第30話 明日デートね?

「はいっ上がり~」


「海ちゃん強くない?」


「これで三連続上がりですよ!?」


 僕たちは普通にUNOをしていた。


「えへへ~私カードゲームは強いんだ~」


「にしても強すぎだろ」


「本当にそうですよ!おかしいくらいですよ!」


 紫苑は机から乗り出して抗議をしていた。

 先ほどから三連敗をしているのだから当然なのだろうか?

 意外と負けず嫌いな紫苑はもう一回と海ちゃんにせがんでいる。


「まあ、全然良いですけど次は何かを賭けましょうよ!」


「何かって何ですか?」


「そうですね~一位の人が三位の人に何でも命令できるっていうのはどうですか?もちろん常識の範囲内で」


 海ちゃんは楽しそうにニコニコしながらそう提案してきた。

 今までの勝率を考えると絶対に挑むべきではない勝負なんだろうけど負けず嫌いな紫苑はそんなことを考える前に即断で勝負を受けてしまった。


「紫苑、いいの?」


「はい。私が勝ちますので」


 自信満々でそういってのけたけど不安しかない。

 胸を張っている姿は可愛いと思うけどさすがに今回は分が悪い気がする。


「じゃあ、海くんも参加ね!」


「え!?僕も?」


「当たり前じゃん。私と藤音さんが賭けてるのに海くんだけやらないなんて通るわけないでしょ?」


「そうだよ。海星。何より勝てばいいだけの話でしょ?」


 2人して詰め寄ってくる。

 はぁ、どうやら逃がしてはくれないらしい。


「わかったよ。僕も参加する。一位が三位に常識の範囲内で命令をする。これであってるか?」


「うん。絶対一位になるからね!」


「今度こそ、負けない!」


 海ちゃんは楽しそうに笑いながら紫苑はリベンジに燃えながら四回目のUNOが始まった。


「おい!二人して僕を狙ってきてないか?」


「そうかな~?」


「ごめんね海星。私は海星に命令したいの」


 2人して僕を狙い撃ちしてきている。

 正確に言えばドロー系のカードをずっと喰らっている。


「またドロー4!?これで僕14枚目だぞ?」


「えへへ~海くんこれは上がれないんじゃないかな?」


「くそっ」


 カードの束を見つめる。

 一つもドロー系のカードがない。

 2人のカードは互いに二枚ずつ。

 どちらが上がるのかわからない。


「UNO!今回は勝たしてもらいますよ?」


「え!?藤音さんあと一枚じゃん!?」


「僕出せないや」


 2人が接戦を繰り広げている中僕は完全に蚊帳の外だった。


「私もUNO!」


「くっ出せない」


 悔しそうな顔をしながら紫苑が山札からカードを一枚とる。


「また出せない」


 え?これなにか仕込まれてる?

 全く出せないんだけど?

 ここまでくると僕最下位確定じゃんか。

 まあ、2人が出すくらいの命令を聞くくらいならいいんだけどさ。


「はい!上がり~」


 僕がカードを引くと同時に海ちゃんが上がった。


「そんな、、、」


 紫苑がガックシとうなだれてる。

 これで四連敗。

 いや、まだ最下位が確定していないから四連敗にはならないのか?

 このままだと僕が最下位濃厚だし。


「、、、出せない」


 ここまでくるとすがすがしい。

 この後は特に何もなく僕が永遠にカードを引き続けて紫苑が普通に上がった。

 最終的に僕はカードを二十枚持って終わった。


「はい!というわけで私が海くんに命令できるんだね?」


「まあ、約束だしな」


 すごくうれしそうに飛び跳ねてる。

 ん?

 揺れてる?

 いやいやいや、そんなことを考えるな。

 従妹をそんな目で見たらだめだろう。

 彼女もいるっていうのに。

 心頭滅却。


「やった!じゃあ明日私とデートして?」


「「えええ!?」」


 声が重なる。

 隣に座っていた紫苑も口をあけてぽかんとしていた。


「さすがにそれはだめなんじゃないかな?」


「え~でも、常識の範囲内ですよ?別にキスしてとか藤音さんと別れて付き合ってとかでもないですし」


「でも、、、」


 確かに常識の範囲内かどうかで言ったら範囲内な気がする。

 紫苑が嫌がるのはわかるけど勝負をしてしまった以上僕に拒否権はない。


「明日だけですよ。それに明日私帰っちゃいますし一日くらいいいじゃないですか」


「む~」


 紫苑はかなり不服そうな顔をしている。

 というか、生徒会長モードが崩れかかってる。

 嫌なんだろけど紫苑の性格上約束を守るんだろうけどかなり葛藤していた。


「というわけで海くん。明日9時に駅前で待ち合わせね!」


「わかったよ。負けちゃったしね」


 素直に両手を上げて降参ポーズをとる。

 海ちゃんは一度言いだすと聞かないし何より勝負で決まったことだからここでうじうじいうのはよろしくない。

 紫苑も同じことを考えているのか何も言ってこないけど目が怒っているので今日はしっかりかまってあげないといけない。


「そういうわけで今日は帰るね~」


「もう帰るの?」


「うん。ちょっとこの後用事あるし。明日楽しみにしてるね~」


 そういって海ちゃんは家から出て行った。

 足取りがとても軽かったため相当楽しみにしていることがうかがえる。


「本当嵐みたいな子だな」


「そうだね」


「紫苑怒ってる?」


「怒ってはない。けど、ちょっともやもやする」


「でも、僕は紫苑しか見て無いよ?」


「それでも不安なものは不安なの!それにさっき海星、星乃さんの胸見てたし」


「え!?」


 バレてた!?

 ほんの一瞬ちらっと見てただけなのに?

 女性は視線に敏感って聞くけどまさかこんなに敏感なものなのか?


「やっぱり」


「ごめんなさい」


「別に謝ってほしいわけじゃないけど、やっぱり海星は胸が大きい人のほうが好きなの?」


 紫苑が僕を押し倒しながらそんなことを聞いてくる。

 今までにない積極的な行動に心臓の鼓動が速くなる。

 近いしいいにおいするし可愛いし、、、、、、、、、、


「いや、そういうわけじゃないけど」


「じゃあなんで見てたの?」


 両肩を掴まれて完全に押し倒される。

 抵抗すれば簡単に押しのけることはできるけどそんなことはしたくない。

 でも、このままじゃ僕の理性が限界を迎えるし。

 一体どうすればいいんだ!


「それはその男の性といいますか」


「私の胸じゃ不満?」


 ちょっと!?

 当たってます。

 とても柔らかいものが当たってます!?

 紫苑がさらに前傾姿勢になって胸を押し付けてくる。

 本当に不味い。

 何がとは言わないけど不味い。


「そんなことはないけど、いったん離れてくれないかな?」


「なんで?海星は私とこうしているのは嫌?」


「もちろん嫌じゃないけど、ちょっといろいろ辛いといいますか、」


「いいよ。私は」


 紫苑は完全に僕の体に密着しながら耳元でささやいてきた。


「え?」


「私は海星とそういうことしてもいいよ?」


 耳元でささやかれる言葉はとても魅力的な言葉だ。

 でも、僕は。


「ごめん紫苑。それはできない」


「なんで、」


 ショックを受けたように泣き出しそうな声で紫苑が言葉を発した。

 申し訳ないと思ったけどこういう所の線引きは重要だと思う。


「もちろん紫苑とそういうことをしたくないってことじゃない。正直な話をすれば全然したい。でも、僕はまだその行動に対して責任を取ることができない。だから、そういうことは僕がしっかり自立していろんなことに責任が取れるようになってからしたい。紫苑が大切だから軽率な行動で紫苑を傷つけたくないんだ」


 僕は紫苑の背中に手をまわしながら僕の考えを口にする。

 大切だから傷つけたくない。

 チキンといわれるかもしれないけどこの考えは変わらない。


「海星」


「だから紫苑。僕は君以外に興味なんてないし心変わりするつもりもない。海ちゃんに何度告白されても断るし他の誰が相手でもそうする。だから心配しないで」


 背中をさすりながら紫苑をなだめる。

 僕が紫苑以外を選ぶことなんて天地がひっくり帰ってもあり得ない。

 そんなときが訪れるならばそれは僕が死ぬ時だ。


「うん。ごめんね海星いきなりこんなことして」


「別に謝ることじゃないよ。紫苑とくっつくのは嫌じゃないんだけど、僕の理性が持たないというか、ね?」


 正直あぶなかった。

 このまま密着され続けたら勢いに任せて、、、

 なんてこともあったかもしれない。

 僕だって男子高校生だ。

 もちろんそういう欲はある。

 でも、考え無しにそういう事をしてしまったら取り返しのつかないことになるかもしれない。

 だからこそ軽率な行動は控えるべきなのだ。


「わかった。今度から気を付けるね?」


「別に気をつける必要はないんだけどね」


 僕が我慢すればいいだけの話だし。


「うんしょっと」


 紫苑は僕の上から退いてくれる。

 心臓は未だに早鐘を打ってるけどしばらくすれば落ち着いてくれるだろう。

 でも、これくらいはしてもいいか。


「へ!?」


 油断している紫苑の唇にそっと自分の唇を触れさせる。

 前にキスして以来一回もしてなかったから今回は僕からすることにした。

 前紫苑にされたときは不意打ちだったからその仕返しも込めて。


「な、なななんでいきなりキスするの?」


「紫苑が可愛かったから」


「なにそれ!?」


 紫苑は顔を真っ赤にしてあたふたしている。

 キスよりも大胆なことをしようとしていたのに。


「僕は紫苑しか好きじゃないっていう証明。それにキス全くしてなかったからね」


「む~不意打ちなんてひどいよ~」


「それ紫苑が言う?」


「「あはは」」


 そんな会話で二人して笑いあった。

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