第31話 古町美緒

 毎日、毎日――よくもまぁ、教室がこんなに乱れるのか。

 ため息が出そうになるのを、何とか抑え込み今日も机と椅子を整理する。

 私が受け持ったクラスは1年Aクラス。教師になり初めての担当クラス。

 生徒たちは、まだまだ子供でやんちゃな子が多い。

 そんなクラスに妹のように思っている美海がいるから心配になってしまう。

 美海は不器用で、私や美空みたいに要領がよくない。

 もしかすると、高校生活は苦労をするかもしれない。

 厳しく、だけど甘くも見守って行こう――。


「古町先生、おはようございます」


 生徒の1人である『八千代郡』君だ。

 彼は、毎朝早くから登校してくる。

 最近、里の店でアルバイトを始めた縁で、多少ですが家庭の事情も聞いている。

 その際に無表情の理由も教えてくれた。

 生活態度も良好、優等生と言っても差し支えないだろう。

 そのため、美海の次に気に掛けている生徒でもある。


「おはようございます。八千代君。今日も早いですね」


 彼は自分の席に荷物を置くと、何も言わずに机の整理を手伝ってくれる。

 初めは私の仕事だと言って断っていたが『僕が気持ち悪いので』と逆に断られてしまった。

 それからは、言葉に甘えて毎朝手伝ってもらっている。

 すると――。


「古町先生は何かと忙しいでしょうから、明日からは僕1人でやりますよ」


「何を言いますか。そこまで甘える訳にはいきません」


「はい。ですから、その代わりに僕が何か困っていたら助けて下さい。出来る範囲でいいので」


 私に気を使い、そう言っていることなどすぐ分かった。

 悩ましいですが――。提案に乗ることも一興かもしれません。

 彼が、本当に何かあった時に手を差し伸べる理由として使う事も出来る。

 教師というものは様々な制約がありますし、それに彼は面倒そうな性格の持ち主にも見えます。

 何か理由を与えてあげなければ、行動出来ないようにも見えます。

 朝の貴重な時間の有効活用。

 私としても、いい話なので提案に乗らせてもらいましょう。


「ふむ。では、お願いしましょうか。八千代君の願いも約束しましょう」


「はい、頼りにしています」


 約束を交わしてからの日々は、大きな問題も起きず私だけが利益を得ていたある日。


『美緒~、大変!! ちょっと問題発生!! 郡がうちの店辞めちゃうかもしれない!! あの子いないと大変なことになっちゃうし、彼も心配だから学校での様子教えて!!』


 里からメッセージが届いたのだ。

 あの先輩は昔から色々なことをやらかしてくれる。

 最近は落ち着いていたと思っていたのに、今度は私の生徒を巻き込むのか。

 退院したら説教ですね、でも今は『了』のひと言だけ返事をしておきましょう。


 問題と言われても、彼に話を聞かない限り分からない。

 少なくとも今日までの様子では分からなかった。

 明日の朝、教室に顔を出すことにしましょう。

 もし困っているようなら、つもりに積もっている利益の利子だけでも返すことができるかもしれない。


 朝、学校に到着して職員室に荷物を置いてから教室へ行くと、すでに彼は教室にいた。

 相変わらず朝が早い。

 彼に声を掛け、互いに挨拶を交わしてから何か困っていることがあるかを聞いてみる。

 すると――。


「少し事情がありまして、昨日店長のお店を退職したんです」


 真面目な彼がこんなにも急にアルバイトを辞めることは、あまり考えられない。

 きっと、お騒がせな先輩が何か迷惑を掛けたのでしょう。

 彼は里を庇ってか否定していますが、里には確認必須ですね。

 それにしても、昨日の今日で次のアルバイト先が決まっているのは驚きです。

 彼には感心することばかりですね。


「そうですか。ですが、里には確認だけしておきます。アルバイト先が変わったならば、アルバイト申請書を提出しなければなりません。後ほどお持ちしますね。ちなみに次はどちらで?」


「縁がありまして……上近江さんのお姉さんのお店でアルバイトをすることになりました。勘違いかもしれませんが、古町先生は上近江さんのお姉さんともお知り合いだったりしますか?」


 なんと――。

 どのような縁で、あの姉妹の店でアルバイトすることになるのか。

 学校で美海と彼が話している姿は見掛けたことがありません。

 それに、美海からは何も聞いていない。

 驚きましたし気にもなりますが、今は彼への質問に答えないといけませんね。

 生徒にプライベートについて教えることは、あまり良いことではないかもしれませんが彼ならいいでしょう。

 あの美空が、男性従業員お断りなのに彼をアルバイトとして認めたのです。


 ふむ――。

 この後の予定を聞くと彼は図書室に行くつもりだと言う。

 それなら職員室に着いて来てもらった方がいいですね。

 そこでアルバイト申請書と一緒に、図書室の鍵を渡してしまいましょう。


 鍵を受け取った彼の表情が変わる事はありませんが、どことなく嬉しそうにしていることが分かる。

 図書室に彼が行ったら、美海は驚くかもしれないけど、まぁ、大丈夫でしょう。

 カメラの存在も伝えたし、何より彼なら問題は起こさない。そう確信しています。


 ないとは思いますが、美海が着替えていたりしたら大変です。

 2人のためにも少しだけカメラを覗いてみましょう――。

 ふむ。美海には珍しく漫画本を手にしている。

 彼が近くに来ていることには気付かないほど夢中に読んでいる。


「これは後で美海に怒られるかもしれませんね」


 仕事を終わらせた帰路の途中、仲良く手を繋ぎながら歩いている馴染みの姉妹と出くわす。

 案の定『美緒さん!!』と、図書室の鍵について怒られてしまったが――。


「そんなに怒るとは。では明日、八千代君に謝罪をしてから返却してもらうことにします」


 こうは言ったが、彼は何も問題を起こしていないのです。

 ですからそんな理不尽な真似など出来ようもありません。

 すると――。


「それは……いい。大丈夫」


「ほう。理由を聞いても?」


「……八千代くんならいい」


「何故です?」


 意地悪だと思いつつ美海の返事待つが――。


「いえ、結構。意地悪なことを言いました。許してください、美海。すみませんでした」


 むくれた美海を見て、意地悪してしまったことを反省して謝罪する。

 優しい美海はすぐに許してくれましたがぼそっと。


 ――意地悪なのは八千代くんでお腹いっぱいだよ。


 と、耳に届いてきたけど聞こえないふりをする。

 何か言ってしまったら、今度こそ本気で怒られてしまう気がしますからね。

 私は美海にとって良い姉でありたい。

 その後は、姉妹2人と一緒に同じアパートまで帰り、夕飯を馳走になり次の日を迎える。


「古町先生、おはようございます。アルバイト申請書を持ってきたので、確認お願いいたします」


 八千代君に挨拶を返して申請書を預かる。

 彼はいつも書類等の提出が早い。とてもしっかりしている。

 すると、昨日鍵を渡してからすぐに図書室に言った(行った)ことを言われた。

 きっと、美海が居たことについて私から説明が欲しいのでしょう。


 説明してあげてもいいですが、生憎と今日は、朝の職員会議の準備があって忙しい。

 彼は、何かを察したのか、もしくは周りに居る先生を気にしたかは不明ですが、私に問いただすことを諦めて、職員室を後に図書室へ向かって行った。


 会議の準備が整い、少しだけ手が空く。

 何の気なしに図書室のカメラを確認すると、美海は大胆にも八千代君に抱き着いているではありませんか。これはいけません。2人はまだ高校生なのです。

 注意しなければなりません……いえ、私が古いのでしょうか? 悩ましいところです。

 ですがそうですね。

 美海が誰かに積極的になっている姿を見ることが出来たのは嬉しいことでもあります。

 ここはやんわり注意しつつ、応援する方向で行きましょう。


 会議を終わらせ教室へ行くと、美海の姿が見えない。

 そのことを確認すると同時に、佐藤女子生徒からも私と同じ疑問を投げ掛けられる。

 今朝、八千代君と図書室にいたことを確認しているため学校に居ることは間違いない。

 であるなら、一緒に居た八千代君に確認するしかない。

 そう考え、八千代君を見るが彼も知らないのか小さく首を振っている。

 何か合ったのかもしれない。そう心配すると同時に教室の扉が開いた。


「すみません。遅くなりました。美緒さ……古町先生、おはようございます」


 美海が遅刻したのは初めてですし、遅れたと言っても1分程です。

 今回は大目にみましょう。ですが、学校で美緒さんと呼ぶことは許しません。


 仕切り直してホームルームを始めるが……今度は八千代君、貴方ですか。

 普段はしっかりと前を向き話に耳を寄せている八千代君が、今は下を向き、机の下で何かをしているではありませんか。

 慣れない行動のせいか、携帯を操作していることが見て分かります。

 溜息をつきたくなる衝動をグッと我慢して、ゆっくりと静かに彼に近付き――。


「八千代君。昼休みに職員室にきなさい。それまで携帯は私が預かりましょう」


 真面目で優等生な彼が、ルール違反したことには何か理由があるのでしょう。

 察するに、美海が遅れてきた理由とも関係があるはずです。

 美海には休み時間にでも聞き出しますが、彼にも確認をしないといけません。

 携帯没収は丁度いいかもしれませんね。


 予定通り、美海からは休み時間に個別で。八千代君からは昼食で聞き出しましたが――。

 結果的に、お互い様でしょうね。

 八千代君としては、過去や内面に深く関わることですから1つ間違えれば、取り返しのつかない傷を負わせてしまうかもしれません。


 ですが、心配無用です。美海なら大丈夫。

 必ず過去を受け止めてくれるはずです。自信をもって断言します。

 過去を告白することで、彼はもちろん。美海にとっても前に進めるきっかけになるとさえ思えます。

 気付いていないでしょうが、2人は互いの影響ですでに変わりつつあるのです。

 きっかけとして、私はほんの少しだけ背中を押すだけでいい。

 携帯を手に取り、美空に一報を入れましょう――。


『失礼、美空。今よろしいですか?』


『大丈夫だけど、どうしたの美緒ちゃん? さっきの件?』


 美海から話を聞いた午前中、メールで八千代君の出勤について質問していたのです。

 すぐに聞いきたということは、美空も気になっていたのでしょう。


『まだ分かりませんが、今日のパーティーで八千代君をお連れするかもしれません』


『……いいけど、理由は?』


 彼と話をする時間が必要です。


『八千代君と美海。2人のためです』


『どうゆうこと?』


 時間はありませんが、簡単に説明しておいた方がいいかもしれませんね。


『今日2人の間に問題が起きました。先延ばしにしてもいいことはありませんので、今日中に解決した方が無難でしょう。いえ……今日、2人が話さないと間違いなく拗れます。美海も、八千代君も』


『詳しく教えてちょうだい』


 昼休みも残り僅か、要点のみを簡潔に説明する。

 八千代君の過去については彼のプライベートですから、いくら相手が美空だと言っても私から話していいことではありません。ですが、概ね説明出来たはずです。


 放課後、予定では一度帰宅してから着替えるつもりでしたが……初子ういこの頼みで、学校でドレスに着替えるはめになってしまいました。

 私には、生徒に見られたら騒ぎになると自覚があります。ですから断りました。

 ですが――。

 事前に相談もせず八千代君に図書室の鍵を預けたことに対して言われてしまえば、断ることなど出来なかったのです。

 八千代君とは、校門前で待ち合わせなければよかったです。失敗でした――。


 運転に不慣れとは言え、生徒の命を預かるのですから安全運転を心掛けます。

 内心ドキドキさせながら、無事に美空から頼まれていた日本酒も受け取りました。

 多少強引になりましたが、彼を誕生日パーティーに誘うことも叶いました。

 ここまでは順調そのものと言っても差し支えないでしょう。


 ドライブ中、少ない時間でしたが彼のことも知れました。

 自分に自信がないのですね。否定されてきた人生ですから仕方ないのかもしれません。

 ですが、素直で正直な性格の持ち主です。生来持ち合わせていたのでしょう。

 これで表情が豊かなら……いえ、よしておきましょうか――。


 エスコートする側でしたら、何度か経験もありますが、他者に身を委ねエスコートされるのは貴重な体験でした。ましてや男性……最初で最後の体験かもしれませんね。

 感想としては、比べる事は難しいですが見事なものでした――。


 パーティー自体はつつがなく進行して行き、美空と美海が用意してくれた料理に舌鼓を打ち、八千代君が振る舞ってくれた絶品の出汁巻き玉子も堪能させてもらいました。


 何やら美空はお酒に酔ったふりして、八千代君に枝垂れ掛かっておりますね。

 どのような思惑が……ふむ、なるほど。

 やきもちを妬く美海が可愛いからそのようなことを……では私も――。


 結果、美海を怒らせてしまいました。

 きっかけを作った私と美空が悪いですが、八千代君の言葉が大きな原因でしょう。

 あの様子では割と本気で頭にきているかもしれませんね。


 八千代君に追わせましたが、しばらくしても戻って来ないです。

 料理も運ばれてきません。

 心配になり、美空とこっそりキッチンを覗くと――。


「どうですか、上近江さん?」


「美味しい……もっと」


 八千代君が美海に、多分出汁巻き玉子を食べさせている場面でした。


「おかわり」


「はい」


 結局、その調子で完食させています。な、何て尊い……あ、いえ。

 仲直り出来たことに安心して美空に声を掛けようと横を見ると、だらしのない顔をさせながら携帯で動画を撮っています。


 ――いつの間に。


 盗み見も褒められたものではありませんが、隠し撮りはさらに悪い。


「美空、後ほど私にも送って下さい」


 注意しようと思っていたことと違う言葉が口に出てしまいました。

 私も少し酔っているのかもしれません。


 その後は2人も交り、締めの料理とケーキを楽しみ、最後に4人で写真を撮りお開きとなりました。とてもいい写真です。

 学校で生徒や他の教員に見られたら面倒ですので出来ませんが、待ち受けにしたいくらいです。


 美海と八千代君、2人を見送り数分の時間が経過する。

 意味もなくお猪口ちょこを傾けていると――。


「美緒ちゃん、とっても楽しかったね」


「そうですね、美空。とても素敵な誕生日でした」


 互いに言葉は続かず、残り僅かな日本酒を飲みながら静かな時間が過ぎていく。

 普段は互いに口数が多いですが、私は美空と過ごす静かな時間も好きだと思っています。

 心地のいい時間が流れていて、昔から大切にしている時間でもあります。

 最後の日本酒を飲み切り、静かにお猪口を置くと――。


「郡くんを連れて来てくれて、ありがとう。美緒ちゃん」


「お節介で、彼には迷惑に思ったかもしれませんね」


 私のしたことが正解かどうかは分からない。でも、間違いでもなかったと思いたい。


「郡くんはそんなこと思わないよ。あの子びっくりするくらい賢いし」


「そうですね。自分のこと以外に関してはとても賢い子です」


 ――ふふふっ、確かにそうね。


 と、男性が見たらひと目で惚れてしまいそうな笑顔を浮かべている。

 ですが純粋な笑顔ではない。哀愁漂う笑顔かもしれない。


「美海ちゃんは、私のせい――」


「それは違いますよ。美空。いろいろな事が重なった結果です。自意識過剰も大概にしたほうがいい」


 途中で言葉を遮ったからか、唇を尖らせて『私、いじけています!!』と言っているかのようにアピールしてくる。

 が、それに触れたりはしません。


「美緒ちゃん、つめた~いっ!!」


「あの2人は大丈夫です。逆に私たちは、自分たちの心配をした方がいいかもしれません」


「うっッ、言わないでよぉ~……」


 胸を抑え倒れこむ様子を見せている。

 私と美空は2人揃って、男性には良い思い出がない。

 初子は高校卒業してすぐに交際していた彼と籍を入れた。

 里の能天気さを見習った方がいいのかもしれないと考えた事もあるけど、失敗している姿ばかり見ているからか、その考えはすぐに消え去った。


「郡くんみたいな人が同級生にいたら良かったのになぁ」


「そうしたら、私と美空はライバルだったかもしれませんね」


 ありえない妄想に笑いながら付き合う。


「えぇ~、『絶対王者の【牡丹ぼたん】』に敵いっこないじゃぁ~ん」


「うるさいですよ。『清楚な【桔梗ききょう】』」


 学生の時に付けられた、私たちにとっては不名誉なあだ名で呼び合うと、目を合わせ笑ってしまう。

 今年は美海とは別にもう1人、優れた器量を持つ女子生徒がいる。

 2年と3年にも1人ずつ、候補者となっても不思議でない生徒がいる。

 数年ぶりに4人の姫が、揃ってしまったということは――。


「ねぇ、美緒ちゃん? 30歳になってもお互い1人だったら一緒に住まない?」


「掃除は私がしますから、ご飯は美空がお願いしますね」


 美空は里ほどではないけど、整理整頓が苦手です。

 私は綺麗好きな性格もあり掃除は好きですが、料理はからっきしです。

 互いの苦手を補完し合う生活、それも美空となら楽しい生活が保障されています。

 今でもそれに近い生活ですが、そんな未来も有りだと考え前向きに返事をしました。


 そろそろ――。

 美空とでしたら、どれだけ話しても話題が尽きることはありませんがいい頃合いです。


「美空、そろそろ片付けして帰りましょう。私も手伝います」


「はーい。美緒ちゃんお願いします」


 テーブルの上を綺麗にして食器やごみを持ちキッチンへ移動するが、片付けがしやすいように整っております。


「八千代君ですね。素晴らしい――」


 姉に似て美海も整理整頓が得意でない。

 つまり消去法で八千代君が整えてくれたと言うことになります。

 ここでも彼に感心させられてから、手早く済ませて美空と一緒に帰宅する。


 部屋に明かりが点いていない。

 ということは、2人は現在も話している最中ということでしょう。


「まだ美海ちゃん帰っていないのかぁ……美緒ちゃんもう少し飲まない?」


「明日も仕事ですが……まぁ、いいでしょう。私も少々飲み足りないと思っていました」


 私の部屋で飲み直すことを決めましたが、美空は一度部屋に戻るようです。


「美空、どうして置手紙をしたのですか? 何か伝言があればメールでも何でもありましょう」


「真剣な話をしている最中だったら、無粋じゃない?」


 なるほど、確かにその通りです。


「ちなみに何て置手紙を書いたのですか?」


「んー……はいっ」


 どうして写真を撮ったかは不明ですが、指摘せず拝見するが――。


『美海ちゃん、郡くんへ。郡くんのことだから、きっと美海ちゃんを送り届けてくれているから2人一緒だよね? 私は美緒ちゃんの部屋に泊まりますので2人で夜をお過ごしください。あ~あ。妬けちゃうなぁ。 2人のお姉ちゃんより』


 書いてある内容に呆れてしまう。


「美空。2人はまだ高校生です。それに、八千代君は紳士ですから女子の部屋に上がり込んだりしないでしょう」


「でも、月曜日に美海ちゃんを送ってくれた時に一度上がっているよ? 2人で私のためにカレー作ってくれただけだけど」


 なんですと。明日八千代君に事実確認をしないといけませんね。

 すると、タイミング良く八千代君から美空へショートメールが届き、嬉しそうに笑う美空から画面を見せられる。

 内容は今日のお礼。それと無断で部屋に上がったことへ謝罪。

 明かりが点いていたけど私たちの気配がないから、用心して中を確認したと書かれている。ふむ、やはり律儀ですね。

 それに――。


『帰宅するから美海を1人にしないであげてください』


 些細な変化かもしれませんが、『美海』ですか。

 どうやら、2人はしっかり話し合う事が出来たようですね。

 その証拠に、美空も嬉しそうに彼へ返事をしている。


 月曜日に上がり込んだことについては、不問と致しましょう。


「美空、今日はお開きです」


「は~い。残念だけど、郡くんの頼みだからね」


 彼の願いも無事達成です。

 美空を玄関まで見送り、就寝の準備を整え、とこにつく。


「今日は本当にいい誕生日でした」


 一生忘れることない誕生日となりました。

 最後に4人で撮った写真を見てから、余韻に浸り眠りにつく――。

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