第134話 後ろから温かな視線を感じました

 美波と違い僕は、アウトレットパーク自体初めてだから、何があるのかを携帯で検索してみた。


 僕らの住む街に近いアウトレットパークは、仙台市もしくは仙台市と反対側の那須アウトレットパークが近いらしい。


 どちらも車で約2時間。

 渋滞を回避し順調に進めば、仙台市の方が10分から20分ほど早く着く。


 次にどんな店があるか気になるものだ。

 携帯で検索を掛けようかと思ったが、ホームページから印刷したショップ案内やフロアマップを美波が手渡してくれた。


 僕は携帯で見るより、パンフレットとかで確認する方が好きだから助かる。

 どうやら、僕の好みを把握していた光さんが気を利かせて用意してくれたみたい。

 今まで僕が気付かなかっただけで、こういったことも親としてしっかり見ていてくれたのだなと感じて、気持ちが温かくなる。


 ニコニコした美波からの視線を感じつつショップ案内を見ていると、光さんから『気になる店があれば予定を組み直すから教えて』と、声が掛かる。


 僕が返事に悩んでいると『甘えなさいと言ったわよね?』と、バックミラー越しに凄まれたため、遠慮せずランニングシューズとクロコのお土産が気になるとだけ伝えた。


 美波から聞いたが、すでに買う物は決まっていて、ウインドウショッピングはしないと。

 つまり、布団や冬服はすでに光さんの予定表に組み込まれている。

 効率を重視する光さんらしいと思った。


 途中、軽食も取れるパーキングエリアへ寄ることとなった。

 立ち寄った理由は、


「どうせ掃除していたせいで朝ご飯はまだなんでしょ?」


 と、僕の行動を的確に予想していたからだ。

 自動販売機で焼きおにぎりを買ってもらい、美波と光さんはソフトクリーム。


 アウトレットパークに到着した時刻は12時半くらい。

 すぐに買い物を始めるのかと思いきや、美波が音楽の聴こえてきた方に吸い寄せられてしまう。光さんを見ると――。


「ソプラノ歌手とピアノによるクラシック演奏があるの。美波の興味を引くと思ったから、これも計画のうちよ」


 なるほど。下調べはバッチリと。

 ちなみにピアノの演奏は、特に感じる何かはなかった。

 美波が奏でる音の方が好きだからだろう。

 シスコンと言われても構わない。本当のことだからな。


 演奏を聴き終わった後は、始めに2階へ上がりランニングシューズを購入してもらう。

 大切に使わせてもらいます。そう、お礼を伝えた。

 2階では他に立ち寄る店がないため、階段で1階へ下り何件か梯子して回り冬服を購入していった。


 僕と美波はただ光さんについて行き、渡された服を試着する。

 その繰り返しであった。


 幸介なんかはお洒落だから、自分で選んだ服を着たがるかもしれないが僕はこっちの方が楽だ。

 何より、光さんはセンスがいいから僕が選ぶより任せた方が間違いないし、時間もかからない。

 美波が試着していた服なんて、凄く似合っていて店員さんも頬を染め言葉失っていたからな。


 満足のいく冬服購入後は、寝具で有名なお店へ。

 ここでは美波が選んだ掛布団と枕を購入。

 こだわりもないので特に不満はない。

 手に触れたら枕も気持ちよかったし、掛布団は羽毛だったからな、寒い季節にはちょうどいい。

 ちょっと贅沢すぎると思ったが、素直にお礼を伝えておいた。


 敷布団は昨日の内にネットで注文済みらしく夕方に届くらしい。

 受け取りに間に合わなくても宅配ボックスがあるから問題ない。


 だけど、準備が良すぎるし車の中で僕に投げかけてきた質問はなんだったのかと思ってしまう。


 一度、荷物を置きに車へ戻り、帰宅時間を決めて、ここで別行動。

 さすがにクロコへのお土産は自分の財布から出したいとお願いしたのだ。


 光さんはそれならと納得してくれて、美波と一緒に買い物と引き換えにもらった福引券を使うため、福引会場へ向かった。


 美波は小さくこぶしを作って、やる気に満ち溢れていた。


 クロコへのお土産はちょっといいブラシ? 櫛を買った。

 ブラッシングされるのが好きだからな。


 あの、うっとりとした幸せそうな顔を見ていると毎日掛けてあげたくなるけど、あまりやり過ぎると、身体に負担を掛けてしまうから週に一度だけ。


 換毛期はまた別だ。


 駐車場へ戻ると、すでに2人が車の中で待機していた。

 品を選ぶのに時間が掛からなかったはずだが、待たせてしまったらしい。

 車に乗り込み、シートベルトを締める。


 発車後、美波に福引の結果を聞くとシャボン玉を見せられた。

 参加賞か、それに近い賞かもしれない。

 シャボン玉にはあまり

 だからちょっと複雑だけど、美波が嬉しそうだから良かったのだろう――。


 アウトレットパークを後にした時刻は14時30分。

 行きに要した時間と同じくらいなら、17時ころには到着するはず。


 そしてほぼ予想した通りの時刻にマンションへ到着する。

 さらにタイミング良く敷布団も届いた。

 怖いくらい光さんの計画通りだ。


 初めてのアウトレットパークに行った感想について率直に言うと、弾丸だったし作業を消化しているような感覚もあった。


 贅沢が許されるならば、もう少しゆっくり楽しみたい気持ちもあった。

 だけど、光さんと美波の3人。


 今まで話せなかった家族らしい会話が出来たので、結果としては楽しくて満足のいく、いい思い出となった――。


 宅配業者さんから敷布団を受け取ったのち、クロコに夕飯をあげてから、今日一番の目的である『空と海と。』へ向かう。


「夕方から貸しきりにしてくれているみたいだから、美空さんにピアノ弾く許可貰っているけど、美波どうする?」


「弾く――」


「良かった。美波の演奏は2カ月ぶりだから楽しみだな」


「あなたたちは全く」


 僕と美波が並んで歩く少し後ろから、少し嬉しそうな声が聞こえてくる。

 いや、呆れた声も混じっているかもしれない。


 でも仕方ない。


 美波が僕の右手を取ったことで、義兄妹きょうだい仲良く、手を繋いでいる姿を見られているのだから。

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