第67話 振って振られて……これも青春
ズッくんと別れてすぐ、2階大水槽トンネルに来たけど、
今はまだお昼の時間だからか一般客はチラホラいるけど名花高校生の姿は見えない。
誰か知り合いが来る前に色々終わらせたい。
振る姿も、振られる姿も見られて気持ちのいいことじゃないしな。
「はぁ……」
初恋だったんだけどな。初恋が叶わないってのは本当だったのか。
俺自身、悪くない見た目だし女子からの人気もそこそこあるから、ワンちゃん狙えると思っていたけど……。
俺の軽い気持ちなんて届くはずもなかったんだろうな。
重ければいいってことでもないと思うが、きっと俺はズッくんの引き立て役に過ぎなかったのかもな。
「引き立て役になれたかも怪しいが……」
振られる前から傷心にさせられ、自傷気味に呟いたが。
「それにしてもよ、ズッくん。鈍感はお前もだって――」
『幸せになってほしい人』か――。
あれは誰が聞いても『恋』だって気付く。
いや、もしかしたら『愛』なのかもしれない。
聞かされていた俺が恥ずかしくなったけど、一目瞭然に分からされた。
どうして、自分の気持ちに気付かないのか不思議だけど――。
ズッくんにも色々あるんだろうな。
ズッくんは自分で『僕はこんなんだから』。そう言った。
気付けない理由がそこにあるのだろう。
あの時俺は、自分の恋が散ったと自覚した以上に、胸が締め付けられ苦しく感じた。
そんな友情キャラじゃないんだけどな……。
本当は話を聞いた後に、頭を叩くくらいはしてやるつもりだった。
それで――。
「これで許してやるよ」
とか格好つけたこと言って、漫画みたいな展開を想像していた。
でも、あんなに真剣に、正直に、自分の気持ちを教えてくれたズッくんの頭を叩くことなんて俺には出来なかった。
絶対に言いたくなかったはず。
溜息が出るくらいにズッくんは誠実だった。
本当の所、ズッくんが短期間で無理して変わろうとしている理由が分からない。
自分のためだと言ってたが、きっと上近江さんのためにズッくんは変わっている最中なんだ。
俺らの班だけでなくクラスのみんなや、他のクラス。
それに先輩たちとも頑張って交流をしている。
大きなハンデを持っている中、あんな一生懸命に……。
自分をよく思わない人に声を掛けるのって、想像でしか分からないけど尋常じゃない決意とか覚悟がないと無理だ。少なくとも俺には出来ない。
俺の上近江さんに対しての気持ちだって、憧れではあるけど本気だった。
そう思っていたけど。
ズッくんを見てたら、思った以上に『ストン』と、諦めがついてしまった。
だから俺の本気はその程度だったのかもしれない。
てか、なんで『ズッくん』なんだっけ。
変なあだ名だけど、妙にしっくりきて笑えてくるな。
平田さんも話してみたら面白い人だったし、本当にいい班に巡り合えた気がする。
ちょっと都合がいいくらいに…………。
え…………この班もズッくんが何かして決めたのか?
いや、まさかな――でも、ないとは言い切れない。
ズッくんの本気度に身震いのような痙攣をさせていると、前から歩いてくる涼ちゃんの姿が見えて来た。
気が重いけど、思いを断る時間が来たようだ――。
「悪い……ごめん。待たせちゃった?」
「いや、普段のように話してくれていいぜ? 頑張ってる姿は可愛いけど」
「なっッ――!? まぁ、そっちのが楽だし、そうさせてもらうわ。んでさ……」
涼ちゃんは時間を掛けて迷ったりせず、涼ちゃんらしくハッキリと簡潔に告白をしてくれた。
本当にこう言ったところに、性格が出るなと思えてくる。
涼ちゃんは多少口が悪いところがあるけど、趣味が同じで話も合う。
ズッくんはよく『天邪鬼』と言っているけど、そんなことはない。
純粋で素直だし、お洒落で顔だって可愛いし。
スタイルだって抜群にいい。
だから、俺には勿体ないくらいに素敵な女性。
中途半端ことはしたくない。
「ごめん。俺、上近江さんが好きなんだ」
「そんなの知ってる。でもどうせ振られるだろ? だったら考えてくれよ?」
いや、本当のことだけどストレートすぎて傷付くわ。
分かっているけどさ。
「涼ちゃんは話が合って可愛いし付き合えたら幸せかもしれない」
「だったら――」
「だからこそ。だからこそ中途半端にしたくない」
「…………」
こえ~。めっちゃ睨んでくる。
それ、好きな人に向ける目付きじゃないよ。
「あたし、順平と八千代が『男の話』とかなんとか格好つけた風にしてる間で上近江さんに謝罪したんだよ。八つ当たりしてごめんって。そしたら、逆に謝ってきてさ。おかしくねーか? どんだけいい子ちゃんだよって。それに、あの笑顔は可愛すぎて反則だろ。男なら惚れるの分かったよ、あの時。で、そのあと――」
「えっと、そのあと?」
突然なんの話かと思ったけど、2人が仲直り出来たなら何よりだ。
俺のせいで上近江さんが傷付けられるのは勘弁してもらいたいからな。
「八千代の話をした時に出た笑顔が一番可愛かったんだよ。平田なんてその場で平伏してたからな? 笑っちまうけど」
「お、おう――」
見たかった。
上近江さんの笑顔も平田さんの平伏も。
ズッくんの話で最高の笑顔になるのは、まだ複雑だけど。
「だから順平は振られる。八千代……ズッくんが言ってた大切な人はどう考えたって上近江さんだから。で、それは上近江さんも同じ」
ズッくんの大切な人、涼ちゃんも気付いていたか。まあ、近くにいたら気付くか。
あと、やっぱり上近江さんも同じかぁ。
じゃないと説明がつかないもんな……。
それにしても2人はいつから仲がよかったんだ?
つかよ、ズッくん。
3年の大槻先輩だろ?
それに義兄妹とはいえ隣のクラスの
そして上近江さん。
うちの学校の有名人がみんなズッくんに集まっている……。
学校の男子泣くぞ?
さりげなく涼ちゃんがズッくんを友達認定しているし。
なんかちょっとむかついてきたな。
「おい、んで、どうなんだよ。告白の返事は?」
「今は付き合う事は出来ない。俺、このあと上近江さんに告白するし」
「あ、そ。じゃ、明日また告白するから、放課後あけといて」
「え? 話聞いて――」
「いいからとっとと振られてこいっての!! もう来てるッ」
涼ちゃんが指さす方を見ると、上近江さんが待っていてくれている。
ズッくん手配早すぎだよ。
でもやっぱり上近江さんは相変わらず可愛い。
ああ、俺今からあの子に告白して振られるのか……。
「りょ――」
上近江さんから涼ちゃんに視線を戻すが、すでに居ない。
立つ鳥跡を濁さずといった感じに、涼ちゃんはいつの間にか離れていた。
あ、上近江さんと反対側にいるズッくんに蹴りを入れてる。
さてはズッくん何か余計な事言ったな。
あと、涼ちゃんは女の子なんだからスカートとかに気を付けてほしいな。
まあ、今の俺にはそんなこと言える資格ないけど――。
「えっと、関くん。お話ってなんだろ?」
きょとんって首を傾げている。可愛いかよ。
たったこれだけのことで、心臓が跳ねたことを自覚する。
俺はこの人を幸せにしたい――。
とは、思えないな。可愛いとは思うけど、俺はそれ以外何も知らない。
知ろうともしなかった。
つまりそれは――。
憧れかな、この気持ちは。
「呼び出してごめ……来てくれてありがとう。ストレートに言うけどさ、好きです。付き合ってください」
特に驚くような表情も困ったような表情もしていない。
俺の告白は、上近江さんの心にサザ波を立たせることすら出来なかったのだろう。
「告白してくれてありがとう。気持ちは嬉しかったよ。でも、ごめんなさい。付き合う事は出来ません」
「一応、理由を聞いてもいい?」
「関くんが悪い訳じゃないんだけどね、私はその……誰かを好きになるって分からないの。だから、そんな中途半端な気持ちで誰かと付き合う。器用じゃない私にはそれが出来ないからかな」
敵わない訳だな。
理由は違うけどズッくんと同じこと言っているよ。
2人揃ってにぶちんだよ。
俺のこと、鈍感だってバカにしてたくせに。
まあ、予定通り振られたわけだし、ズッくんにソフトクリームでも奢ってもらいに行くか。
「教えてくれてありがとう。でも、これからは友達でお願いしてもいい? すっぱり諦めるから」
「うん、こちらこそよろしくねっ! でも、関くんはちゃんと『ありがとう』って言えるからすぐに私より良い人が見つかると思うよ」
「ははは。それさ、ズッくんに教えてもらってから言うようにしているんだ。だからズッくんのおかげかな」
「……そうなの? こ、八千代くんは誤解されやすいけどいい所たくさんあるもんねっ! 納得!!」
なるほど、なるほど。
上近江さんがたまに言う『こ』の正体は、『郡』の『こ』だったのか。
あと、涼ちゃんが言っていた最高の笑顔はこれか。
可愛すぎて、どうにもならんわ。
「最初はどうなるか不安だったけど、関くんやみんなのおかげで凄く楽しくて、思い出に残るバス旅行になったよ。ありがとう」
ズッくんのやり方は、決していいやり方ではなかったかもしれない。
けど、結果が全てだからな。
「全部ズッくんのおかげだから、お礼ならズッくんに言ってあげて」
良い格好見せたくて立候補したけど。
俺、班長なのに何もしていないし。計画とか全部ズッくん任せだったかんな。
ズッくんも上近江さんから言われたら喜ぶだろうし、これくらいいいだろう。
上近江さんは不思議そうな表情で、
「関くんまで八千代くんのおかげって言うんだ……」
ボソッと呟いたあと、
どうやら、涼ちゃんや平田さんにも俺と同じことを言われようだ。
ズッくんなんてバス旅行でしたことを問い詰められてしまえばいいさ。
それだけのことをしたんだから。
はぁ――。
とりあえず、ズッくんにソフトクリームを奢ってもらってから、お土産売場に行くとしますか。
「これも全部いい思い出か」
振られた後とは思えない、スッキリとした表情でズッくんの元に向かったのだ。
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