第95話 プラネタリウムへリベンジします【1回目】
「さて、2人とも。準備してからプラネタリウム観に行きましょうか?」
「じゃあ、着替えてこようかな。お部屋借りるね、こう君」
「僕はリビングで待っているから着替えておいで」
昨晩、就寝する直前にバルコニーから星が観えないかと美海に聞かれた。
残念ながらうちのバルコニーからだと、流星群と呼べるくらい流れない限り厳しいかもしれない。
けどそこで、ふと思い出したのだ。
入学してすぐ、展望台とプラネタリウムに興味を示し観に行ったはいいが、カップルの多さに負けてすぐさま撤退したことを。
もしやこれはリベンジのチャンスなのでは?
そう思った僕は2人にプラネタリウムを観に行こうと提案してみた。
「行きたいっ!! 3人ならカップルにだってヘッチャラだよね?」
「私も構わないわよ。久しぶりのプラネタリウムも楽しそうだし、郡くんのリベンジに協力できるなら賛成よ」
ありがたいことに、リベンジする機会を貰うことが出来た。
寝付く前に調べてみたけど、今のプラネタリウムは夏の夜空によく見える天の川と夏の星座について上映されるみたいだ。
上映中に説明もあるみたいだし結構楽しみにしている。
人によっては説明が不要だと感じ、星だけ流してほしいと思うかもしれないけど、僕は説明が合った方が嬉しい。
何か分からないのに見ていても、楽しさが半減しそうだからな。
平田さんと通話した影響で暗い気持ちとなっていたが、おかげで楽しみな気分を抱いたまま眠りにつくことが出来た――。
喉を鳴らすクロコを撫でながら2人を待っていると、着替えを済ませた美人姉妹がリビングに戻って来た。
何度見ても2人揃って美人だ。
街を歩いていたら目立つこと間違いないだろう。
並んで歩く相手が僕では役不足な気がするが今さら考えても仕方ない。
美波と歩いていても散々言われてきたことだしな。
余計な事は考えずに楽しむとしよう。
ただ、これってデートなのか?
3人だから違うよな……待ち合わせして出掛ける訳でもないし違うはず。
余計な事を考えずに。
そう思ってすぐ余計な事を考えてしまう。
「どうかな郡くん? 似合うかな? 感想聞かせてほしいなぁ?」
「よくお似合いです。綺麗で大人っぽいです」
「ふふっ、新調した甲斐があったかな。褒めてくれてありがとね」
わざわざ新調してくれたのかと驚いたが、何も僕の為に新調した訳じゃないだろう。
自意識過剰自惚れも甚だしい。
それで――。
ありふれた言葉で申し訳ないが美空さんなら何着ても絶対に似合うだろう。
今着ている服装は多分、ワンピース? 肩が出ているから違うのか?
ちょっと分からないけど、ワンピースに薄手のシャツを羽織っていて、大人っぽいスタイルだと思う。だから本当によく似合っている。
次に、ワンピースらしき服をヒラヒラさせている美空さんの少し後方に目を向ける。
「美海もよく似合っていて可愛いよ」
「……私、何も言っていないのに。でも、ありがとう」
美海が言ったように、特に感想を求められたりしていない。
けれど、聞きたそうにしている様子が伝わってきたのだ。
その姿はいじらしくて可愛かった。
服装はショートパンツに大きめのシャツ、キャップを被っていて可愛らしい服とは違うかもしれないけど、美海に似合っていて本当に可愛いと思った。
伊達眼鏡を掛けているけど、前に僕が使用していた物と違ってお洒落で凄く似合っている。
ただ、これは余計なお世話かもしれないが。
ちょっと足の露出が多い気がする。
美海が好きで着ているのだから、僕にとやかく言う権利などないから言えないけど、気になってしまう――。
「駅前で30分後に待ち合わせをしましょうか。郡くん、私と美海ちゃんは先に向かってもいいかしら?」
「え、どうして? 3人で行けばよくない?」
「美海ちゃん? 待ち合わせをして出かける事がデートなのよ? 待ち合わせをしないといけないでしょ?」
「え……これってデートなの?」
美海が困っているし、そもそもデートの定義から外れているから訂正させてもらおう。
「美空さん、デートは2人でするものだと思いますよ」
「あら、郡くんは私と2人でデートしたいってこと? 嬉しいお誘いだけど、それはまた今度ね?」
美空さんと2人でお出掛けすることは魅力的に感じるが、この人は僕と美海の反応を見て楽しんでいるだけだろう。
僕が何て返事するのか、美海は無言で見てきている。
その美海を見て、美空さんがクスクス笑っていることが何よりの証拠だ。
「美空さんは放っておいて2人で行こうか、美海?」
「――っ!! そうだね、こう君。お姉ちゃんは30分後に来てもらえればいいよね!!」
選択を間違えていたら、美海に年上が好きだと言われてしまっただろう。
だがそれがないと言うことは、僕の選択は正しかったということだ。
それに、味方に付けることにも成功出来たようだ。
「ええぇ~? あ、お姉ちゃんを放ってまで2人でデートしたいってこと?」
「はいはい、時間も惜しいですから。じゃあ、クロコ行ってくるよ」
雑な返事で申し訳ないが、埒も明かないので流させてもらう。
まあ、ジェラートを食べに行った時も楽しかったし、美海と2人で出掛けるのは……悪くないが――。
「あ、郡くん。今、美海ちゃんと2人でデートするの想像したでしょ?」
「なにを根拠に――」
「そうなの? 想像したの?」
面白そうに笑う美空さんになら曖昧に言って濁したかもしれないが、純粋な表情で聞いてくる美海には濁しにくい。
けれども美海と2人で出掛けたいなどとは、恥ずかしくて言い出し難い。
今までは、2人でいる姿を見られたら面倒になる。
そういった理由だったけど、今は別の何か知らない感情が誘うのを恥ずかしいと思わせてくる。
その感情の正体を突き詰めたいが、今は美海に返事をしなければならない。
「……この間のジェラートは楽しかったなって。そう思い出していたんだよ」
「そっか……私も楽しかったし、また一緒にお出掛けしようね?」
「美海がよければ、是非」
「私がこう君とお出掛けしたいんだよ」
「「…………」」
「む、胸焼けしそう……クロコ、私はもう行かないといけないけれど、また今度も一緒に寝ましょうね」
散々、場を乱した美空さんに思う所しかないが、続けてクロコに挨拶を送る事を決める。
「夜は美波も来るからお留守番お願いクロコ。いってくるよ」
「クロコ、またあとでね!」
「ナァ~」
4本の手足でソファの背もたれにまたがり、だらけながら首だけを向けて返事を戻して来た。何となくだけど、うるさいから早く行って来いと言っているように感じた。
それと美空さんが言ったことだけど、驚くことに昨晩のクロコは僕の近くではなく、美空さんと美海と一緒に寝ていたのだ。
もしかしたらだけど美空さんからは、猫をも魅了する何かが出ているのかもしれない。
寂しかった言い訳ではないが、そうとしか思えない。
そんなトンチンカンなことを考えながら、僕を真ん中に3人仲良く並んでプラネタリウムへ向かったのだ。
▽▲▽
【1回目】
『つまり、平田さんは叶えたい願いがあるから自分を変えたい、と』
『は、はい……』
『分かった。平田さんにはお世話になったから、僕に出来ることなら全力で協力する。けれどね平田さん?』
『あ、あ、りが、と、うござ、います?』
『平田さんも分かっていると思うけれど、夏休みだけだと時間が足りない。だから……正直言うと、今の平田さんはかなり厳しい状況だよ。それでも頑張る、そう言うなら厳しいことを言うことになるけどいいかな? 平気? 耐えられる?』
『は、はい。た、いい、くさい。が、がん、ばりたい、ので』
『……これが最後。優しく出来ないけど、いい?』
『は、はい。お、おね、が、いしま、す』
『分かった。なら先ずは、その話し方から』
『え……?』
『今のままだと聞き取りにくいし、何より自信のなさが話し方や声に現れている。僕は今のままでも気にしないけど……でも、それだといけない。せめてひと言毎に区切って話せるようにならないと駄目。いい? 出来る?』
『で、でき、るか――』
『出来る、出来ないじゃない。やらないと。変わるんでしょ? 変わりたいって言ったばっかりでしょ? それなら……やりなさい』
『……は、い』
『さっき約束した通り、毎晩10分間電話するとして、あとはそうだな……毎週水曜日。直接会って話せない? 平田さんの都合はどう?』
『だ……大丈、夫、で、す(グスッ)』
『……時間は午後1時でいい? 場所はどうしようかな』
『(グスッ)じか、ん……大丈、夫、です。わ……私の、い、え大丈夫、です』
『ちゃんと区切らずに『大丈夫』って言えたね。その調子で頑張ろう。けど、家大丈夫なの?』
『は、い。頑……張る、ます(グスッ)お……親、し、仕事、で、いない、ので』
『……………………じゃあ、決まりだ。あとで、住所送っておいて』
『(グスッ)……は、い』
『じゃあ、おやすみ。平田さん』
『――!? お、お、お……おやすみ、な、さい』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます