第32話 再会

「ふぅ~やっと着いた~」


「だね。本当に長かったよ」


 満員電車での格闘(精神)を終えて僕たちは街のほうに繰り出していた。

 海ちゃんの要望通りにぶらぶら歩くためにここに来た。


「じゃあさっそくそこら辺を歩こう!会ってなかった期間のこととか話してさ」


「わかったよ。まあ、いろんなことがあったな」


「とりあえず、どうやって藤音さんと付き合えたのか教えてよ!」


「え~まあいいけど」


 海ちゃんは少し押し気味に聞いてきた。

 紫苑との馴れ初めか。

 自分で思い返してみても衝撃的だったかもしれない。


「え~とね」


 そこからは茜のことも含めて海ちゃんにいろいろ話した。

 紫苑との出会い。

 最初はあの家がごみ屋敷だったこと。

 紫苑の家に住むようになった経緯。

 話してみて思うけどやっぱり僕と紫苑の関係性は都合が良すぎると思う。

 良いように言えば運命。

 悪く言えば、誰かに仕込まれているような。

 いや、これは考え過ぎかな。


「なんか、海くんってもしかしてラブコメ主人公だったりするの?」


「まさか、そんなことないよ。でも、確かにそう言われてもおかしくないような出会い方ではあるよね」


「うん。でも、あんなに完璧に見えた藤音さんがまさかそんな感じだとは思わなかったけどね」


「僕はいつもの紫苑に慣れてるから逆に海ちゃんといたときの紫苑は少し新鮮だったな」


「そうなの?でも、あんなにいい彼女はほとんど現れないかもね~」


「だね。僕もそう思ってる。だから紫苑に捨てられない限り離れる気はないよ?だからごめんね海ちゃん」


「謝らないでよ!まだ私あきらめてないんだから!」


「そっかごめんね」


 隣を歩く海ちゃんが噛みついてくる。

 勿論比喩だけど。


「来年覚悟しときなね!絶対に振り向かせてやるんだから」


「まあ、ありえないだろうけど頑張ってね」


「ありえない言うな!!!!」


 街中を少しじゃれあいながら歩く。

 紫苑以外とこういう事をするのは初めてだけど妹とこんな感じなのかなという感覚になる。


「でも、僕を振り向かせる云々より先に海ちゃんは受験を頑張らないとね?」


「今、その話は聞きたくなかったな~でも、そうだね。海くんを振り向かせるためにも絶対に合格しないとね」


 ガッツポーズをしながら海ちゃんは気合を入れていた。

 振り向くつもりはないけど海ちゃんには頑張ってほしい。

 知り合いが受験を落ちて悲しんでいるところなんて見たくもない。


「それよりもあそこのカフェ入ろ!」


「はいはい」


 テンション高めで僕の腕を引っ張っていく。

 海ちゃんにはよく腕を引っ張られている気がする。


 ◇


「今日はありがとうね」


「いえいえ。僕も久しぶりに海ちゃんと遊べて楽しかったよ」


「え!?じゃあ結婚する?」


「しない。僕は紫苑と結婚する」


「はぁ~ぞっこんですな~」


「良いだろ別に。どうやって帰るんだ?」


「そろそろお母さんが迎えに来るからそれでって感じかな」


「気をつけて帰れよ?あと勉強をするようにってことと僕以外の男を見つけてくれ」


「最後の奴以外はわかった!」


 出来れば最後の奴を一番やってほしいんだけどな。

 まあ、これ以上言っても海ちゃんは聞かないだろうし何よりこれ以上言っても海ちゃんを不快にさせるだけだからもう言わないけどさ。


「はいはい。じゃあまたね海ちゃん」


「うん。今度は高校でかな?」


「頑張ってね」


 そう言い残して手を振ってその場を後にする。

 久しぶりに実家の前まで来たけどここはあんまり変わらないな。

 まあ、数か月でそう変わらないとは思うけどさ。


「早く帰らないと紫苑が怒るな」


 そう思って家のほうに歩を速めた。


「海星、、、」


 そんな時、一番聞きたくなかった声が聞こえてきた。

 聞き覚えがあるいや、聞き覚えしかない。


「、、、、茜か」


「久しぶりだね。元気にしてた?」


「まあな。それじゃ」


 足早にその場を去ろうとする。

 でも、どうやら簡単には返してくれないらしい。


「待って!」


 金輪際関わらないでって言ったはずなんだけどな。


「なんだよ」


「えっと、あの時は本当にごめんなさい。それに付き合ってからのこともずっと海星に酷いことしちゃって」


「別にもういいよ。それだけなら僕はもう行くけど」


「うん、ごめんね話しかけちゃって」


「気にすんな。僕のほうも金輪際関わるなとか言って悪かったよ。普通に話しかけてくるくらいならいいから。幼馴染だし」


「ありがとう」


 昔の茜との変わりようにびっくりしてそんなことを言ってしまったけどまあいいだろう。

 別に害があるわけでもないだろうしさ。

 そう考えて僕は家に向かうのだった。

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