第68話 莉子とズッくんの約束
楽しかったですね――。
もうちょっとしたら、終わりになるのが寂しいと思ってしまうくらいに。
莉子史上一番の思い出かもしれません。
いえ、思い出です。断言出来ます。
万年ボッチの莉子が、こんなに学校行事を楽しむことが出来たのはズッ友のおかげです。
思わず口から『ズッ』って、出てしまい焦りましたが、何とかあだ名と言って誤魔化すことが出来ました。紙一重でしたね、あれは。
男同士の話をされている2人を待っている間、和やかにソフトクリームも食べれました。
莉子の分まで、ご馳走様です。
でも、五十嵐さんと天使様の誤解が解けて本当によかったです。
色々あったけど、上手くいきそうでよかったですね、ズッくん。
天使様に感謝されましたけど、五十嵐さんと一緒に『お礼ならズッくんに』って言っておいてあげましたよ?
感謝してくださいね。ふんっ。
あとですね、莉子は万年ボッチで1人の時間は多いですから、ズッくんと天使様のことはたくさん見ていましたし、気付いていましたよ?
あとはしっかり決めるとこ決めてあげてください。
莉子は期待しかしていませんからね?
失敗は許しませんからね。
それにしても、お土産多くないですか?
一体、何人分買うのですか、ズッくん。
莉子なんて、お母さんとお父さんの2人にだけですよ?
それに、どうして鏡の前を通るたびに睨めっこしているのですか?
微妙に
まぁ? 莉子は優しくて気遣いの出来る女ですから? 触れずにいてあげますけどっ。
「ズ、ズッくん。おおく、ない、です?」
「ん? 今回はたくさんの人に迷惑かけたから。お礼は別にするけど、一応お土産も渡そうかと思って。あと、これ平田さんに」
渡された物はお土産ショップのシールで閉じられている小さな紙袋。
なんだろう?
あと、ズッくん前より話し方が変わった? かな? 気のせい?
「今回の班、僕がズルして平田さんを巻き込んだからそのお詫び。これで許してとは言わないけど、受け取って貰えたら嬉しい」
だからそんなこと気付いていましたよ?
だって、幸介様がクラスの迷惑になるのに、あんなに時間をかけてクジの箱が後ろから見えないように、そう、まるで隠すように引いていたのですから。
普通に考えてあり得ませんよ。
間違いなく何か細工しているって。
莉子は出来る女ですからね、すぐに閃きました。
でも――。
いいんですか?
貰えるなら貰っちゃいますよ?
莉子、友達からのプレゼントとか憧れていたのです。
もう返しませんからね?
やっぱ止めたとか言ったら、ガチオコですからね?
それで、中身はなんでしょうか?
ズッくんのセンス、気になって仕方ありません、私。
ハッッ!?
私……いえ、やめておきましょう……。
「あ、ありが、とう。でも、知って、い、ましたよ?」
「…………それも双眼鏡で?」
双眼鏡は便利アイテムですけど、万能アイテムではありませんよ?
勘違いしたらいけませんからね、ズッくん。
でも――。
「ち、ちが、います。で、も。エ、スカレーターで、ごめんなさい」
「平田さんは何も気にしないで大丈夫だよ。僕が悪いんだから。それに……えっと、平田さん? どうしたの?」
すみません、すみません。
シャツを引っ張り、話を遮ったりしてすみません。
莉子がシャツを引いても可愛くないのは分かっています。
でも面と向かって言うには恥ずかしいので耳を貸してください。
たくさん荷物を持っていて、中腰になるの大変だと思いますが、これくらい許して。
でもですね、莉子はズッくんから謝罪の言葉を聞きたい訳ではないのです。
「それでも私は、ズッくんと天使様と同じ班になれて本当に嬉しかったんです。だから、謝らないでくださいね? いいですか? よく聞いてください。私は知っていて、好きで巻き込まれたのです。勘違いしないでくださいね? 分かりましたか? おかげで、いっぱいの思い出が出来たんですから。巻き込んでくれてありがとう、ズッくん」
息継ぎもしないで、一気に話したせいで呼吸が……。
でも――。
「……ありがとう平田さん。僕も平田さんと同じ班で本当に楽しかった。バスでは肩、というより頭も貸してくれて助かった」
うへへっ。
いいのです。莉子も恋人気分が味わえて楽しかったですから。
まぁ、寝ていたからよく覚えていませんが。
誰かあの写真送ってくれないですかね……。
そうだ、グループのアルバム機能を使って、みんなで撮った写真を投稿すればいいかもしれません。
莉子は冴えてます。
メプリなんてリア充のためのアプリだと思っていましたが便利ですね。
インストールした日に全ての機能を調べつくしたのですよ、莉子は。
でも、そろそろ――。
遠くから視線を感じるのでそろそろ撤退した方がいいかもしれません。
怖くて振り向けないっっ!!
「平田さん、1ついいですか?」
「はい?」
撤退しようと思ったのに、手首を掴まれてしまいました。
思わず素で聞き返してしまったじゃないですかッ。
莉子は早くこの場から逃げたいのです。
話なら早く!!
あと、手首!
手首の辺りがチリチリします。
「美海のことは天使様と呼ばないであげて」
「む、無理」
そんなの考えるまでもなく一択のみです。
「即答か。でも美海が嫌がるから。それに美海なら、平田さんが名前で呼んでくれた方が喜んでくれると思うよ? あと、平田さんにはお世話になったし、もしも今後平田さんが何か困ることがあったら相談して。大して力にはなれないけど、全力は出すから」
えっと、それなら一生友達でいてほしいな……なんて。
さすがにちょっと重いかもしれませんね。
あと莉子程度の人間にもなれない人間みたいな存在が、天使様を名前で呼ぶなんて出来ません。おこがましくて……。
あとあとあと、今はここから立ち去らせてください!!!!
すぐ後ろまで迫ってきています。今が一番困っています!!
困っているのは今なのですよ、ズッくん!!
莉子は今、痙攣しているかのように足がガクブルですから!!!!
「わ、わかった、から、手――」
「八千代くん、女の子の手首を無理矢理掴んだらダメだよ?」
お、遅かった~~~~。
ズッくんめ。キッ! て、見ると。
ズッくんときたら莉子の顔を見て『じゃあ、約束だ』。そう言ってから、天使様に向かって顎をクイッとさせてきました。
え……ていうか今ので約束が結ばれたの?
あ、莉子が分かったって了承したからですね、なるほど。
つまり名前を呼べと……。
莉子のズッ友強引じゃないですか?
ま、いいですけど。
仕方のない人ですね。
はいはい、わかりましたよ。
友達の頼みですからね。たくっ。
「み、美海ちゃん。お、おみ、やげ……い、一緒に、みよ?」
ふは……………………………………尊い……………………………………。
眩しい、直視できない――――。
笑顔が天使過ぎて――。
眼球シャター?
脳内フィルム?
が、焼き切れてしまいましたよ。
莉子の人生まだまだ長いのに、目が不自由になってしまいます。
でも、この笑顔が見れたのなら……。
――我が人生に一片の悔い無し。
いえ、嘘です。
まだまだ悔いもやりたいこともたくさん残っています。
ズッ友だって放っておけません。
それと、なにか知らないけど、困っていたら助けてくれるみたいですし?
勿体ないじゃないですか?
せっかくの約束ですからね、有効に使ってあげないと。
ふんっ。
でも、今は――。
すみません、美海ちゃん。
手、握らないでください。
莉子は手汗すごいんです~~~~。
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