第117話 鈍感から逃げるわけにはいかない

 開会式の時と同じように、田村生徒会長はリレーの結果を淡々と発表して行った。


【1位】Aクラス 【2位】Cクラス

【3位】Dクラス 【4位】Bクラス


 と、リレーの結果が出る前のクラス順位は、


【1位】Aクラス 330点

【2位】Bクラス 315点

【3位】Cクラス 0点 同率 Dクラス 0点


 このような結果だったが、リレーの点数を加えた最終結果はこうなった。


【1位】Aクラス 430点

【2位】Bクラス 315点

【3位】Cクラス 60点

【4位】Dクラス 30点


 と。

 点数が変わっただけで順位の変動は起きなかった。

 そして今――特別賞、つまりMVP賞発表の瞬間となる。

 MVP賞で獲得できる50ポイントで結果が変わる――。


 僕ら1年Aクラスのみんなは固唾を呑み、結果を聞き逃さないように集中している筈。


『活躍した人は多く。生徒会の中でも最後まで結果は揉めた。バドミントンでトリッキーな動きで活躍した生徒。バスケットボールでスリーポイントを決め連続得点を上げた生徒。バレーボールでどんなボールも拾い続けた生徒。リレーで高潔な精神を見せた生徒。だが、最後に…………まるでドラマのように劇的な演出を行った生徒に贈る事で決まった。前置きが長くなったが、では、特別賞を発表する。1年Aクラス。八千代郡くん、おめでとう。特別賞は君に』


 リレーが始まる前に気合を入れたような大きな声はない――。

 静寂、そのものだ。

 そして、聞き間違いでないよね?

 そんな感じでクラスメイトたちは顔を合わせ始めた。

 それが聞き間違いでないと分かったからか――。


「「「「「「「「「「ううおおぉぉぉぉぉぉっっッッ!!!!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「ううおおぉぉぉぉぉぉっっッッ!!!!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「ううおおぉぉぉぉぉぉっっッッ!!!!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「ううおおぉぉぉぉぉぉっっッッ!!!!」」」」」」」」」」


 僕以外全員のクラスメイトが湧いた。

 まるで僕が嬉しくないような言い方だが、僕だって柄にもなく叫びたいほど嬉しい。

 けれども、今いる場所は保健室だ。

 だから叫ぶことなど出来ない。


 転んだ拍子で肘を擦り剥き、思った以上に血がダラダラだったのだ。

 だから僕は2人寂しく、保健室にあるモニターで体育館の様子を見ていた。


 仕方ないのかもしれないが、本当に締まらない。


「千代くん、残念ヒーローです。でもです。格好良かったです」


五色沼ごしきぬま先生、ありがとうございます。でも五色沼先生には残念と言われたくないですね」


「変なこと言うです? こんなに美人な私です? どこが残念です?」


 ――そう言うところですよ。


 とは言わずに、少しだけ適当に会話をして時間を潰す。

 結構、体力が限界なのだ。

 立ち上がると足がプルプルと震えて、その姿を見た五色沼先生に生まれたての小鹿みたいだと爆笑されてしまった。


 この人に笑われるのは悔しい。


 ただ、休むことを許可されているので、体育館の片付けという体育祭実行委員最後の仕事は、言葉に甘えて他の人に任せる事にした。

 今は、このあとの打ち上げに向けて体力を回復させないといけない。


「少し横になりますね」


「添い寝するです?」


「結構です」


「つれないです」


 カーテンは閉めず、軽く横にさせてもらう。

 まだ脳が興奮しているのか眠気を全く感じない。

 だから目を閉じ回復に集中させる――。


 目を瞑り少し経ってから、体を起こす。

 休めたおかげで足の震えも治まった。


 五色沼先生にお礼を伝えてから、莉子さんと待ち合わせをしている書道部の部室へと向かう。


「莉子さんの、好きな人、か――」


 鈍い僕でも気付いてしまった。

 これが僕の自惚れ、勘違いだったらどれだけいいか。


 聞きたくない。

 でも聞かなければいけない。


 友達、それも僕が尊敬する人からの大切な話なのだか―。


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