第111話 騒いだら呼び出しを受けました

 前期末試験でランキング表に載った上位30人は、僕を除いて全員が女子生徒であった。

 女子が優秀なのか、それとも男子が不勉強なだけかは不明だが、僕ら1年Aクラスに関しては、分かっていることもある。


 僕らAクラスはどうやら学力面においては出来が悪いらしい。

 先日、掲示板に張り出された学年30位までのランキングに名前が載った人は、上から順に、


【1位】八千代【9位】上近江【11位】山鹿【30位】佐藤


 4人だけだったのだ。

 1学年160人と考えたら少な過ぎである。

 平均すると1クラスで7人か8人くらい、ランキングに入っていてもおかしくない所、4人だけなのだから。


 ただその代わりに、他クラスより運動部に所属している人が多い。

 午後に行われるバスケットボールに参戦する男子二組。

 そのうちの一組は、2人がバスケットボール部に所属しており、他の3人も何かしらの運動部に所属している。


 さらに、バレーボールに参戦する女子も3人がバレーボール部で、他の人も運動部に所属している。

 つまり、バスケットボールとバレーボールに参戦する人は運動が得意な人で固められていて、これは大きなアドバンテージかもしれない。


 そして今から第1コートでバスケットボールの第1戦目が、第2コートでバレーボールの第1戦目が始まろうとしている。


 僕と莉子さんの2人も午後は実行委員の雑務も免れているため、応援に集中することが出来る。だから応援に駆け付けた次第なのだが――。


「なんでこんなことに……」


 僕の今の気持ちを5文字で表すなら『恥ずかしい』。ただそれだけだ。

 でも断れる雰囲気などではない。


 僕がみんなを煽ってやる気を起こさせたのだ、認めたくはないが扇動した責任を取らないといけない。

 すでに隣の第2コートからは、声が聞こえてきた。

 僕が躊躇ちゅうちょしている間に、莉子さんが始めたようだ。

 それならば、心に決めるしかない――。


「掛け声は?」

「「「「「圧倒」」」」」


「目標は?」

「「「「「総合優勝」」」」」


「立ちはだかる敵は?」

「「「「「なぎ倒す」」」」」


「つまり?」

「「「「「リッコリコ!!!!!!」」」」」


「勝利を」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉっッッ!!!!!」」」」」


 開戦である。

 さすが運動部。みんな乗りがいい。


 いや、本気だ。本気の叫びだ。


 見るからに他のクラスの人たちはドン引きした様子だし、対戦相手も心なしか腰が引けている。

 けれどそれは、開始早々たたみ掛けるチャンスかもしれない。


 もしかして莉子さんはこれが狙いだったのか?


 そう考えるとこれも立派な作戦かもしれない。

 まあ、そんなことは考えてすらいなかったと思うけど。

 多分ノリだろうな。


 でも、掛け声のおかげか選手たちだけでなくクラスメイトの士気が高い。

 いや、遠目でも美海の口がクラスメイトと同じように動いているのが分かる。

 つまり美海ですら声を出しているから全員士気が高いのかもしれない。


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「掛け声は? 圧倒!!」」」」」


「「「「「目標は? 総合優勝!!!」」」」」


「「「「「立ちはだかる敵は? なぎ倒す!!!!」」」」」


「「「「「つまり? リッコリコ!!!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「掛け声は? 圧倒!!」」」」」


「「「「「目標は? 総合優勝!!!」」」」」


「「「「「立ちはだかる敵は? なぎ倒す!!!!」」」」」


「「「「「つまり? リッコリコ!!!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


「「「「「リッコリコ! リッコリコ!! リッコリコ!!!」」」」」


 凄まじい熱気である。

 試合中ひたすら繰り返される応援歌。

 歌と言っていいのか分からないが、応援歌で間違いがないのであろう。

 そのおかげか、試合も圧倒している。


 この調子ならバドミントンに続いて、バスケットボールとバレーボールの両方、決勝進出は固いかもしれない。

 これだけみんなが応援しているのだ、僕も恥ずかしいとは言わずに応援に混ざった方がいいだろう。


 でも、みんなごめん。

 僕は責任を取らなければならないらしい。


「八千代君」


「はい、古町先生」


「生徒会副会長がお呼びです。今から体育祭控室に行くように」


「分かりました。すぐに行って参ります」


「よろしい」


 心なしか憐みの目を向けられたように感じた。

 きっと怒られるのだろう。

 さすがのイベント大好き副会長も見逃せないほど、大騒ぎなのかもしれない。


 億劫おっくうな気持ちではあるが、クラスのために怒られると考えれば、そこまで悪い気もしない。


 自らにそう言い聞かせ、重い足を踏み出したのだ。

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