第10話 これって僕の学生証?
お姉さんとは、アルバイト勤務の条件をまだ時給に関してしか話せていないが、諸々の条件に付いては連絡先を交換して後日また話せば十分だろう。
そう考え、
「
早く退席しようと思い一気に喋る。
同時に連絡先を書くのにメモ帳と財布を取り出すためカバンに手を伸ばすが――。
「えっとね、
「えっと……」
僕も関係しているとは思っていなかったので、言い淀んでしまう。
だけどまあ、関係があるなら聞かない訳にもいかないだろう。
それに――。
嫌な気持ちにさせてしまうかもしれないと気遣ってくれることは嬉しいが、僕なんかのことで
「ふふっ、お代わり淹れちゃうわね」
「はい、ありがとうございます。僕は時間も平気なので、
お姉さんがコーヒーを淹れ始めたところで、関係について少し考えてみるが。
もしかしたら今日の帰り道、僕と
ここまでは予想がついたけれども――。
「えっとね、何て説明したらいいか……簡単に言うと、2人でいる所をクラスの男子に見られたみたいなの。あ、でも、私のことは分かったみたいだけれど、相手が
僕らを見た人は佐藤さんじゃなくてクラスメイトだったか。
それと、効果のほどは分からないが私服に着替えておいて良かったかもしれない。
「やはりそうでしたか……すみません、
僕の言葉を聞いた
「私は今日……学校にいる時より自然に笑えていた自分に驚いたの。それだけ
「
「少し悲しかっただけだから。私もごめんね」
悲しませてしまったことにも反省をしないといけない。
次に、大切な妹である
それはもう、ニコニコと。
どうして嬉しそうにしているのか全く分からない。
「はい、2人とも。コーヒーどうぞ。一口飲んで落ち着けたら、
「お姉ちゃん……コーヒーありがとう――――っふわあ~……クッキーも美味しいよ、
「怒らせてしまったかと思いました。コーヒーとクッキーいただきます」
嬉しそうにしていた理由までは教えてくれないようだが、クッキーはとても美味しかったので『美味しいです』と2人に伝える。
一服したおかげで、和やかな空気に戻り
曰く、実際に
――
と、友達に言ったことで、佐藤さんにまで話が伝わって来たとのこと。
1時間も経たずして広がる情報網に驚いてしまうが、まあ、確かに。
お洒落とは違う普通の眼鏡を掛けて、髪も特別セットしている訳でもいないし、前髪も少し重たい。背だって男子の中では低いから、自分でもパッとしない男だと思う。
そして佐藤さんだが、
それでやっと繋がり、無事なことを確認出来た安心感からか『パッとしない男』『迷惑な男じゃないんだよね』『え、彼氏なの?』と何度も聞いてきたと。
『
こう言われ、つい言い返してしまったと。
『
多分こんなことを言って電話を切ってしまったということだ。
きっと、普段の
そんな
だけど
自身の考えや思いを伝えながら、最後にはしっかりお礼を伝えてから電話を切っているところが、
決めつけかもしれないが、
今頃は反省して、落ち込んでいるかもしれない。
だとしたら、後はお互いに素直になって、思いを話し合えば仲直りはすぐだと考えられるが、僕がこの喧嘩のきっかけでもあるため、どうやって切り出そうか悩んでいると。
「ん~、
悪気なさそうな顔で言うが、お姉さんと同じで僕もそう思うため頷いておく。
「…………お姉ちゃん??」
少しふてくされた顔をしている。
言わなくてよかった。
「ふふふっ、そんな可愛い顔しないの、
「っっ! お姉ちゃんっっっッ!!」
「ということで、
「はい?」
急で驚いたし、何が『ということで』なのかが分からない。
「お店は明日もお休みだから、また明日お時間もらってもいい? 色々準備したいし、詳しくは明日改めて話すということで連絡先交換しましょう」
とりあえず、言われるがまま携帯を出して連絡先を交換する。
僕もただ、流れに乗っているだけだ。
急な展開でまだ頭が追いついていないため、このまま流れに乗り続ける。
「明日、学校終わった後はそのまま来ても大丈夫ですか? 一度連絡してからの方がいいでしょうか?」
「そのまま来ても大丈夫だよ。でも、
「……お姉ちゃん、どうして
佐藤さんと電話していたから、事の経緯が分からない
僕がアルバイトとして雇われたことは、
「そうだね。その説明と
「……はい、わかりました。でも、間違えている可能性もありますよ?」
「大丈夫よ。その時は私が訂正するから。じゃあ、今日はここまで。人通りの少ない裏道を使ったら家まで5分だから、
裏道なら人に見られる心配も少ないだろうし、僕としては家まで送るのは何も問題がない。
外も少し暗くなり始めてきているし、
そう考えこっそり
「……
なるほど、問題ないと。
もう少し危機感を抱いた方がいいと思うが余計なお世話かもしれない――。
「はい、僕でよければ話ながら送らせてもらいます。では、お姉さんまた明日お願いします。今日はありがとうございました。あと、ご馳走様でした」
柔和な笑顔で見送るお姉さんから、『また後でね』って聞こえた気がするが、帰るだけなのだから気のせいだろう。
それにしても、お姉さんには振り回されっぱなしだったな。
でも何だろう……豊かな表情で感情を表す
ぷんすかした表情から、僕を見てニコニコした表情に切り替わっている
「
シトラスの香りが移った、僕の物とは思えない良い匂いがする学生証が戻ってきたことで、帰路に就いたのだ――。
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