第124話 その裏で

 体育祭終了後、生徒会室。


 真弓まゆみの呼び掛けに応じて、私、冨久山ふくやま紅葉もみじを含む生徒会役員2年生と次期候補者たちが集められた。


 呼び掛けた時の真弓の厭らしい顔を思い出すと、嫌な予感しかしない。


「明日、千代くんを次期生徒会副会長へ立候補するように呼び掛ける。けれど間違いなく千代くんは断るだろうね。むしろ断ってほしいと願っている。でないと宣戦布告出来ないからね。楽しみだなぁ……あぁ、すまない。脱線した。君たち3人は当初の予定通り生徒会役員選挙で立候補してくれたまえ」


「もちろんです。本宮先輩の頼みであるなら、なおのことですよ」

「八千代くんのことが知れるなら構わない」

「了解で~ス」


「良き返事だ。けやき紅葉もみじも特に異論はないだろ?」


「ない」

「ないけれど……」


「けれど、なんだい?」


「断られると分かっているのに推薦するの?」


「千代くんに気骨があるのか確かめつつ、まぁ、そうだね。一種のデモンストレーションみたいなものだよ。千代くんは私と同じで控えめな性格なのか、目立った行動はしたくないらしい。だけど、このまま埋もれさせておくには惜しい。紅葉もリレーを見ていただろう? 恥ずかしながら私ですら胸が高鳴ったよ。あんな逸材、他にはいない。兄も注目している。だから推薦するのさ。推薦する事で嫌でも千代くんが目立つだろう? 千代くんには文化祭でも中心にいてほしいからね、ひっそりフェードアウトされたくない。逃がしたくないんだよ。兄から聞いた景色を、その続きを私はこの目で確かめてみたいのさ。だから宣戦布告する」


「そう……分かった。それならもう異論はない」


「それならいいんだ。そうだなぁ……とりあえず、君たち3人は千代くんと接触してみても面白いかもしれないね。上近江美海の器を確かめてもおきたい」


「分かりました。明日にでも」

「了解」

「同じく了解で~ス」


「頼んだよ。仲介は、千代くんと同じクラスの山鹿やまがさん。君がするといい」


「……私は今の八千代郡ぐぶつと一言だって口を交わしたくないと伝えているはず」


「ああ、だから仲介するだけでいいよ。その後は引き続き月美つきみとの交流を深めつつ、大槻先輩のファンクラブで活動を続けてくれるだけでいいさ。欲を言えば、そのまま――」


「分かりました。でもあの愚物が風紀委員に入るようならお断りです」


「はは、君にも千代くんが次に取る行動を読めているんだね。感心したよ。ただし、千代くんは風紀委員にはならないよ。まぁ、けれど今のところは残念だけど欲張りは禁物。ってことにしておこう――話は終わりだ。では、今日の所は解散――」


 本当に。


 ご愁傷さま、千代くん。

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