」

「はい、それで?」

「…………年内には……恋人になる予定……らしい、よ?」


「そう――」

「ご馳走様です」

「……ほらっ! 行くよ!」



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