第144話 僕らは似た者同士?

 新しく読み始めた本を半分ほど読み進めたところで約束の時間となり、千恵さんが運転する車で幸介の友人宅に向かった。


 車内で聞いた話だと、友達の名前は大島おおしまゆうさん。


 内気だけど、名前の通り、思いやりがあり優しい性格の持ち主とのこと。

 幸介と知り合ったきっかけは妹繋がり。


 大島さんの妹さんと早百美さゆみちゃんが同級生であり友達でもあるらしく、その縁で知り合ったとのこと。


 早百美ちゃんの友達で真っ先に思い浮かぶ人が赤木あかぎさんだ。

 思い込みや偏見は良くないけど、変わった子でないといいが。


 ただ、よく考えたら現在は秋休み。

 秋休みがあるのは名花高校くらいだから、中学生の妹さんは家に居ないだろう。


 大島さんの話を聞いてからは、僕がイメチェンした理由等を千恵さんに揶揄われながら、車で15分くらい進んだところで目的地の手前で車が停まった。


 送迎のお礼を千恵さんへ伝えて、残りは幸介の案内で大島さんの自宅へ徒歩で向かう。


 一通方向のため、車だと遠回りになるから歩いた方が早いらしい。


 近くには五十鈴湖公園いすずここうえんや、開成女学園がある場所。

 大島さんの自宅は見た所、コンクリート造り2階建ての戸建て。


 幸介の住む家ほどじゃないけど、立派なお家で少しドキドキしてくる。

 そんな僕のことはお構いなしに幸介がチャイムを鳴らす。

 返事を待っていると、インターホンに出る音。


 そして切れる音が鳴り、反応が途切れる。

 誤って切ったのかなと考えた直後、玄関が開き続いて門扉が開かれた。


「いらっしゃい、幸介くん……それと八千代くん。自己紹介は……あとの方がいいね。とりあえず、上がってよ」


「よっす、優! お邪魔します」


「大島さん、お邪魔します」


 玄関に入るとすぐにタオルを手渡される。

 雨だから気を使い用意してくれていたのだろう。


 傘を差していた反対の腕が少し濡れていたので、気遣いに甘えタオルを借り受ける。


 使用したタオルは大島さんが『もういいね?』と、柔和な笑顔を浮かべすぐに預かってくれた。


 それから広々とした玄関のすぐ隣に見える階段を上り、2階奥にある優さんの部屋まで案内される。


「改めて2人ともいらっしゃい。今日は天気も悪いのに来てくれてありがとう。あと八千代くん、初めまして。大きい島に優柔不断の優と書いて『大島優』と言います。よかったら仲良くしてください」


「大島さん、今日は誘ってくれてありがとう。僕は八千代郡。ちょっとややこしいけど、千代に八千代の八千代に、君が代の君にオオザト偏を付けたぐんと書いてこうりと言います。気軽に郡と呼んで下さい。あと、さっきはタオル助かったよ、ありがとう。それとコレ、良ければご家族で食べて」


「いや、この時点でさ、郡と優の2人が仲良くなれそうな気がしてるのは俺だけか? 2人とも本を読むし、なんとなくフィーリングが合いそうだなと思ったけど……なんか、予想以上かもしれないな」


 幸介の言うことは分からなくもない。

 この時点で何となく仲良くなれそうだなと感じている。


 部屋は10帖ほどの広さ。

 入って左側壁一面に大きな本棚があって、全てが本で埋め尽くされている。


 見た所ほとんどが漫画本だけど、他にもカラフルな背表紙をした本が見える。

 幸介には区別がつかなかったのかもしれないが、僕と大島さんが読む本のジャンルは異なっているかもしれない。


 でも――それはそれで、知見が広がることでもあるから、大島さんに何かお勧めを聞いて、読んでみたら面白いかもしれない。


 大島さんが気になるなら僕もお勧めの本を紹介したらいいしな。

 仲良くなれそうだと感じた理由は、たくさんの本を目にしたこともひとつであるが、何より話し方が僕と通ずるものがある。


 それに以前僕が掛けていた伊達眼鏡とそっくり、いや、多分全く同じものを大島さんも掛けているのを見たからかもしれない。


 占いでラッキーアイテムは伊達メガネと言っていたけど、早速的中したのかもしれないな。


「気を使わなくても良かったけど……ありがたく頂戴するね。郡くん……で、いいかな? 俺のことも『優』でいいからね。あと、幸介くんも郡くんを紹介してくれてありがとうね」


「どういたしまして優くん。まだ初対面だし、呼び方も含めてゆっくり仲良くなれたらいいな。優くんの真似じゃないけど、優くんを紹介してくれてありがとう幸介」


「お、おう……なんか照れるな」


 僕を除いた2人が可笑しそうに笑っていることに対して、僕はまだぎこちなく頬を緩めることしか出来ない。


 それでも優くんから嫌な視線は全く届いて来ない。

 これだけで優くんと友達になりたい、なれたらいいなと思えてくる。


「ごめん。少し待ってて」


 優くんは一度部屋から退出したが、数分としないうちに戻ってきた。

 手に飲み物を3本持っているのが目についた。

 幸介には缶ジュースのコーラを、僕には緑茶を渡してくれる。


「幸介くんから郡くんは炭酸飲料を飲まないって聞いていたけど、お茶で良かったかな?」


「炭酸も嫌いじゃないけど、お茶や水にコーヒーの方が好きだから嬉しいよ。ありがとう」


「よかった。でも、郡くんてなんか大人っぽいね? 羨ましい。幸介くんから郡くんは1人暮らししているって聞いたから……だからかな?」


「いやいや、全くだよ。1人暮らしにしたって、たくさんの人に支えられて生活しているから、僕はまだまだ子供だと思うよ」


 大人だと言われるのは、どちらかと言うと嬉しい。

 まだ大人になりたくない気持ちはあるけど、憧れもあるのだろう。


 それに褒めてくれるのも嬉しいが、言った通りに自信をもって大人だと言える程、僕は自立出来ていないし、多くの人に甘え助けられている。


「とりあえずさ、優。アレ、やろうぜ? 今日こそ特訓の成果見せてやる。郡も一緒にさ!!」


「手加減しないよ? 郡くんも好きなの?」


「アレって何?」


「「マリコカート!」」


 言われても分からなくて、つい、首を傾げてしまうが幸介がすぐに説明してくれる。


 人気ゲーム機のソフトのひとつで、アイテムを駆使して一番を競うレースゲームとのこと。


 とりあえず、説明がてらに2人が最初にプレイを見せてくれることになったが――。


 見た感想としては面白そう。そして操作が難しそう。

 僕はゲームをしたことがない。

 いや、ソリティアやテトリスならしたことがある。

 あと、オセロや将棋、チェスなどのボードゲームもコンピューター相手にしたことがあるな。


 だからマリコカートは新鮮に感じて面白そうだと思ったけど……僕が混ざったら2人が楽しめないような気がしてならない。


「いや、郡? 下手だからゲームをしてはならないって決まりはないからな?」


「そうだよ。最初は誰だって下手だし幸介くんだって全くセンスないから、郡くんも安心していいと思うよ。それに、みんなでやるからゲームは面白いんだから。ね?」


「カッチーンッ。言ったな? 優。ぜってぇ、負かしてやる――まぁ、俺もそこまで上手じゃないしよ、郡も気にすんなって?」


「それなら……じゃあ、やってみようかな。やり方、教えてもらってもいい?」


 それから――。


 軽く操作の説明を受け、初めにコンピューターを相手とし実践してみたが、全く勝てない。

 その上、後ろで見ている2人に笑われてしまった。


 どうやら無意識に操作するキャラクター、僕が選んだキャラクターの『マリコ』の動きに合わせて、右や左、前や後ろに体が動いてしまっていたらしい。


 僕とマリコはシンクロ率100パーセントだとか。


 よく分からないが、何かのネタらしくゲラゲラと笑っている。

 いや、どれだけ我慢しても動いちゃうし動かない2人がおかしいと思う。


 ゲームは面白いが……悔しい。

 その思いをバネに30分ほど続けたところで、なんとか初勝利を飾る事が出来た。


「おめでとう、郡くん(パチパチパチパチッ)」

「おめでとう、郡(パチパチパチパチッ)」


「「――おめでとう(パチパチパチパチパチッ)」」


「え、それも何かのネタ? でも、ありがとう」


 瞬きも忘れ集中し過ぎたからか、目の渇きと疲労を感じる。

 花粉の季節でもないし目薬は持っていないから、気休めに目頭を押さえ瞬きを繰り返しておく。


 続けて喉の渇きも感じたから、優くんにもらったお茶を飲み喉も潤す。


「じゃあ、郡がひと休みしたら3人で対戦するとしますか。ビッグマウス優を叩きのめさないといけないし」


「いいね。郡くんには手加減するけど、幸介くんには容赦しないから」


 10分程目を休めてから3人でレースをしたり、アイテムを駆使して風船を割り合ったり、爆弾をぶつけ合ったりするミニゲームを楽しんだ。


 僕は奇跡的に一勝することが出来たが、優くんは宣言通りに幸介を完封してみせた。


 圧倒的過ぎて、幸介も悔しさを通り越して逆に笑えてしまったようだ。

 途中、優くんのお母さんが、豚肉がたっぷり入った焼きそばを振る舞ってくれた。


 ――普段はこんなにお肉入っていないのにな。

 ――2人もイケメンがいるから見え張ったな母さん。


 と、呟いていた。


 褒められて悪い気はしないけど、あまり嬉しいとは思えなかった。


 お腹を満たした後はマリコとはおさらばして、日本全国各地を巡るすご六のような桃姫鉄道というゲームを15時過ぎまで楽しんだ。


 優くんと知り合って数時間。

 その時間のほとんどをゲームに費やしていたから、互いを知る為の会話は少なかったかもしれない。


 それでも、何となく距離が近くなった気がするからゲームとは不思議なものだ。

 これもゲームの魅力なのかもしれないな。


 ゲームが不得手な僕でもたった数時間で、ある程度操作出来るようになれるなら、購入を考えてもいいかもしれない。


 美波は興味ないかもしれないが、美海と莉子さんは案外はまりそうだし。

 いや、莉子さんならすでに持っているかもしれないな。


 ちょっと前向きに考えてみようかな。


 ただ、目が悪くなりそうだし夢中になりそうで怖いから、1人でプレイしたりはしないかもしれないが――。


 凝り固まった体を解すのに両手を上に伸ばしていると、ここでふと、窓から光が入り込んできたことに気が付く。


 外を見ると太陽の光が差していた。つまり雨が上がったということだ。


「天気予報通り晴れてきたね」


 優くんも天気予報で確認していたみたいだ。


「そうだね。肩も凝ったし少し日光を浴びたいかも」


「お、じゃあ、次は外で遊ぶか? つか郡、日光浴ってクロコみたいだな」


「この辺は特別遊べるような場所はないけど何するの? あと郡くん、クロコは猫? 犬? 大穴で鳥とか? あ、ハムスターや金魚も考えられるかな」


 何をしようかと3人で話しつつ、優くんにクロコの写真を見せる。

 とても可愛いんだよと、自慢することも忘れない。


 優くんの幼馴染の家にも猫がいるらしくて、可愛い自慢をするのに写真をこれでもかと見せびらかすことが同じだと笑われてしまったが、佐藤さんも僕に対して同じことをしていたから、猫好きの宿命なのだろう――。


「決まらんな……よし!! じゃんけんで勝った人が言った遊びをしよう!!」


「こういうのは言い出しっぺの幸介くんがババ引きそうだけど、負けた人じゃないんだ?」


 話していてもダラダラしそうなので、このままじゃんけんで遊ぶ内容を決める事に。

 そして、声を揃えて――。


「「「じゃんけん、ポン」」」


 チョキが1人、グーが2人。勝負はたった1回で決まった。

 なんとなく予感はしていたが……そう思いながら自分が出したチョキの手を見つめる。


「はい、郡。何するよ? 何がしたい? 何でもやるぜ? 言ってみろ!!」


「郡くんの望み……なら、なんでも付き合うよ」


 妙な間のあった優くんが気になるが、なんと頼もしい2人なのか。

 譲ってあげたくなってしまう。


 とりあえず考えるふりをして、目の前のテーブルに転がっている空き缶を見る。

 このだらしのなさは、きっと幸介だな。

 空き缶を手に取り、直しておく。


 でも、ふむ――ゲームも初めてだったしな、この際だから子供の頃にやってみたかった、ちょっと憧れていた遊びでも提案してみるか。


「雨も上がったことだし、ちょうどここに空き缶もある」


「……いいぜ。3人でもやれないことないしな」


「郡くん、まさか? でも久しぶりにいいかもね」


 察しの良い2人だ。それにノリも良い。

 高校生がする遊びではないかもしれないが、そんな2人だからこそ気兼ねなく口にすることが出来る。


「僕は缶蹴りがしてみたい」


 ゲーム以上に、ぼっこぼこにされる未来とも知らず、僕はそう願ってしまった――。

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